今夜地上波初放送「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」。全くもって謎だらけの問題作。上映当時は賛否両論起こりまくりでした。しかし不思議と多くの人に受け入れられ、高く評価され始められた理由の一つは、エヴァ旧劇場版の時とは違う、視聴環境の変化でした。

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今夜、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(以下・「Q」)と「巨神兵東京に現わる」がテレビ初登場です。
関東圏では旧劇場版の「DEATH」からはじまって、ついに「Q」まできたエヴァ祭り。17年を駆け抜けた感ありますね。

興行収入的には「エヴァンゲリオン」の映画ではトップの「Q」。
だが! 公開当時の賛否両論っぷりはすごかった。
ネタバレは避けつつ、映画放映時とその後のテンションの上がり下がりを思い出してみようと思います。
ポイントになるのは、同じ賛否両論でも、旧劇場版「Air/まごころを、君に」(以下・EoE)の時と状況が全く違う、ということです。

●高い映画評価と、ワースト映画としての評価
新劇場版「序」と「破」で、今までの「エヴァンゲリオン」の、うじうじ碇シンジ像を覆し、エンタテイメントになったと思いきや、急転直下どえらいことになった「Q」。
あまりの内容に、シンジ役の声優・緒方恵美があんまりにも落ち込んでしまい、渚カヲル役の声優・石田彰が心配してコーヒー入れてきたり肩もんだりしたくらい(「Q」パンフレットより)。

公開初日は「是か非か」以前に、「なんだこれは」という声が圧倒的に多かったです。
「破」の力強さは一切ない。「序」で大切にしていた90年代日本の空気もゼロ。「一体何が起きているのか分からない」感覚が観客を殴打し、困惑しかできない。
ミサトの組織ってなんなのよとか、セントラルドグマのアレは何かとか、エヴァ13号機の仕組みとか。まともに受け取っていいのかどうかすらわからない。

正確なピアノの連弾シーンをはじめ、映像的に見るところは山ほどあります。
しかしガジェットやキャラクターはほとんど説明されておらず、前後のつながりがわかりづらい展開がとても多いです。
4連作のうちの1作ですから、これだけで評価はできません。にしても観客に不親切。
あっちもこっちもツッコミどころだらけ。わざと穴をあけているかのように感じられます。

かくして、数々の映画賞を取る一方で、『映画秘宝』のワースト映画ランキング「HIHOはくさいアワード」3位を取るという、両極端な評価の作品になりました。
褒めている人の声を見ても「これが万人に受け入れられるものではない」「手放しで絶賛していいわけではない」と感じているようです。

正直、「勘弁してくれ」と悩まされるエヴァが戻ってきた感覚があり、「庵野また観客に挑戦状投げてきた!」とぼくは狂喜しました。それは罠だって?いいよ、踏むよ!
嬉しかった反面、「エヴァは一大産業化しているのに、手のひら返して大丈夫なのか?」と不安にもなりました。

●賛否の分散
それは完全に杞憂でした。
今もコンビニに行けばエヴァコラボが盛んに行われ、お茶の間の家族団らんエヴァンゲリオンです。

TV版最終回と「EoE」の時の賛否両論は、呪いのように今も多くの人を縛り付けています。
しかし「Q」の賛否両論は、割りとあっさりと流され、受け入れられました。
上映時の否定意見は発散され、今はほとんど表立っては見えません。

これには、作品の方向性のみならず、上映時の環境が大きく影響しています。
特に大きいのはインターネットの普及で情報が分散しているという部分。
賛と否、両方の声を、インターネットで簡単に発信することができますし、見ることができます。
2ちゃんねる、mixi、ブログ、Twitter、Facebook、pixivなどなど……。語りたかったらニコニコ生放送やUstreamを使えばいい。

TV版や「EoE」の時は、心にモヤモヤがあっても発信する場所がまだありませんでした。インターネットにつなぐハードルはとても高かったですし、クラスで語れる相手がいたとは限らない。コツコツノートにエヴァ読解を書きまとめ、雑誌を買い、同人誌を作り……。
今は、映画見たすぐあとに140文字で感想ツイートができます。みんながどんな反応をしているか、検索一発で如実にわかります。
不満意見も賞賛意見も、すぐ見つけられます。
なにより、みんなが見ている、仲間がいる事実に安心します。

もしインターネットがない時代に「Q」が放映されていたら……情報不足の中で、必死に謎解きをし続けていた気がします。
今は「Q」の謎も、一瞬でインターネットで共有できるし、みんなの意見をチェックできる。
エヴァは「衒学的(裏がありそうな演出をしているだけ)」だ、という庵野秀明の考え方も、検索すればすぐ出てきて理解できちゃう時代です。
ガチ考察も、メタ的解釈も、キャラ萌えも、トンデモ論もそこら中に転がっている。

