えー、この時期恒例ともなってきた移籍報道に一喜一憂する時期がやってきましたね皆さん(あいさつ)。
 
 主に放出の話がメインとなるのは寂しいですが、それはもう致し方ありません。なにせ我がサンフレッチェ広島は昨年99%減資を行なったチームなので、その後2億円の増資ができたものの、派手な補強も相変わらずできなければ大幅な年俸アップもできません。例え今季優勝しようと、育成型クラブであることに変わりはなく、奪う側奪われる側でいえば後者なのです。
 
 そういうことを踏まえまして、まずは先日サッカーダイジェスト誌で報じられた「高萩洋次郎、森脇良太、ミキッチに浦和がオファー」という話について。こちらは同じくSJに参加されているじゅにじゅに氏が懐疑的な発言をしておられますが


まあ、ミシャ監督の戦術を浦和で確立するには戦術を体得している広島の選手を持ってくるのが手っ取り早いのはわかりますが、浦和が欲しいのは広島のコピーではないし、そもそも浦和には大量補強するほどのお金はないでしょう。例え移籍金が0円だとしても、獲得できる選手は多くないと思います。「リストアップ」なんて何時でもしているだろうから嘘ではないんだろうけど。


何しろ今季で彼らの契約は切れるため移籍金ゼロ(昨年末のミシャ退任時に契約更新を保留したと思われる)なので、年俸分誰かを手放すことで解決できるわけで、浦和が取りに来ないはずはないだろうと個人的には思っています。
 
 ということで「裏は取れていないもののあり得る」という立場から、「このオファーはあった」という前提条件において思うところを述べます。別に、オファーが実在しないならしないで良いのです。しかし、ミシャが浦和に行った時点でこういうことは「あり得ること」なのであり、その際の態度を決めておいてソンはないと思います。


 以下、決して浦和を貶めてはいないのですが、第三者として「浦和に行くのはナシ」だと思うところを述べます。正確には「広島のサッカーで成長を遂げた次のステップとして、ミシャの下に行くのは得策ではない」というところですが。
 

 ■1)ザッケローニの代表チームに入りづらい
 ■2)海外移籍のチャンスがなくなる
 ■3)ミシャがずっと浦和にいるとは限らない



 
 1つずつ述べてまいりましょう。


■1)ザッケローニの代表チームに入りづらい


 広島からコンスタントに選ばれているA代表選手は西川周作ただ1人です。水本裕貴が少しだけ、佐藤寿人はこないだ初めてザッケローニに招集されました。チームの屋台骨になっている森崎和幸、青山敏弘、高萩洋次郎、森脇良太らは当落線から下のほう、という扱いではないかと想像しています。


 その理由は幾つかあるでしょう。特に水本の場合は4バックではないため「ザッケローニのサッカーにフィットしない」部分があるでしょうが、他の選手に関しては端的に「個人で勝負できない」部分が大きいように思います。なぜそう考えるかと言いますと、広島だけでなく2位・仙台からも代表選手はゼロ、3位浦和からは槙野智章と柏木陽介がやはり当落線上にいるということで。
 
「個人で勝負できない」という言葉を「プレーインテンシティの高い環境で結果を残していない」に置き換えてもいいです。1トップ、3シャドー、ボランチ、センターバック、サイドバック、ゴールキーパー、いずれも海外組がメインです。国内で有力でありながら選ばれていない選手は多いです。なぜ選ばれないのかというと、最近の試合でいえば「フランスやブラジルと渡りあえるのか」というところではないかと。


 サンフレッチェ(≒ミシャ)のサッカーは、守備時に5−4−1、攻撃時に4−1−5になる特殊なシステムで、2008年に森崎和幸などの提案を受けてミシャがアレンジするなど(当時は2トップでプレーしていた)、広島の選手たちの個性とすりあわせた結果生まれたものです。広島オリジンのシステムであり、ゆえにシャドーにせよ1トップにせよ両ワイドにせよ広島の選手が最も輝くようなやり方を取っています。


 個人では勝負できないが足元の技術は高い選手たちが、ピッチ上に小さなトライアングルと大きなトライアングルを無数に作り、ピッチ全体を縦に横に伸縮させながら相手のブロックを綻びを生み、ボールをさらして食いつかせ、ズレを生み、そこを素早く突く。
 
 ただ、この思想でやっているチームは日本では少ないですし、世界でもそう多くありません。そして、このサッカーを習得したならば、「個のチカラ」を問われるケースが少なくなります。それは、「個のチカラ」で勝負する海外組がスタメンの大半を占め、監督自身も海外移籍を推奨するザッケローニ監督のA代表においてはディスアドバンテージになり得ます。「組織で崩す」のと「個人で崩す」、あるいは「組織で守る」「個人で守る、これを両方できなければ今の代表には食い込めません。
 
 高萩洋次郎は本田圭佑や香川真司と同レベルかそれ以上に行かなければ、森脇良太や槙野智章は4バックで吉田麻也と今野泰幸を上回るか、3バックにせよ相手を潰せる強さを持てるか、柏木陽介は遠藤保仁と同じレベルで組み立てできるか長谷部誠と同じレベルで連続性を持って相手を潰して攻撃参加できるか、そういうレベルに達しているか否かという面でシビアに評価されているのだと思います。
 
