詐欺グループの若年化が進んでいる

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 詐欺事件に関与する人間の低年齢化が著しい。

 2014年2月に発表された警察庁の統計では、昨年1年間、振り込め詐欺に関与した疑いで逮捕・書類送検された少年は262人。統計を取り始めた2009年の約8倍にものぼる結果となった。ちなみに最年少は中学2年生、14歳だ。 

 しかし、リアルな現場はもっと進んでいる。今回取材することができた振り込め詐欺グループの一員だという少年は、まだ小学6年生(12歳)だった。金森祐樹君(仮名)は現在、東京都内のある小学校に通っている。なぜ、振り込め詐欺グループに入ることになったのか?

「半年前、同小(おなしょう)だった、いま中2の先輩に呼び出されて、誘われたんです。カネ、めっちゃ欲しかったんで飛びつきました」

 ぱっと見は中学2、3年生。言葉遣いも大人びている。しかし、時折見せるあどけない笑顔は、やっぱり「児童」でしかない。

「タバコ、吸っていいすか?」

「これ、証拠っすよ(笑)」

 そう言いながら、祐樹君は学校名の書かれた児童手帳のようなものを見せてきた。

「区立○×小学校、かなり悪い学校で有名すよ。親や兄弟がヤクザとか半グレの人も多いし。タバコ、吸っていいすか?」

 祐樹君が属する詐欺グループは、都内某所のマンションの一室を拠点に、社債絡みの投資ネタを餌にした”振り込め詐欺”を行っている。ただ、”振り込め”とはいっても、実際の集金はもっぱら直で取りに行くのが最近のやり方だ。

 このグループは、暴力団につながる中堅の投資詐欺集団から派生した末端の新進グループと言える。リーダーとして束ねているのは18歳の元暴走族の少年。グループの人数は、指導役の幹部が2人、電話役の「掛け子」、カネを受け取りに行く「受け子」、それに「見張り役」などを合わせて15名ほどだという。掛け子は20代中心で、受け子と見張りは10代の少年が担っている。

詐欺グループに1人加入で2万円のボーナス

 祐樹君が語る。

「リーダーから、友だちをもっと、どんどん勧誘してこいっていわれてます。1人グループに入れれば2万円もらえるので、頑張ってスカウトしたいんすけど、アホな奴、入れちゃうと、あとで自分が責任取らされるんで、そんなに簡単じゃないっすよ」

 具体的にどんな「仕事」をしているのか? 

「平日は学校があるんで、夕方、事務所に顔出して、トイレ掃除したり、コンビニに弁当買いに行ったり、雑用すね。土日の昼間は、”受け”もやるし、見張りもやります。最初の頃は、めっちゃ緊張しましたけど、すぐに慣れました。俺ら小学生は”ボケ老人”専門なんで(笑)。仕事の連絡は、メールやラインは絶対に使うなと言われてます。受け取りに行く住所は全部紙のメモを渡されます。『終わったら捨てろ』って言われてますが、けっこう捨てるの忘れちゃうんですよね」 

 報酬はどんなものなのか。

「毎月3万円は保証されていて、あとは1回受け取りに行けば、その都度1万円もらえます」

 20代以上の一般的な受け子の場合、1回の「受け」で搾取額の1割バックが相場といわれる。通常、30万円〜50万円前後だろう。そういう意味では、祐樹君の報酬はあまりに安い。表面だけ見れば、子どもが奴隷のように低賃金でコキ使われている、と思われても仕方ないだろう。

 ある詐欺グループの幹部もいう。

「ガキを使う理由は3つある。ひとつは、人件費が安く済むってこと。2つめは、素直。大人は平気でカネ持って逃げるからな。ガキのほうがよっぽど信用できる。一発脅しておけば逃げないし、たまにほめてやれば、ますます張り切る(笑)。そして3つめだが、じいさん、ばあさんに警戒心や恐怖心を与えないってのがデカい。20歳過ぎて、受け子やるような奴なんて、たいてい見てくれが不良っぽいし、いかにも怪しいから。多少、若く見え過ぎても、スーツ着せて取りに行かせりゃ、ガキのほうが警戒されにくいんだ。とはいっても、名簿見て、”認知症マーク”がついてる老人にしか、さすがに小学生は派遣しないががね」

集金の場面を何度も何度も反復練習

 祐樹君は、さらにこんな“専門教育”も受けていた。

「多分、上の人だと思うんですけど、25歳位で、いつも高そうなスーツをびしっと着たGさんっていう人が週に1、2度事務所に来るんです。それで、2時間くらい、詐欺についての講習会やるんすよ。投資の仕組とか、いろんな詐欺の方法とか、株とか債権とかの基礎を教えてもらって、その後は実践編、カネの受け取り方とか、見張りのポイントとか、そういうのですね。1時間、Gさんの話を聞いて、あとの1時間は実技トレーニングです。実際にカネを受け取りに行ったときのやり取りを、何度も何度も練習させられるんですよ。学校の授業はいつも寝てますけど、こっちの授業はめっちゃ面白いし、すっごくタメになる。中高生のメンバーはけっこうボコボコにされたりしてるけど、俺にはないすね。みんな優しいですよ。自分はけっこうGさんにかわいがってもらってて、お前はセンスあるってよくいわれますね。そういわれると、やっぱり嬉しくて、もっと頑張ろうって気になるんすよ」

 それでは、お年寄りから多額のお金を巻き上げる仕事についてはどう思っているのか。罪悪感などはないのだろうか。

「Y君(リーダー)も、Gさんもよく言うんですけど、今の世の中が間違っているんです。カネを握ってるのは60歳以上のじいさん、ばあさん。俺らガキ世代には、ぜんぜん、カネが回ってこない。不公平じゃないすか? だから、老人から奪うしかない。悪いとか、ぜんぜん、思いませんよ」

 真っ白な子どもだけに、いとも簡単に大人たちに「洗脳」されてしまうようだ。最後に、祐樹君に将来の夢を聞いた。

「ヤクザとか不良とかへの憧れは、そんなにないです。ファッション的にはあるけど。なんか面倒臭そうだし。それよりも、はやく一人前になって、(詐欺の)事務所立ち上げて、カネ稼ぎまくりたい。何に使うのっていわれても、うーん、別に。てか、”カネは力”だってY君とかにいつも言われてるんで」

 言い終わると、祐樹君は3本目のマルボロライト・メンソールに火をつけ、大きく吸い込み、白い煙をゆっくりと鼻と口から吐き出した。

(取材・文/小林靖樹)