(画像:番組公式YouTubeより引用)

今年も『キングオブコント』(TBS系。以下、KOC)の季節がやってきた。決戦は10月12日。日本一のコント師が決定する。

昨年まで3大会連続で合計得点の最高記録が更新(第8回以降の審査システムにおける歴代最高得点。空気階段:960点→ビスケットブラザーズ:963点→サルゴリラ:964点)されているだけに、今年も新たな金字塔を打ち立てるのか注目したいところだ。

今年のファイナリストは、コットン、ニッポンの社長、ファイヤーサンダー、や団、ラブレターズ、隣人、ロングコートダディ、cacao、ダンビラムーチョ、シティホテル3号室の10組。


(画像:番組公式サイトより引用)


(画像:番組公式サイトより引用)

常連組から初出場組まで、ワクワクするようなコント師ばかりが揃った。

準決勝も春ヒコやダウ90000など注目株

この3年の合計得点が示している通り、準決勝は年々熾烈な争いとなっている。決勝メンバー以外にも、“バキ童”で知られるぐんぴぃのキャラクターを生かしたコンビ・春とヒコーキが会場を沸かせ、男女8人組のダウ90000は「人形劇」のネタで仕掛けの巧妙さを印象づけた。

毎度ユニークな展開が光る金の国は、恰幅のいい渡部おにぎりのキャラクターを生かしつつ強いワードで笑わせていたし、サツマカワRPG、ひつじねいり・松村祥維、ストレッチーズ・高木貫太のユニット・トゥリオも、即席だからこその味わいがカウンターとなって逆に印象に残っている。

このように準決勝敗退組にも個性的な面々が多く、どの組が決勝に上がっても不思議でないほど全体として面白い。

そんな中、決勝へと駒を進めた10組はどんな戦いを繰り広げるのか。コントのタイプ別に考えてみたい。

基本的にコントは大きく2つのタイプに分けられる。日常の滑稽さを切り取ったものか、非日常的な世界観をベースに笑わせるものだ。

しかし、近年はそこが交差し、日常の中の狂気や極端なキャラクター、非日常と誰もがイメージできる生活感とのギャップをネタにする芸人が目立つ。今大会においても、その傾向が強く出ているように思う。

一癖ある日常ネタで笑わせる

今大会で初の決勝進出を果たしたシティホテル3号室の亮太と押田は、日常的でありながら一癖あるネタで勝ち上がったコンビの代表例だ。すでにライブシーンでは「面白い」と評判だったが、昨年は惜しくも準決勝敗退。今年ようやく念願のファイナリストとなった。


(画像:番組公式YouTubeより引用)

意中の女性を巡る手切れ金100万円を叩き返したものの、金額が少ないことがバレて揉め始めるネタ「VS財閥の御曹司」、売れてない俳優を使う業界にハマり過ぎた役者と弱小芸能事務所の社長とのやり取りを描いたネタ「業界の圧力」など、設定だけでも笑ってしまうコントが多い。

今年のネタもキャッチーでありながら、しっかりとキャラクターが掘り下げられ笑いにつながっていた。キャリアが長いだけにネタの完成度も高く、彼らのライブを観たことがない者にとっては新鮮なコンビでもある。その意味で、彼らが頂点に立つ可能性は高いのではないか。

同じ日常型のコント師では、3年連続でファイナリストとなったや団が優勝することも考えられる。ネタごとに設定やキャラクターは違うが、“や団らしさ”を残す安定したクオリティーは今大会随一だろう。

2年前、彼らにインタビューしたところ、セリフ量の黄金比は「ロングサイズ伊藤:5、本間キッド:4、中嶋享:1」だと語っていた。つまり、ザ・ドリフターズや東京03のように役割分担がはっきりしているのだ。

今年も、熱くクレイジーな男(伊藤)、秀逸なリアクター(本間)、飄々としたバイプレーヤー(中嶋)は健在だった。2021年にKOC王者となった空気階段は、2019年、2020年と連続で決勝に進出し、3度目の正直で大会を制覇。このパターンに乗って、彼らが栄光を手にするかもしれない。

また、2022年に準優勝したコットンの西村真二ときょん、2年連続5回目のファイナリストとなったラブレターズの塚本直毅と溜口佑太朗も、“日常の中の異物”を各々のタッチで描き準決勝で大いに笑わせていた。どちらも実力は十分なだけに、今度こそ王者となるかもしれない。

