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●市場環境に合わせててこ入れ
人気アーティストを多数抱えるエイベックスが、旅行業に進出。畑違いの分野に突如進出したかのようにもみえる今回の子会社設立は、エンタメビジネスの新潮流となりうるか。

○設立する子会社は観光旅行業

エイベックス・グループ・ホールディングス(以下エイベックス)が設立したのは旅行業などを行う新しい子会社「エイベックス・トラベル・クリエイティヴ」)。100%子会社で、従業員は4人、資本金は8000万円となる。

子会社設立の目的は、体験型のエンターテインメントへのニーズが今後も高まることが予想される中、エイベックスが保有するコンテンツやライブプラットフォームを活用し、エンターテインメントに付随する観光旅行ビジネスのチャンスを積極的に取り込むため、としている。ではなぜ今なのか。

○減収減益だった2016年3月期連結決算

エイベックスの2016年3月期の通期連結決算は、売上高1541億円(前年比8. 9%減)、営業利益が72億円(前年比16.1%減)、経常利益60億円(前年比29.7%減)、当期純利益は42億円(前年比28.2%減)だった。

151億円の減収。映像事業で映像配信会員数の増加や「おそ松さん」のヒットなどが19億円の増収要因となったものの、音楽事業で、アルバム販売数が減少したことなどで64億円、ライブ事業では95億円の減収となったことによる。ライブ事業は、東方神起のメンバーが兵役にはいったことなどによって大規模会場での公演数が減少、それに伴い観客動員数が減少し、チケット単価も減少したことが起因している。

2017年3月期の予想は連結で、売上高1550億円、営業利益60億、経常利益50億円、当期純利益23億円と増収減益を見込んでいる。セグメント別にみると、マネジメント・ライヴ事業が530億円で、前年比4.9%の減少、営業利益は10億円で、31.6%減の予想とマネジメント/ライブ事業が全体の足を引っ張る予想になっている。

●ライブを中心とした着地型観光を狙う
エイベックスとしては、同社をとりまく市場全体は成長しているものの、自社は中期経営計画の計画通りに進捗しておらず、市場の成長を取り込みきれていないとの認識なのだ。

○音楽市場は縮小傾向だが、ライブ・アニメ・デジタル市場は右肩あがり

具体的にはエイベックスの売上高内訳で最も大きいボリュームを占める音楽(ソフト・配信)事業は、市場全体として縮小傾向。2007年からの10年間でおよそ35%も減少している。しかしライブ、デジタル、アニメ市場は全体として、成長市場となっている。

そのため、5月に発表した同グループの成長戦略では、成長が見込めるライブ・アニメ・デジタル領域に注力し、2020年の事業規模を連結売上2500億円までもっていくことを描いている。

注目すべきは、同社の売上高で音楽事業に次ぐボリュームがあるライブ市場。ライブ市場全体は、3年連続で2桁成長を遂げ、2015年には、4年前のおよそ2倍まで市場が拡大している。

同社業績予想では最も減少幅が大きかった事業だが、もっと伸びしろが期待できる市場なのだ。

○ライブ市場とその周辺ビジネスに商機

エイベックスは日本有数のライブ事業者としてのノウハウと外部連携をテコに、伸び行くライブ市場とその周辺市場を収益性にこだわりながら取り込んでいくとしている。そのために、海外の大型フェスを開催したり、ミュージカルのコンテンツを拡大したりする。この中のひとつとして、今回の子会社立ち上げがある。

○ライブによる“人の流れ”を取り込む狙い

具体的には、コンサートの観覧チケット付きの旅行プランを企画、アーティストとタイアップしたご当地のお土産品などを販売するといった、ライブにより発生する“人の流れ”を取り込むため、移動・宿泊ビジネスを考えているそうだ。旅行商品の販売はウェブサイト上で行う予定。現在は観光庁に第1種旅行業の登録を申請しており、登録が完了したのち、営業を開始するとしている。まずは国内旅行からスタートする構想だという。

訪日外国人観光客が増加傾向であることはいうまでもないが、リピーターの増加などから、外国人観光客の消費動向が「モノからコト」にシフトしている中、「エンタメ×観光」は当然の流れといえる。

ご当地アイドルや、ご当地キャラクターといったコンテンツの魅力を観光に利用する例は、地方発の取り組みや、「各コンテンツ×各自治体」のタイアップといった形が多い。エンターテインメント業界のトップ企業が乗り出すことで、どのような地殻変動が起きるか、これからの展開に注目したい。

(冨岡久美子)