●屈託なく遊べる土壌
「Q」は、序盤に登場する少女や、アスカ・マリのコンビプレイ(めっちゃかわいい!)、シンジとカヲルの連弾など、キャッチーな要素も兼ね備えています。
映画としての娯楽要素は満たされています。だから楽しもうと思えばいくらでも楽しめちゃう。

「Q」上映前は、まさに「破」のテンションが破裂寸前、早く次見せろ!というボルテージの中、数多くの企業がコラボレーションを行い、エヴァバブルを迎えていました。
UCCのエヴァ缶コーヒーはバカ売れし、ゲンドウはシックの髭剃りで笑顔でひげを剃り、エヴァ目薬は秋葉原で2500%アップの売上を記録。JRAのエヴァ馬券とか意味がわからないけど面白いからよし。
碇ゲンドウが笑顔でヒゲを剃っている理由。エヴァンゲリオンの販促力を検証 - エキレビ!

この盛り上がり、「Q」以降もしっかり続いています。
例えば「Q」の上映時、「モンテローザ×ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」というコラボでは、白木屋・魚民・笑笑などの飲み屋で「Q」のコースターやポスターがもらえるキャンペーンをやっていました。
このコラボでは綾波割というものが行われていました。劇場版エヴァ搭乗者と同姓同名なら割引、という……なんだそりゃー。
「※「アスカ」さんでも「ラングレー」さんでも、名前一致割引対象です。「アスカ・ラングレー」さんである必要はありません。(マリ・イラストリアスでも同様です)」
イラストリアスさんが日本に何人いるのか気になります。ちなみに「綾波」「式波」「真希波」は日本にはいないらしい。「綾波割」ってことはクローンなんですかね。
これを見た瞬間に、「Q」で混乱し、どう解釈すべきか悩んでいたぼくの脳みそは吹っ飛びました。
「エヴァ」は、遊び道具なんだ。

「エヴァコン」なんてのもあります。
「Q」のBD発売記念ではじまったこのイベントは、エヴァンゲリオン+街コンのコラボ企画。ようはエヴァ好きが集まって大規模合コンをやろう、食べたり飲んだりしよう、という明るく楽しいイベントです。参加した人のレポートを読むとわかりやすいです。
「エヴァ友を増やすのもよし、そこから恋に発展するのもよし、とにかくエヴァ好きで集まって仲間を増やそう!!」
うおお、膝から崩れ落ちるかと思った。
なあ、エヴァオフ会って、みんながエヴァについて愛を、苦しみを、悩みを、怒りを本気でぶつけあう場所なんじゃないのかい!? レイやアスカに本気で恋をしたこととか、最終回の葛藤を未だに抱えていることとか、死海文書関連書籍を必死に読み漁って知識をぶつけあうとか、他の庵野秀明作品から論じ合うとか、失楽園がどうのとかじゃないのかい!?!?
……ああ、違うわ。ぼくが間違っている。
そうだよ、エヴァをきっかけに友達や恋人ができる方がよっぽど健全だよ。
おじさんはATフィールドはってひきこもろうと思います。
「エヴァ女子会」というのも開かれました。
うーんおしゃれ。エヴァネイルかわいい。
とっても爽やかじゃないか。

ゲーム『パズルアンドドラゴンズ』でも、「ヱヴァQ」コラボが行われました。
ガチャでシンジ、アスカ、レイ、カヲル、マリが出る他、さらに強いキャラとして13号機と、ミサトのアレまで登場しました。
「Q」って誰かに話す時すっごく気を使ってネタバレ避けていたのですが、このコラボではあまりにオープンなことに衝撃を受けました。
もうここまでくると、「Q」の持っていた「謎」は全く意味を成さなくなります。

こういう広がりがどんどん出てくることにより、「Q」のショックは吸収・拡散。一方で「Q」が持っているエンタテイメント性がクローズアップされ、ファンの間の共通言語として評価されるようになりました。
そして今日の放送に向けての「エヴァ祭り」の盛り上がり。膨れっぱなしのエヴァバブルです。
これらすべて、ゲンドウのように計算済みだったとしたらすごいことです。

ところで、「鎌倉ぼんぼり祭2014」で、庵野秀明が出したぼんぼりにこんな文字が書かれていました。
『EVANGELION:3.0+1.0 etc.』 無在原点
わー!なんだよ気になるよ!
今までも「破」の前に、初号機覚醒絵が、「Q」の前には8号機絵が出ていたため、何らかの関係がありそうです。
果たして、今夜のエヴァ祭りのあとに、なんらかの情報があるのか、ないのか。
いやどっちだっていい、それでもやっぱり、エヴァが好きなだけ。
エヴァにあえて、よかったなと思うだけ。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』BD

(たまごまご)