日本の大問題「"組織カルチャー"の変革」の秘策
日本企業が「新しい現場力」を生み出し、経営モデルをアップデートするには、“組織カルチャー”の刷新が必須条件だ(写真:zon/PIXTA)
経営コンサルタントとして50社を超える経営に関与し、300を超える現場を訪ね歩いてきた遠藤功氏。
36刷17万部のロングセラー『現場力を鍛える』は、「現場力」という言葉を日本に定着させ、「現場力こそが、日本企業の競争力の源泉」という考えを広めるきっかけとなった。
しかし、現在、大企業でも不正・不祥事が相次ぐなど、ほとんどすべての日本企業から「現場力」は消え失せようとしている。
「なぜ現場力は死んでしまったのか?」「どうすればもう一度、強い組織・チームを作れるのか?」を解説した新刊『新しい現場力 最強の現場力にアップデートする実践的方法論』を、遠藤氏が書き下ろした。
その遠藤氏が、「いい職場を作る『"LOFT"カルチャー』の作り方」について解説する。
*この記事の前半:「悪しき"昭和の組織文化"」は"職場を殺す"大問題だ
「『LOFT』な組織カルチャー」を形成する
日本企業が「新しい現場力」を生み出し、経営モデルをアップデートするには、組織カルチャーの刷新が必須条件である。
とりわけ、若い世代は「カルチャーで会社を選ぶ」傾向が強い。
若手やミドルがのびのびと力を発揮できるような「働く環境」を整えなければ、有能でやる気のある人材を確保し、働きつづけてもらうことはできない。
しかし、このカルチャーの刷新が一番難しく、時間がかかる。
組織カルチャーを刷新する第一歩は、「あるべき組織カルチャー」を定義し、組織全体で共有することである。
組織カルチャーは目に見えない感覚的なものである。感じ方も人によって異なる。
だからこそ、「どのようなカルチャーに変革したいのか」をみんなで議論し、言語化し、現実を直視し、日常の行動をひとつずつ変えていかなければならない。
私は日本企業が目指すべき「新たな組織カルチャー」として 「LOFT」 を提唱している。
それは次のようなものである。
★Light─身軽ですばやく主体的に挑戦するカルチャー
★Open─開放的で、お互いに助け合い、協力し合うカルチャー
★Flat─関係性がフラットで、仲間に感謝し、称賛し合うカルチャー
★Tolerant─耐性、受容性、復元力が高く、粘り強く実行するカルチャー
世界のエクセレントカンパニーは組織カルチャーの重要性を経営者自らが認識し、社内に訴えかけ、自ら実践することで、健全で良質な組織の「土壌」を育んできた。
思い切り力を発揮し、自己実現できる環境を整えてきたからこそ、世界中から優秀な人材が集まり、新たな価値を生み出すことができている。
そして、従業員がのびのびと働ける環境づくりに投資を惜しまず、お金をかけてきた。
日本企業は「カルチャー」に投資してこなかった
これまでの日本企業は、「人材に投資する」とは言ってきたが、「カルチャーに投資する」とは言ってこなかった。
しかし、人材と組織カルチャーは「ワンセット」で考えるべきものである。健全で良質な組織カルチャーがあってこそ、人材はいきいきと働けるのである。
サントリーホールディングスは2022年3月に、それまでの「ヒューマンリソース本部」という名称を「ピープル&カルチャー本部」へと変更した。
これは、たんなる名称変更ではない。
人と組織・風土改革を一体のものとして捉え、継続的な成長を実現できる人づくり、組織づくりを推進するという経営の意志のあらわれである。
「LOFT」なカルチャーを形成するには、まず役員や部長などマネジメント層の意識、変革、行動変容が不可欠である。
トップ自らが変わらなければ、組織カルチャーを変えることはできない。
体系的なマネジメント研修を導入し、心理的安全性やコーチングに関する知識や「1on1」(1対1の個人面談)のスキルなどを学び、自己流のマネジメントから脱却しなければ、「古い組織カルチャー」はなくならない。
意識や行動を変えられないマネジメント層は「退場」させることも必要だ。
じつは、これまでの日本企業はストロングタイプの強面の役員や管理職を抜擢、登用しがちだった。業績面で成果を上げ、一見頼もしいリーダーのように見えるからである。
しかし、現実を見れば、そうしたストロングタイプが率いる組織の風土は著しく傷んでいるケースが多い。上意下達で、誰もものが言えない風土が形成されてしまったのだ。
人事は「経営の最大のメッセージ」
人事は「経営の最大のメッセージ」である。
どのような人が評価され、昇進するのか。そこに、その会社のカルチャーがあらわれている。
「上からの変革」が起きなければ、組織カルチャーの刷新は実現しない。
しかし、「上」だけが変わろうとしても、「新しい現場力」は生まれない。なにより大事なのは、現場自らが働く環境を能動的に変えていくことである。
これを私は「現場からのカルチャー変革」と呼んでいる。
健全で良質な組織風土は、誰かが与えてくれるものではない。
「自分たちで変えることができるのだ」ということを信じ、実践する従業員を育て、増やしていくことこそが、カルチャー変革の本丸である。
つまり、カルチャーの刷新こそ「新しい現場力」の第一歩なのである。
組織風土改革に「マジック」は存在しない。
日常の中での小さなことを大切にし、それを実践する従業員を粘り強く増やしていくことが肝要である。
カルチャー変革=従業員の「主体性」を回復させていく
たとえば、「あいさつを励行する」「こまめに声をかける」「困っている人がいたら助ける」「何かをしてもらったら感謝を伝える」「がんばっている人がいたら褒める」など、小さな行動の積み重ねこそが良質な組織風土をつくり上げていく。
組織カルチャーとは組織の「土壌」である。
健全な「土壌」は、毎日、みんなで土を耕し、石ころを拾い、水を撒くことによって手に入れることができる。
それをすべての従業員が自覚し、小さなことを実践することが大切である。もちろん、なかには否定的な人もいるだろう。
しかし、組織の過半の人たちが、自分たちが働く環境をよりよくすることの重要性を認識し、行動すれば、否定的な人たちもやがて変わっていく。
カルチャー変革とは、従業員の「主体性」を回復させていく取り組みにほかならない。
オープンでフラット。自由でのびやか。多様性を尊重しながら、連帯感を生み出す。
そんな「新しい共同体」が創造できれば、そこに積極的に参画したい人は間違いなく増えるだろう。
*この記事の前半:「悪しき"昭和の組織文化"」は"職場を殺す"大問題だ
(遠藤 功 : シナ・コーポレーション代表取締役)