BYDは中国市場で「価格破壊」を率先して仕掛けてきた。写真は同社の低価格コンパクトEV「海鴎」(BYDのウェブサイトより)

中国の自動車市場では激しい価格競争の長期化により、多数の自動車メーカーの経営が苦境に瀕している。そんな中、成長性と収益性の両面で競合を圧倒するパフォーマンスを見せているのが比亜迪(BYD)だ。

同社は8月28日、2024年上半期(1〜6月)の決算を発表した。売上高は前年同期比15.76%増の3011億2700万元(約6兆1358億円)、純利益は同24.44%増の136億3100万元(約2777億円)を計上し、2桁の増収増益を達成した。

BYDはEV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)の車両製造とともに、リチウムイオン電池やモーターなどの主要部品も内製する「垂直統合型」の事業モデルで知られる。

EV世界首位のテスラに肉薄

激しい価格競争の中でも増益を実現した理由について、同社は「新技術の導入、ブランド力、海外市場の開拓加速などに加えて、スケールメリットの拡大とサプライチェーンのコスト管理強化を継続したことで、高い収益性を維持した」と説明した。

EVおよびPHVのカテゴリーにおいて、BYDは今や世界の自動車業界をリードする存在だ。市場調査会社のトレンドフォースの推計によれば、同社は2024年4〜6月期のEVのグローバル市場で18%のシェアを獲得。首位のテスラとわずか1.1ポイント差の第2位につけた。

また、レンジエクステンダー型EV(訳注:航続距離を延長するための発電専用エンジンを搭載したEV)を含むPHVでは、BYDだけで全世界の販売台数の36.1%を占め、第2位の中国の理想汽車(リ・オート)に28.5ポイントもの差をつけて首位を独走している。

BYDの2024年上半期の販売台数は、EVとPHVの合計で161万3000台。車載電池などを含む自動車関連事業の売上高は2283億1700万元(約4兆6522億円)と、総売上高の75.82%を占めた。

また、上半期は(電子機器の受託生産サービスなどの)エレクトロニクス事業も好調に推移し、同事業の売上高は727億7800万元(約1兆4829億円)と前年同期比42.45%増加した。


BYDの王伝福・董事長は「価格破壊は市場経済の本質だ」と主張する。写真は同社のイベントでスピーチする王氏(BYDのウェブサイトより)

注目すべきなのは、上半期のEVとPHVの販売台数が前年同期比28.46%増加した一方で、自動車関連事業の売上高の伸び率は同9.33%にとどまったことだ。販売台数と売上高の伸び率に大きな落差が生じたことは、価格競争の影響(による車両1台当たりの収入減少)の表れにほかならない。

「価格破壊王」の呼び名に反論

にもかかわらず、自動車関連事業の上半期の粗利益率は前年同期より3.27ポイント高い23.94%を記録した。これを競合他社と比較すると、吉利控股集団(ジーリー)の上半期の粗利益率は15.1%、収益性の高さで知られる理想汽車でも同20%であり、BYDの強さが際立つ。

中国の業界関係者の間では、過当競争の中で値下げを率先して仕掛けて市場シェアを拡大したBYDを「価格破壊王」と呼ぶ向きが少なくない。


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だが、BYD創業者で董事長(会長に相当)を務める王伝福氏は、それに真っ向から反論している。王氏は2024年6月に重慶市で開催されたフォーラムで、次のように持論を述べた。

「価格破壊は競争であり、市場経済の本質だ。すべての企業家は競争に参画しなければならず、その中で抜きんでなければならない」

(財新記者:翟少輝)
※原文の配信は8月30日

(財新 Biz&Tech)