左ウイングバックで先発した三笘は、後半途中からシャドーでプレー。前田との連係で新たな可能性を示した。写真:梅月智史(サッカーダイジェスト写真部/現地特派)

写真拡大 (全2枚)

 日本代表は現地10月10日、アウェーでサウジアラビアと対戦し、前半に鎌田大地、終盤に小川航基が挙げた得点により、2−0の勝利を飾った。

 ジッダでの“完全アウェー”で初めて勝利した日本。森保一監督も「得点が逆になっていてもおかしくないくらいサウジアラビアは力がある」と振り返るように、対戦相手にリスペクトを表しながら、厳しい戦いになることは想定して選手たちにも働きかけていたようだ。

 内容面で確かに苦しい時間帯、危ないシーンはあったが、1−0のリードを維持して試合を進め、セットプレーから途中出場の小川がゴール、キッカーを担った伊東純也がアシストという形で突き放す試合展開は、過去の最終予選でも、なかなか日本が見せられなかったゲーム運びであったことは間違いない。

 そして森保監督の選手起用も、新たなメインシステムとなりつつある3−4−2−1の安定性を強め、幅を広げる意味で注目に値する。

 ポイントになったのはウイングバックとシャドーでの選手の使い分けだ。左右のウイングバックに三笘薫と堂安律という攻撃的なキャラクターの二人を張らせて、2シャドーは鎌田大地と南野拓実を並べるのは、9月シリーズの2試合目だったアウェーのバーレーン戦と同じ。

 ただし、予想された3バックではなく4−3−3で入ってきたサウジアラビアに対して、両方想定していたという日本は4−4−2気味に可変して前からハメる形を取りながら、バーレーン戦よりも5バックで構える時間帯が多くなった。

 特にアンカーのアブドゥレラー・アルマルキに誰がプレッシャーをかけるかは難しい判断であり、相手のキーマンである左サイドのサレム・アル・ドサリに良い形でボールを持たれるシーンが目立つなかで、堂安もサイドバック的な役割の比重が重くなっていた。
 
 一方で三笘も反対側のスペースを埋めるために、攻撃における両翼のゴールとの距離が遠くなってしまったことも確かだ。そのなかでも1点目のシーンはうまく押し上げながら、右の堂安からのサイドチェンジを左の三笘が折り返し、ボランチからタイミング良く飛び込んだ守田英正が落としたボールをシャドーの鎌田が押し込むという美しい形でリードを奪った。

 ただ、厳しい守備の中で右シャドーの南野がイエローをもらい、ジャッジ次第ではあわや退場というシーンもあった。森保監督は後半スタートから伊東を右ウイングバックに投入。ただし、堂安とのチェンジではなく、南野の代わりに堂安に右シャドーを担わせる形で、配置転換を施したのだ。

 伊東も攻撃的な特長を持つ選手だが、この試合では守備で最初はサレム・アル・ドサリ、サウジアラビアが3−5−2にシステムチェンジしてからはインサイドハーフから左ウイングバックに回ったナセル・アルドサリを厳しくチェックすることで、相手の左からの攻撃力を大きく失わせた。

 一方で左サイドは63分までウイングバックが三笘、左シャドーを鎌田という構図を変えなかったが、相手がシステムチェンジしてきた2分後に、森保監督は鎌田に代えて前田大然を投入。右と同じように、三笘をシャドーに上げて、前田が左ウイングバックに。守備の強度をキープさせながら、攻撃面でも二人の特長を引き出そうとした。

 現地の暑さに加えて、ピッチから風が抜けないスタジアムの構造で、ダイナミックな攻撃を繰り出すのは難しかったが、森保ジャパンでも随一のスピードを誇る前田を三笘の外側に置くことで、前田が三笘を内側に追い越してゴール前に飛び出すなど、伊東と堂安の右サイドともまた違った攻撃の可能性が見られた。

【画像】日本代表のサウジアラビア戦出場16選手&監督の採点・寸評を一挙紹介。2選手に7点の高評価。MOMは攻守に躍動したMF
 途中出場の小川の得点で2−0とリードを広げた日本は終盤のクロージングとして、2シャドーを中村敬斗と久保建英に入れ替えた。4−4−2の形で前に人数をかけようとするサウジアラビアに対して、日本はフレッシュな二人が前からの守備強度を高めながら、攻撃でも脅威となることで、相手の最後の反撃をほとんど許さなかった。

 願わくば3点目を奪って仕留めたかったが、過酷なアウェーのゲームプランとしてはかなり理想的だろう。

 中村は3−4−2−1を本格導入した6月シリーズと前回のバーレーン戦では左ウイングバックで起用されて、一定の手応えを見せた。しかしながら、リーグ・アンで得点を量産している中村は本質的に、縦のドリブルよりゴールに向かう仕掛けやファーでゴール前に関わるプレーを得意としている。

 外側から縦に突破できる三笘と爆発的なスピードを持つ前田が揃う状況であれば、左ウイングバックにこだわる必要はない。

 ウイングバックとシャドーに関しては伊東も「いろんな選手がいますし、いろんな組み合わせがあるんじゃないかなと思います」と語るように、3−4−2−1を継続するなかでのバリエーションが増えたことは、今後に向けても大きな収穫だ。
 
 もちろん攻撃的と言われる選手たちであっても、当たり前のように守備のタスクをこなせる日本の強みあっての起用法だが、さらにウイングやサイドバックの強度が高い相手になってくると、堂安や三笘で耐えきれない状況も生まれてくるかもしれない。

 次の対戦相手となるオーストラリアも、トニー・ポポヴィッチ新監督が3−4−2−1を使ってくる可能性は高いが、バイエルン・ミュンヘンに所属するネストリ・イランクンダが左シャドーから鋭い仕掛けを見せてくるのは要注意。左ウイングバックには経験豊富なアジズ・ベヒッチもいる。右サイドは直近の中国戦で得点を決めたルイス・ミラーとクレイグ・グッドウィンがコンビを組む。

 森保ジャパンとしてもサウジアラビアから日本に移動してのゲームだけに、多少のスタメン入れ替えも想定される。そのなかで左右のウイングバックはあくまで攻撃的なキャラクターで行くのか。シャドーの組み合わせに変化はあるのか。

 ここまで3試合出番のない菅原由勢やサウジアラビア戦はベンチ外だった関根大輝をどう活かしていくかなど、4連勝という結果に加えて、また新たなものが見えてくるオーストラリア戦になっていくかに注目だ。

取材・文●河治良幸