 ミシャサッカーにおいて、今名前を挙げた選手たちはスターです。しかし代表ではそうではない。浦和に移籍するということは、「浦和ではスターになれるが……」という状態が続くということです。ペトロビッチがザッケローニ後の代表監督になるなら事情は異なるでしょうが、現時点では代表入りが難しいままではないかと思います。


■2)海外移籍のチャンスがなくなる


 上記の通りミシャサッカーは特殊ですので、システムに生かされている部分と守られている部分とがあります。
 
 例えばセンターバック。広島のシステムでは相手をマンツーマンで潰さなくても良く、5バックとボランチがリトリートしてブロックを作るため数的同数や数的不利に陥りにくく、つまり個人で勝てなくてもカバーリングがあり、サイドを破られても中に枚数を割くことで守れている部分があります。


 しかし海外ではしばしば周囲がカバーリングなどしてくれず、ドイツなどでも顕著ですが「ここはお前が受け持つエリアだ、突破されたらお前の責任だ」という考え方になります。また、そうでなくても相手を潰してくれる選手とそうでない選手でどちらが頼りにされるかは言うまでもないでしょう。「戦術的に洗練されていない」という言い方はできるでしょうが、「個人の責任の幅が広く、強烈に個のチカラを問われる」という現実の前にそうした物言いは無力でしょう。
 
 槙野智章は、ケルン移籍からわずか1年で浦和へ移籍しました。彼はケルンでほとんど出場機会を得られませんでしたが、その理由は広島時代から続く守備の1対1の弱さ、ビルドアップ能力の低さ(≠足元の技術)にあったことは、広島時代のプレーぶりから容易に推測できます。
 
 同様に、森脇良太も決して1対1が強いわけではなく(だいぶ改善されたとはいえ、抜かれてペナルティエリア付近で手を使って相手を倒すクセもあった)、つまりこのサッカーでしか輝けない状態にすでに陥っているように思います。


 重要なのは、高萩洋次郎にせよ森脇良太にせよすでに26歳であるということです。海外移籍に挑戦するギリギリの年齢をすでに超えていて、香川や本田や長友のように輝くことは難しいでしょう。しかし広島の選手として輝いた後で向かう先が「広島オリジン」であるミシャの下、というのは、なんというか非常に保守的な結論に思えます。


 組織に守られるのではない裸の個人が問われる環境に、一度でいいから身を投じて、それから判断してもらえないかなと思っています。その上で、槙野のように通用しなかったことを潔く認めて1年で国内に戻ってくるのも良いのではと思います。残念なことではありますが。


■3)ミシャがずっと浦和にいるとは限らない


 浦和はこのように高萩洋次郎、森脇良太、ミキッチという3選手を獲得するという話が出るなど、明らかに「育成」よりも「補強」に軸足を移しているように思えます。
 
 浦和にとっては、彼らが加入する分、例えば山田直輝や濱田水輝といった選手の出場機会が少なくなる可能性があります(すでにケガをしているなど、出場機会は多くありませんが)。エスクデロ・セルヒオ、高橋峻希はレンタル移籍しており、小島秀仁や矢島慎也といった選手たちもそれほど多く出場機会を得られていません。そして彼らの前に誰が立ちはだかっているのかというと、生え抜きではない阿部勇樹や柏木陽介、永田充といった選手たちです。「選手を育てて伸ばす」ことを容認してもらえる環境に、いまの浦和はないと推測できます。


 となると、ミシャは「結果を出すために」存在することになり、ワーストケースとしては「選手の育成という部分に手を付けないまま、結果を残せないため退任」ということがあり得るのではないかと思います(あくまでワーストケースの話なので、浦和サポの方で気を悪くされた方はすみませんが)。
 
「浦和にとって、ミシャがベストの監督ではないのでは」という意見は、複数の浦和サポから聞いた意見でもあります。彼らはミシャの能力を認めていないわけではもちろんなく、選手育成の手腕も認めていますが、「育成しながら結果を残す」という困難なミッションを何年も許してくれるほどビッグクラブたる浦和は悠長なクラブではない、というところではないかと思います。
 
 もしミシャが退任となった時、広島の個性を持つ選手たちはどうなるか。次の監督の動向次第では、ベンチ送りになるということも容易に考えられます。その間プレーする場はJ1であり、柏木陽介や槙野智章が大きく伸びていない現状、アンダー代表の主力からA代表の当落線上に落ち着いた現状は変わらないということです。


 もろもろ勘案すると、広島から浦和に移籍することで確実に得られるのは「金銭上の待遇アップ」は間違いなくあり、「移動距離の少なさ」であり、「国内タイトル」かもしれません。しかしそれと選手としてのキャリアアップはイコールとはいえず、広島で長いシーズンを過ごした後にさらに浦和で数シーズンを過ごすことで、「ドメスティックな人材」としての評価が固定化することは避けられないのでは、と思います。
 
 何度も言いますが、浦和を貶めているわけでも、ミシャを貶めているわけでもありません。A代表で求められるレベルが高くなり、高くなるということはシンプルになり、つまり「個の強さ」になってきているという現状を考えると、そもそも国内移籍という考え方はキャリアアップにはなりにくい。それが現状ではないか、と思います。