いま中国で「ゴミ箱をあさる」「タバコを吸う」小中学生が社会問題に…!「タバコカード」ブームの背景に見え隠れする「巨大タバコ産業の影」

写真拡大 (全2枚)

タバコカードの異様な熱気

中国語の「煙卡(yanka)」とは何を意味するかご存知だろうか。中国語で「煙(yan)」はタバコを意味し、「卡(ka)」はカードを意味する。これを合わせた「煙卡」の意味は「タバコカード」であり、英語では(cigarette card)」になる。

それでは、タバコカードとは何を指すのか。日本で図書を購入するために使われるプリペイドカードの「図書カード」と同じように、中国でタバコを購入する際に現金に代えて支払いに使えるタバコ専用のギフトカードなのか。残念ながら、中国にそんなカードがあるという話は寡聞にして聞いたことがない。

中国の検索エンジンである「百度(Baidu)」が運営するオンライン百科事典の「百度百科」で「煙卡」を検索すると、一致したのは次のような内容だった。

「煙卡」(英文:cigarette card)とは、「香煙盒(紙巻タバコの箱)」の「頂蓋(ふた)」を折って作られるもので、一部の小学校で新しい玩具となっている。2024年に「煙卡」は、広東省、広西チワン族自治区、湖南省、海南省などの地域の小学校で流行し、一部の学生は「煙卡」に病み付きとなっているし、中にはすでに遊びのレベルを超えて寝食を忘れてのめり込む学生までも出現している。

2024年6〜7月には、湖南省長沙市、山東省済南市、甘粛省天水市、福建省厦門(アモイ)市などで多くの学校が「学生が煙卡遊びに熱中するのを禁止する」旨の指示を出した。

そこで、福建省アモイ市同安区に所在する特殊教育学校(幼稚園から小学・中学・高等学校までの一貫教育を行う特別支援学校)が2024年6月5日付で同校の保護者宛に出した手紙を見てみると、その概要は以下の通り。

尊敬する保護者各位

最近、「拍“煙卡”(“煙卡“をはたく)」と呼ばれる遊びが幼稚園から小・中学校までのグループ内で流行している。一部の子供はこの遊びにはまって夢中になり、異なる銘柄や価値の高い煙卡を獲得しようと種々知恵を絞り、タバコを吸う自分の家族に空箱をせがんだり、見ず知らずの人に空箱を懇願したり、果てはごみ捨て場に立ち入って空箱を探したり、ネットショッピングで「煙卡」を購入する事までしています。

一部の保護者は「我々も子供の頃にこの種の遊びをしたことがあるが、遊びは別に気にする事じゃない」という態度であったり、黙認したり、放任したり、甚だしきに至っては保護者自身が「煙卡」の収集に参加して、「煙卡」遊びの発展と流行を加速しています。

「煙卡」(以下「タバコカード」)は捨てられたタバコの箱から切り取った蓋(ふた)の部分を折りたたんで作る長方形状のカードです。タバコカードを地面や床に置き、内側に空気を溜めた掌(てのひら)でカードの横をはたき、風圧でカードが反転すれば、その競技者が勝者となります。遊びには賭博や流行の追っかけ、見栄の張り合いなどの不良要因がはびこるだけでなく、潜在的に勉強のやる気をなくすし、悪習に染まり、果ては中毒になるなどの危険性があります。特にタバコカード遊びは中毒になると子供の健康に悪影響を及ぼすばかりか、学習意欲が分散し、良くない価値観を形成します。

一部では悪癖の領域に

タバコカードの遊びは、日本で昭和30年代頃に小学生の間で流行ったガラス瓶入り牛乳の紙製蓋(ふた)を使ったパッチ(メンコ)によく似ている。この「牛乳蓋パッチ」の遊び方は幾通りかあったようだが、小学校の学生机の上や教室の床に置いた牛乳蓋の傍を内側に空気を溜めた掌(てのひら)でたたき、その風圧で牛乳蓋をひっくり返したら勝者となり、その牛乳蓋は勝者が獲得するというのがあった。(筆者自身がそう遊んだ記憶がある)

ところで、中国でも数十年前には「打面包」とか「摔面包」と呼ばれるメンコ遊びがあった。これは日本で昔に流行した「メンコ遊び」と同じで、地面に置いたメンコ(四角形、長方形、丸形など各種の形状)の傍らに別のメンコを叩きつけ、その風圧で置いてあったメンコをひっくり返したら勝利で、そのメンコを獲得できるというものだった。従い、現在流行しているタバコカード遊びはこのメンコ遊びの変形と言えるものであり、日本でメンコ遊びが身近に存在した牛乳の蓋を使った「牛乳蓋パッチ遊び」に発展したのと同じように思える。

「煙卡(タバコカード)」の場合、「煙草(タバコ)」の値段による等級もあり、高価格のタバコの箱から作ったタバコカードは希少価値の故に高等級であり、普通にどこにでもある低価格のタバコの箱から作ったタバコカードは低等級である。