コント職人vs多彩なコンビ

もう1つのタイプ、非日常型のコントで注目しているのがファイヤーサンダーだ。昨年から2年連続で決勝進出。ここにきて、彼らの実力が認められているのは、率直にストイックにコントを作り続けた結果だと感じる。

ハナコ・秋山寛貴らと同様、“コント職人”と呼ばれる粼山祐が生み出すネタは、非日常の範疇に留まらない。彼らのYouTubeチャンネルを覗けばわかるが、「行列のできるラーメン屋」「撮り鉄」といった日常から「ダイイングメッセージ」のような刑事モノ、「未来からきた救世主」に見られる近未来的な世界まで設定は実に幅広い。


(画像:番組公式YouTubeより引用)

一貫しているのは、相方のこてつが大きなリアクションで笑わせること、“ネタバラシ”からシステマチックな展開で笑わせることの2点だ。とくに非日常型のコントは、その世界のルールに翻弄されるこてつが妙におかしい。その面白さが今年はよく出ていた。本番で爆発すれば彼らの大会になるだろう。

昨年、「M-1グランプリ」のファイナリストとなったこともあり、漫才のイメージが強いダンビラムーチョの大原優一と原田フニャオ。実は、これまで3度KOC準決勝に進出した実績を持ち、満を持して初の決勝進出を決めている。

そもそも漫才コント、歌ネタ漫才を得意とし、「野球部あるある」のショート動画がバズるなど、ボケ・大原の多彩さは漫才の範囲に収まらないものがあった。今年はそんな彼らが、非日常の中で繰り広げられる実にバカバカしいコントを披露していた。

シチュエーションとキャラクターとの絶妙な対比、後半に向かって着実に見る者を仕留めていくスタイルは、昨年のKOC王者・サルゴリラを彷彿とさせる。昨年、今年と勢いに乗る彼らが王者になる可能性も十分にあるだろう。

一方で、2年ぶり3度目のファイナリストとなったロングコートダディの堂前透と兎、2年連続で決勝に残った隣人の橋本市民球場と中村遊直も、それぞれ違った世界観で会場を沸かせていた。当日、その独特の空気感がハマれば念願の優勝を果たすかもしれない。

同じ非日常型でも、インパクトの強さで目を引いたのがニッポンの社長とcacaoだ。

ニッポンの社長の辻皓平とケツは、5年連続のファイナリスト。ギリシア神話に登場する怪物同士の出会いを描いたネタ「ケンタウロス」、1人はあらゆる凶器を躊躇なく使う男、もう1人は不死身の男、という特殊な友人同士が意中の女性を巡ってケンカするネタ「空港へ行け」など、決勝では毎度賛否が分かれるコントを披露してきた。

今年も、その路線は崩していない。もはや“ニッポンの社長らしさ”と言えるような理不尽なシステムが働いていた。優勝するかどうか以前に、このアウトローなスタイルで5回決勝まで進んでいる事実こそ賞賛されるべきではないか。

そして、初の決勝進出を果たしたcacaoの浦田スターク、高橋、たっぺいも、ニッポンの社長とは違う意味で強烈なネタを持ってきた。メンバー全員20代で、トリオを結成して5年目。どちらかと言えば漫画チックなコントを特徴としていて、準決勝では「その方向に振り切った」という印象を受けた。

若さゆえの身体性もあり、キビキビとこなすバカバカしさが妙に脳裏に焼き付いている。今大会最年少ゆえの勢いに期待したい。

今年はシソンヌ・じろうが初審査員に

今年は東京03・飯塚悟志、バイきんぐ・小峠英二、ロバート・秋山竜次、かまいたち・山内健司という例年の4人に加え、シソンヌ・じろうが審査員を担当する。日本屈指の人気コント師・じろうがどのネタを評価し、どうコメントするのかも気になるところだ。


(画像:番組公式サイトより引用)

とはいえ、見方を変えればKOCは日本最大級のコントのお祭りでもある。ファイナリスト全組がベストな状態で舞台に立つ姿を何よりも楽しみにしている。

(鈴木 旭 : ライター/お笑い研究家)