ステージ4のがん患者となったベテラン医療ジャーナリストが読者に伝えたいこととは――。長田昭二氏(59)は前立腺がんの治療を受けながら、執筆活動を続けている。では、その闘病と仕事のバランスはどのようなものなのか。

【画像】筆者はこれだけの薬を飲んでいる

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がん患者の日常生活とは?

 現状でも「だるさ」の出方は日によって異なるが、この数週間は、急ぎの仕事が無い日などはパソコンに向かってもまるで仕事にならない日もあった。

 たとえば、外出の予定のない日の典型的な僕のスケジュールはこんな感じだ。


長田昭二氏 ©文藝春秋

 朝6時半に起床。お風呂に入り、朝食をとり、合わせて5、6種類の薬を飲んだりする。

 午前9時から正午まで「午前の部」の原稿仕事。

 正午から午後2時まで昼食と昼寝。

 午後2時から6時まで「午後の部」の原稿仕事。

 午後6時から8時頃まで夕食と休息。

 午後8時から午前1時まで「夜の部」の原稿仕事(この時間帯が一番はかどる)。特に忙しい日はそのまま「深夜の部」に繋がっていくこともなくはないが、最近は年齢的に徹夜仕事はきついので、なるべく午前1時には切り上げるようにしている。

 基本的に土日祝日も休みはない。もちろん自分で休日を決められるので、遊びに行く予定があれば休みにするのだが、それでも貧乏性なので、「朝の2時間だけ」とか「夜寝る前に1時間だけ」など、原稿仕事をしてしまうことが少なくない。

 書く原稿は、長く続けている夕刊紙の連載や特集記事、雑誌やウェブサイト向けの医療記事、医療関係の専門書や一般書、他にも患者会の情報誌の連載など様々。

 原稿を書くだけでなく、その合間に取材や打ち合わせにも出かけるし、取材のアポイントを入れたり、ゲラを読んだり、書評記事を書くための本を読むなどの作業もある。

そんなわけで、日々何かと忙しい。

 加えて、いまの僕には絶対に外せない「通院」というスケジュールがある。

 いまは3週間に1度の化学療法、それとは別に不定期で整形外科と放射線治療科の受診があるので、平均すると月2回程度のペースで東海大学医学部付属病院に通っている。

 これも月によって差があり、放射線の照射となると、連続5日とか2週間とかで通院する必要が出て来る。新宿の自宅から神奈川県伊勢原市の病院まで1時間半、往復だけで3時間かかるので、病院滞在時間を入れると一日仕事になってしまう。

 3週間に一度投与する「カバジタキセル」は、好中球という白血球の仲間を抑制する副作用があり、放置すると感染症にかかりやすくなってしまう。そこで投与後1〜2日後にペグフィルグラスチム(商品名「ジーラスタ」)という注射をうつ必要があるのだ。

 最初はこの注射だけのために東海大学病院に行っていたが、たった1本の注射をうつために往復3時間の通院はあまりにも非効率なので、小路医師にお願いして、ジーラスタの投与のみ、自宅近くの内科医院で受けられるようにしてもらった。

 そんなわけで、日々何かと忙しい。

 自営業者にとって忙しいことは嬉しいことなのだが、この数週間、強いだるさを理由に「午前の部」か「夜の部」のいずれかを休まざるを得ないことがあり、ひどい時には「臨時休業」として終日を寝て過ごす日もあるのだ。

 しかし、寝て過ごしたからといってラクになるわけでもない。だるさ対策として処方されている漢方薬「補中益気湯」は毎朝飲んでいるが、いまのところ大きな効果を実感するには至っていない。

 とはいえ、前回までのPSAの下がり方を見てしまうと、ここでカバジタキセルを中断する勇気もない。これから秋に向けて仕事が忙しくなるだけに、“だるさ”の存在は不安だが、残された仕事を完遂するには、まず生存期間を延ばさなければならない。そもそも僕は、仕事をしないと収入が途絶えるので、医療も受けられなくなってしまうのだ。

※本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(僕の前立腺がんレポート第14回「がん細胞を“敵”として駆逐するか、“共存”を目指すべきか?」、初出:

長田昭二氏の本記事全文は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

 

■連載「僕の前立腺がんレポート」
第1回「医療ジャーナリストのがん闘病記」
第2回「がん転移を告知されて一番大変なのは『誰に伝え、誰に隠すか』だった」
第3回「抗がん剤を『休薬』したら筆者の身体に何が起きたか?」
第4回「“がん抑制遺伝子”が欠損したレアケースと判明…『転院』『治験』を受け入れるべきなのか」
第5回「抗がん剤は『演奏会が終るまで待ってほしい』 全身の骨に多発転移しても担当医に懇願した理由」
第6回「ホルモン治療の副作用で変化した「腋毛・乳房・陰部」のリアル」
第7回「恐い。吐き気は嫌だ……いよいよ始まった抗がん剤の『想定外の驚き』」
第8回「痛くも熱くもない〈放射線治療〉のリアル 照射台には僕の体の形に合わせて…」

第9回「手術、抗がん剤、放射線治療で年間医療費114万2725円! その結果、腫瘍マーカーは好転した」

第10回「『薬が効かなくなってきたようです』その結果は香港帰りの僕を想像以上に落胆させた」

第11回「『ひげが抜け、あとから眉毛とまつ毛が…』抗がん剤で失っていく“顔の毛”をどう補うか」

第12回「『僕にとって最後の薬』抗がん剤カバジタキセルが品不足! 製造元を直撃すると……」

第13回「『体が鉛のように重くなる』がん患者の“だるさ”は、なぜ他人に伝わらないか?」

第14回「がん細胞を“敵”として駆逐するか、“共存”を目指すべきか?〈化学療法、放射線治療、仕事…日常のリアル〉」

第15回「ステージ4の医療ジャーナリストが『在宅緩和ケア』取材で“深く安堵”した理由」

第16回「めまい発作中も『余命半年でやりたいこと』をリストアップしたら楽しくなった マネープラン、自分の入るお墓参り、思い出の街探訪…」

第17回「〈再び上昇した腫瘍マーカー〉「ただのかぜ」と戦う体力が残っていない僕は「遺言」の準備をはじめた」

(長田 昭二/文藝春秋 電子版オリジナル)