篠塚和典が語る終盤戦の巨人 野手編

 4年ぶりのリーグ優勝へ向け、ラストスパートをかけたい巨人。2位の阪神とは2ゲーム差(9月15日時点、以下同)、広島、DeNAとの差もわずかで油断は禁物だ。熾烈な優勝争いを制するためのポイントは何か。長らく巨人の主力として活躍し、引退後は巨人のコーチを歴任した篠塚和典氏に、まずは野手陣の状態や課題などについて聞いた。


調子が上がりきらない巨人の坂本。篠塚氏から見た状態は? photo by Sankei Visual

【好調モンテス、2年目浅野の評価は?】

――まず野手陣からお聞きします。途中加入のココ・モンテス選手は打率.306と、故障離脱したエリエ・ヘルナンデス選手の穴を埋める活躍を見せていますね。

篠塚和典(以下:篠塚) ヘルナンデスも日本の野球にある程度アジャストしていましたが、そのヘルナンデスよりも「日本の野球に合ってるんじゃないか」と事前に聞いていました。そのとおりの活躍をしてくれていますね。

 どうすれば確率がよくなるか、を考えたバッティングをしていると思いますよ。ヘルナンデスにはちょっと脆さがありましたが、モンテスにはあまり感じません。いろいろなボールに対応できそうな雰囲気があります。

――変化球に対しても対応できていそうですね。

篠塚 そうですね。それと、構えが日本人っぽい。最初に見たときに「日本人でこんなバッターいたかな?」って思ったぐらいですから(笑)。バッティングが素直で、あまり力むことがないですし、コンタクトを重視したバッティングを心がけているんでしょうね。初見で日本のピッチャーに対応できそうな感じを受けました。

 長打を求めすぎてしまうと崩れてしまいそうですが、二塁打は多いですけど、そういう心配もなさそうです。外野の守備に関しては、ほかの外野手と比べるとちょっと落ちますが、チーム事情で内野に入る場所がないから仕方がないかなと。打つほうをしっかりやってくれていますからね。

―― 一方、スタメンでの起用が続く浅野翔吾選手ですが、バッティング面で成長を感じる部分はありますか?

篠塚 ルーキーだった昨年はどんな球でも引っ張るというか、同じパーセンテージで振る傾向がありました。その結果、簡単に見逃してしまったり、ボール球を振ったりしていたんですが、そのあたりが少し改善できているように感じます。

 高卒でプロ入りして2年目ですし、1打席1打席が勉強ですよ。まだまだ"テスト期間"。今後いいピッチャーとの対戦も増えていくでしょうし、そのときにどう対処するかが課題ですね。

【篠塚氏が考える内野のベストな布陣】

――ちなみに、打率.241の坂本勇人選手の状態はどう見ていますか?

篠塚 それは、みなさんが見ているとおりですよ。本人も何かを感じてるかもしれないしね。ただ、バッターボックスに入ってピッチャーと対戦する形は普段と変わりませんし、状態が上がらないのはメンタルの問題なのかもしれません。35、36歳は踏ん張り時の年齢なんですよ。ここで踏ん張れば、40歳ぐらいまである程度の数字を残していけると思いますし、いい時の感覚に戻していってほしいなと。

――内野の布陣についてお聞きしたいのですが、篠塚さんが考えるベストな布陣は?

篠塚 勇人のバッティングの状態がよければ、守備面からもサードが坂本、ファーストが岡本和真、セカンドが吉川尚輝、ショートが門脇誠で組みます。勇人の状態が悪ければ、サードに岡本を入れて、ファーストは大城卓三にします。ときどき門脇をサードに入れて、ショートに泉口友汰を入れたりもしていますが、それだと守りはそこそこでも打撃力が落ちてしまう。ただ、大城の状態もあまりよくないんですよね。

 ここ最近は2番、3番、4番が安定しているので、5番がしっかりしないと4番の岡本が歩かされてしまう。3番に定着しているモンテスが今の状態であれば「5番に入れても面白いかもしれない」と思っていましたが、(9月10〜12日の)広島戦との3連戦では5番で出場していましたね。そうなると、3番をどうするかという問題が出てくるのですが......。

――状態がよければ、5番は坂本選手がベスト?

