10月15日、埼玉スタジアム。2026年W杯アジア最終予選(3次予選)で3連勝中の日本はオーストラリアを迎え、1−1で引き分けている。オウンゴールで先制されるも、途中出場の中村敬斗の奮闘で同点に追いつき、W杯出場へ着実に一歩を進めた。勝ち点を10に伸ばし、グループ首位を突っ走り、2位のオーストラリアに5ポイント差だ。

 新たに採用している3−4−2−1のシステムを用い、悲観する内容ではなかった。勝利を収めた前戦のサウジアラビア戦よりも攻撃的で、試合内容は改善されていた。ただ 相手枠内に打った際どいシュートはほとんどなく、一発を放り込まれて......。

 森保ジャパンの実状はどうなのか。久保建英のプレーと言葉からひも解いた。


オーストラリア戦に先発、後半25分までプレーした久保建英 photo by Kishimoto Tsutomu

 久保自身のプレーは、高いクオリティを保っていた。スペイン大手スポーツ紙の評価の形式だったら、星ふたつは与えられる。右サイドを中心に、彼がボールを持つことで相手を引きつけ、風穴を開けていた。

 前半6分、久保は右サイドから1対1で仕掛けてドリブルでえぐっていくと、エリアに入ってきた田中碧に預ける。田中はシュートにはいけなかったが、ディフェンスを揺さぶったあと、久保へリターン。久保は角度のないところからのシュートをニアサイドに打ち、惜しくも枠を外れた。

 これはひとつの攻撃パターンと言える。堂安律とのコンビネーションも含め、久保が右サイドでアドバンテージを取り、押し込んだあと、攻撃ポジションに入ってきたボランチやFW、逆サイドの選手に託す。これが厚みのある攻撃を生み出し、波状攻撃を可能にするのだ。

 サウジアラビア戦よりも攻撃が円滑になっていた理由は、久保が自ら仕掛け、揺さぶり、押し込むことで生まれた間合いにあったと言える(サウジアラビア戦の久保は先発を外れ、後半43分から出場)。

 サウジアラビア戦にシャドーで先発した鎌田大地は、日本最高のファンタジスタで、プレーメイカーである(個人的には、インサイドハーフで攻守の軸になってほしいところだが)。ただ、シャドーは仕掛けと俊敏さを求められる。鎌田はサウジアラビア戦で得点こそ決めたが、本来の力を出しきれていない。彼が生きるのは、3−4−2−1の場合、ボランチかもしれない......。

【「えぐったほうが相手は嫌だった」】

 久保はシャドーのポジションで、攻撃に活力を与えていた。裏に走ってバックラインからパスを引き出す。コントロールだけで相手を外して堂安にラストパス。縦に入ってクロスを入れ、相手のカットがGKにこぼれるシーンもあった。そして後半12分には、自陣でのインターセプトからのカウンター、久保は右サイドから左足でファーの南野拓実の頭にピンポイントで合わせた。

 左サイドの三笘薫とともに、久保が攻撃の軸になっていたのは間違いない。足りないのはゴールだけだった。

「もっとえぐってもよかったと思います」

 試合後の久保はそう自戒を込めて語っている。

「思った以上に崩しきれなかったし、危ないシュートも打てていない。縦(のスペース)をあれだけ空けてくれるから、クロスはいけましたけど、中央の3枚(のセンターバック)がいたので守りきられてしまった。5(バック)で引かれて、"中は切るけど、外はどうぞ"っていうイレギュラーな戦い方で......もっとえぐって侵入したほうが相手は嫌だったと思います。(オウンゴールを誘発した)中村選手のように」

 久保の解析どおりだろう。

 オーストラリアははなから"サッカーを捨てて"きた。5−4−1の編成は欧州や南米で「バスを置く」という古典的な守備固めで、専守防衛のバリケード戦術。攻撃はほぼ考えず、ゴールを守りきって、あとは天運に任せる。サッカーはミスがつきものだけに、それがオウンゴールに結びついたわけだが。

「(森保)監督も言っていましたが、落ち込むような内容じゃない」

 久保は言うが、そのとおりだろう。

「他人事のように聞こえるかもしれませんが、最後まで諦めない姿勢を見せられたのはよかったと思います。点を取られる展開じゃないところで失点して、(メンタル的に)落ちてもしょうがなかった。でも、しっかりと立て直し、同点に追いつけました。アジアからの出場枠は増えているし、次に生かせる戦いだったし、全勝が目標でもないんで」

 オーストラリアを攻め崩せなかったのは、ひとつの教訓と言える。ただ、追いついたことは収穫と言える。中村や伊東純也の投入に見られるように、終盤に格下を叩き潰せるだけの有力選手がいることを証明した。

 ただし、W杯本大会でここまで極端な守備戦術で戦ってくるチームはない。世界トップ10のチームは、むしろ日本を下に見て挑んでくる。戦いの構図は大きく変わるだろう。

 少なくとも、3−4−2−1が万能なわけではない。現時点では、強豪相手にはかなり懐疑的なシステムだと言える。高いレベルのシステム運用には、センターバックのボールを運ぶ力、ストライカーの決定力が必要で、攻撃姿勢を貫くべきところで"石橋を叩いて渡る"監督のキャラクターなど、不安なところも......。

 現状では、選手が所属クラブで切磋琢磨するしかないだろう。欧州のトップレベルでは毎回、その適応力が試される。チームを勝たせるパフォーマンスを見せられるか。

 10月19日、久保はレアル・ソシエダの選手として、チャンピオンズリーグにも出場しているジローナと対戦予定だ。