タバコカードで遊ぶだけでなく、高等級のタバコカードを収集する競争にも子供たちは熱を上げた。このため、子供たちはタバコの種類や価格に興味を持つようになってあらゆるタバコの種類や価格に精通するようになった。子供たちはネットショッピングを通じて高等級のタバコカードを高価格で買い求め、さらにはタバコの箱の中に残っていたタバコを吸って喫煙という悪習慣に染まる者まで出現している。

「闇」タバコカードが市場を席巻

そこで、高等級のタバコカードを作成する際に必要となるタバコとはどのような銘柄なのか。2023年1月時点における中国のタバコ統計によれば、中国国内にはタバコ生産企業が25社あり、「巻煙廠(紙巻タバコ工場)」が92か所あり、主要なタバコ銘柄が56種類あるという。1980年代には3000種類の銘柄が存在していたようだが、その後は吸収合併などによって統合され、現時点の銘柄総数は100種類前後になっている模様である。

中国のタバコで最も高値な銘柄は「黄鶴楼(大金磚)」<湖北省産>で、販売価格は1カートン(=10箱)が3万元(約60万円)、2番目に高値な銘柄は「利群(富春山居)」<浙江省産>で、1カートンが2万元(約40万円)である。3番目は「和天下(尊尚)」<湖北省産>で1カートンが1.4万元(約28万円)である。

但し、この種の高等級のタバコの空き箱を子供たちが入手することはまず不可能である。それにしても「黄鶴楼(大金磚)」の場合、1箱(20本入り)の価格は3000元(約6万円)だから1本当たりの価格は150元(約3000円)になる。紙巻タバコ1本を吸う時間は5分以内だから、わずか5分の喫煙時間のために、1本当たり3000円もの高額タバコを吸うのは一体誰なのだろうか。

子供たちが収集するのは「芙蓉王」、「玉溪」、「中華」などの低価格でどこでも販売されている一般的なタバコの空き箱だが、それらのタバコの価格は1箱(20本入り)当たり25〜100元(約500〜2000円)である。なお、一般的な銘柄である「中華」を例に挙げると、全部で15種類が販売されているが、その内1種類だけが紙包装(ソフトパック)であり、残りの14種類はタバコカードを作成可能な箱包装(ボックスタイプ)である。

一方、タバコカードが流行したことを知ってカネの匂いを嗅ぎつけ商人たちは、タバコの箱の蓋の偽物を印刷してタバコカードを作り、学校周辺の文房具店や玩具店へ卸して金儲けを図った。ただし、本物のタバコカードにはタバコの香りが染み付いていて、たとえ時間が経過してもかすかなタバコの香りを嗅(か)ぐことができるので、本物か偽物かの判別は可能だが、子供たちにとってそれは大した問題ではないのだ。子供たちがネットショッピングで購入するタバコカードのかなりの部分が偽物なのである。

世界最大の紙巻きタバコ生産国

ところで、タバコカードはどうして2024年に中国南部地区で突然に流行が始まったのか。

ご存知ないかも知れないが、2023年の紙巻タバコ消費量は全世界が5兆1760億本であるのに対して中国は2兆4420億本で、全世界の47パーセント以上を占めた。また、紙巻タバコの生産量でも中国は世界最大の生産国である。

紙巻タバコの生産量の推移を見てみると、2015年に2.59兆本であったが、翌2016年には2.38兆本と前年比8パーセント減少した。その後も減少は継続し、2018年には2.34兆本となって底を打ち、2019年から5年連続で増大して、2023年には2.44兆本まで回復した。

2016年に紙巻タバコの生産量が前年比8パーセント減少した理由は、2013年に中国政府国務院の「衛生・計画生育委員会」が『公共場所喫煙規制条例』(以下「喫煙規制条例」)を起草したことに起因する。これは中国政府が2003年に世界保健機関(WHO)の『タバコ規制枠組条約』に調印し、中国では2006年1月9日にこの条約が発効したことに基づくものであったが、中国国内の反対勢力の抵抗を受けたことにより喫煙規制条例の起草には7年もの年月を要したのだった。

喫煙規制条例は2024年9月の現時点でも今なお正式な条例として発効していないが、中国の地方政府は個々に喫煙規制の条例を制定するなどして、2016年以降は学校、事務所、繁華街などでの禁煙を条例化し、違法喫煙の取締りを強化した。この結果として、上述したように紙巻タバコの生産量は2016年から2018年まで3年連続で減少したのであったが、2019年からは上昇に転じ、2023年には2.44兆本まで回復した。但し、生産量は2015年の2.59兆本の水準まで回復してはいないのである。

これはタバコ販促の秘策なのか

さて、中国のタバコには付加価値税(VAT)と消費税で構成される「タバコ税」がかかる。紙巻タバコに課せられるタバコ税はタバコの販売価格の50〜70パーセント(銘柄毎に販売価格は異なる)であり、葉巻タバコは45パーセント、パイプ用の刻みタバコは40パーセント前後となっている。中国の2023年度十大納税企業の筆頭は中国煙草総公司(中国タバコ)であり、納税額は断トツの1.2兆元(約24兆円)で、第2位の中国工商銀行の1096億元(約2.2兆円)を大きく上回っていた。