篠塚 勇人がしっかりすれば打線に厚みが出るんですけどね。ただ、打てる・打てないは別として、勇人が打線にいると相手は嫌だと思います。それだけの雰囲気を持っているし、相手からすれば「(調子が悪くても)いつかやられちゃうんじゃないか」という気にさせられる選手。少し状態が悪くても5番に置いておいてもいいんじゃないか、と個人的には思います。

【打線のポイントは1番と4番】

――岡本選手の状態はどう見ていますか?

篠塚 打率.270前後で本塁打が30〜40本というのがアベレージのバッターだと思いますが、今季は本塁打が少ないですね。ピッチャーのレベルが年々上がってきていますし、「ボールが飛ばない」という話も出たりしていますから、今後は岡本に限らず本塁打が少なくなっていきそうです。ただ、大事なのは勝負所で打てるかどうか。4番バッターですし、いい場面で打ってくれればいいわけですから。

――残り試合も少なくなり、優勝争いも佳境に入っていますが、打つほうでのキーマンを挙げるとすれば?

篠塚 キーマンが誰というより、上位打線、1番と4番がしっかりと仕事をできるかどうかです。打線でポイントになるのは1番と4番だと思っているので。ここを固めれば2番や3番、それと5番、6番、7番はある程度変えていってもいいのかなと。

 ただ、1番の丸佳浩の調子もちょっと落ちてきているんですよね。なので1番を代える可能性もあるかなと思っていたら、(9月12日の広島戦では)スタメンから外されました。それぐらい1番は大事なんです。岡本は4番から外さないと思いますけどね。

――2位の阪神との直接対決は2試合、3位の広島とは3試合を残していますが、すべて敵地での試合です。

篠塚 先制点を取ることですね。まずは試合のペースを握らなければいけませんし、残り試合のうち、先制点を何回取れて、いかに逃げ切れるか。先制点を取っても追いつかれると、ホームチームはファンが雰囲気を作って後押ししますから。

 それと、相手のホームで逆転するのは思っている以上に難しいんです。9月11日のマツダスタジアムの試合では9回に9点を取って逆転しましたが、そうそうあることではないです。そういう意味では、やっぱり先制して逃げ切ることがポイントになると思います。

――いかに最少失点にしのいで、1点ずつ積み上げていくかですね。

篠塚 たとえば、7回ぐらいで3点リードしていて、一死一塁になるとします。そこで走者を確実にセカンドに送って、二死二塁のシチュエーションを作ることもすごく大事になると思います。とにかく1点でも多く取って相手にプレッシャーをかけていく。特に7回、8回だと相手もいいピッチャーを出してきますから。

 早いイニングでも相手のピッチャーから連打することが難しいとなれば、とにかくアウトカウントを増やしてでも先の塁へ送ること。これからは僅差の試合が続いていくでしょうから、少ないチャンスを活かして、1点をもぎ取っていく姿勢が大事です。

(投手編:菅野智之復活の理由、優勝争いのキーマン、ドラ1ルーキーの起用法は?>>)

【プロフィール】

篠塚和典(しのづか・かずのり)

1957年7月16日、東京都豊島区生まれ、千葉県銚子市育ち。1975年のドラフト1位で巨人に入団し、3番などさまざまな打順で活躍。1984年、87年に首位打者を獲得するなど、主力選手としてチームの6度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献した。1994年に現役を引退して以降は、巨人で1995年〜2003年、2006年〜2010年と一軍打撃コーチ、一軍守備・走塁コーチ、総合コーチを歴任。2009年WBCでは打撃コーチとして、日本代表の2連覇に貢献した。