国民の健康第一の観点に立って社会全体で禁煙政策を推進すれば、国民の喫煙者とタバコ消費量が大幅に減少するのは言わずもがなの話である。タバコ関連の納税者は中国タバコだけではないので、タバコ関連業界の納税額を総計すれば、その金額は巨大である。だからこそ、中国は2013年に起草した「喫煙規制条例」を国家として採択し発効させることができずに今日に至っているのだ。

そうなると、紙巻タバコの生産量を2015年の2.59兆本の水準まで引き上げて、さらに増大させようと考えることは何らおかしなことではない。そこで中国南部地域のタバコ業界の知恵者が紙巻タバコの販売促進を画策して、昔のメンコ遊び(「打面包」とか「摔面包」と呼ばれる)を念頭に、無価値に捨てられている紙巻タバコの空箱を活用する方法を種々研究した結果、空き箱の蓋を長方形に折りたたんだ「煙卡(タバコカード)」を考案し、それを現代のメンコ遊びとして子供たちに広めたとは考えられないだろうか。

タバコカードを誰が最初に作成し、遊びとして広めたかの起源は不明だが、上述した「下種(げす)の勘繰り」の域を出ない仮説が正鵠を射ている可能性は一概に否定できないのではないか。

教育現場では問題視されているものの

タバコカード遊びの流行はたとえ各学校が遊びの禁止令を発布したとしても、一朝一夕に終息することは難しいと思う。そこで、教育関係者と思われる人々が「煙卡的危害(タバコカードの危害)」と題する注意事項をインターネット上に投稿しているので、その内容を箇条書きで示すと以下の通り。

1.子供たちはいつもタバコカードを地面で遊ぶが、これは非常に不衛生である。或る子供はタバコカードを収集するためにゴミ箱のみならず、ごみ収集場や高速道路などにまで立ち入ってタバコの空き箱を探し求めている。これでは、事故や細菌感染の発生が危惧される。

2.一部の学生はタバコカード遊びにのめり込み、授業中も密かにタバコカードを眺めて楽しむだけでなく、勝利するための技術を研究している。放課後も勉強は後回しで成績は下降の一途。これを「走火入魔<病(やまい)膏肓(こうこう)に入る>」と言う。

3.ある子供はタバコカードが欲しいばかりに、父親や祖父など家族に喫煙を奨励したり、果ては家のカネを持ち出してタバコを買っている。子供の価値観が徐々に浸食されている。

4.タバコカードの銘柄による価格の高低が子どもたちの間に互いに張り合って見栄をはる状況を作り出している。他人が持っているタバコカードを自分も持つだけでなく、それ以上に価格の高いカードが欲しくなる。

5.ある子供は集団心理を形成して、他人がタバコカードで遊んでいたら、自分もそれに参加しないと排除されるのではと恐れるようになる。このため、タバコカードを遊ぶことは一種の社交手段となり、より多くの子供たちに過度の消費を促すなどの悪影響を生み出し、少なからぬ子供たちがSNSで自分が持つタバコカードを誇らしげに示す事態が出現している。

6.タバコカードの遊びが賭博の遊びに変化する恐れがある。端的に言えば、カネを賭けてタバコカード遊びを行ったとすれば、甲が乙に勝利したなら、乙は負けた分だけタバコカードを甲に渡さすことになるが、それを直接に現金や物品で支払うこともある。さらに、子供がタバコカードの売買をする場合には、普通のタバコカードは値段が1枚当たり5毛(約10円)だが、珍しいタバコカードだと1元(約20円)から数元(約60〜100円)で売買される。

止まぬ若年層の喫煙

学校側の禁止令を受けてタバコカード遊びの流行は徐々に鎮静化するものと思われるが、問題は子供たちがタバコカードを通じて紙巻タバコの種類や価格を知って親しみを持ったことである。かれらが紙巻タバコと直に接触して、少年の喫煙者にならぬことを祈りたい。

2024年5月31日の「世界禁煙デー」に中国で発表された『2023年中国青少年タバコ調査報告』は次のように述べている。

1)喫煙体験率は中学生が11.2パーセント、高校生が17.1パーセントであった。喫煙体験を持つ中学生と高校生の66.8パーセントは喫煙初体験が13歳以前であり、その半数以上の喫煙初体験は小学生時代だった。

2)現在の中学生と高校生の喫煙率は4.2パーセントであり、過去30日以内に喫煙した中学生と高校生の中で、毎日タバコを20本以上吸う比率は3.5パーセントを占めたという。

なお、『中華人民共和国煙草(タバコ)専売法』には、青少年の喫煙は抑制を勧告し、「中小学生(小・中学生と高校生)」の喫煙は禁止すると規定されている。

中国で報道禁止の大騒動!化学工業用油を輸送後、洗浄せずに食用油を…暴かれた「タンクローリー」運送の闇がヤバすぎた!