運頼みと実力主義は、どっちが幸せに生きられるか。行動経済学のコンサルティングを行う山根承子さんは「ある研究では、低所得であっても『自分の力が結果に関係する』という内的統制の強い人はあまり不幸を感じていないという結果が出ている。また、リハビリ開始時の内的統制が強い人ほど、リハビリ後の自立度が向上した。一方、『全ては運で決まる』と思っている外的統制の強い人は実際にあまり努力をしないことが明らかになっている」という――。

※本稿は、山根承子『努力は仕組み化できる』(日経BP)の一部を再編集したものです。

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■「運頼み」と「努力嫌い」――表と裏から考える

「努力」に影響していそうな価値観や個人特性はたくさんあります。

例えば、自分の力でどのくらい結果を左右できると思っているかによって、努力の程度は変わってきそうではないでしょうか。

「結局は運で決まる」と思っている人は、あまり努力しようとはしないでしょう。逆に「全ては自分次第だ」という考えの人は、努力を惜しまないでしょう。

本稿では「運」について考えることで、「努力」を反対側から見ていくことにしましょう。

「物事は自分の力で決まるか、運で決まるか」、あなたはどう考えていますか? 心理学ではこれを「統制の所在(LOC :Locus of Control)」と呼びます。そして、自分の能力や技能によって物事の原因をコントロールできるという考え方を「内的統制(Internal Control)」、逆に原因が運や他者などの要因で決まるという考え方を「外的統制(External Control)」といいます。

あなたの考え方が、実力重視(内的統制)なのか運重視(外的統制)なのかを、「I-E尺度(Internal-External Scale)」というテストで測ることができます。

さっそくやってみることにしましょう。

■「実力重視」「運重視」を読み解くテスト18の項目

次のページに様々な文が並んでいます。それを読んで、あなたがそれらの意見についてどのように思うか、それぞれの質問に「4点=そう思う」「3点=ややそう思う」「2点=ややそう思わない」「1点=そう思わない」の4段階で回答してみてください。

*印は逆転項目なので、「1点=そう思う」「2点=ややそう思う」「3点=ややそう思わない」「4点=そう思わない」とします。

最高だと72点、最低だと18点で、点数が高いほどあなたは内的統制、つまり「自分の力が結果に関係する」と見なしていることになります。

なお、この「統制の所在」は自己効力感と似た概念ですが、学術的には異なるものとして扱われています。

出所=『努力は仕組み化できる』

■運を信じる人ほど、実は不幸になりやすい

統制の所在(LOC)については数多くの研究が行われており、統制の所在が決定要因となっている事象も多く示されています。

例えば面白いのは、低所得であっても、内的統制の強い人はあまり不幸を感じていないという研究です。

内的統制が強いと、「所得が低い」という状況も自分の力で変えられると信じているため、そこまで不幸だと感じないのだといわれています。「自分が努力しさえすれば所得は上げられる」と信じているともいえるでしょう。

一方、「全ては運で決まる」と思っている外的統制の強い人は実際にあまり努力をしないことが、リハビリの研究で明らかになっています。

病気や治療に関する統制の所在を測定するための、「Multidimensional Health Locus of Control」という尺度があり、医療関係の研究ではこれがよく用いられています。質問項目の一部を紹介すると、

「病気になったときどのくらいで治るかは、自分自身の行動で決まる」
「私が何をしようと、病気になるときはなるものだ」
「私は自分の健康を自分でコントロールできる」
「私の家族は、私が病気になったり、健康を維持したりすることに大いに関係がある」
「私の健康は、主に幸運の問題である」
「私の健康に影響を与える主なものは、私自身が行うことである」
「自分の体調に気を付ければ、病気になることはない」
「健康に関しては、医師に言われたことをやるしかない」

というようなもので、これらの質問に「強く反対する」の1点から「強く賛成する」の6点までの6段階で回答します。

これを用いて、脳卒中の患者のリハビリ効果と、統制の所在の関連を調査した研究があります。

結果は、リハビリ開始時の内的統制が強い人(つまり「自分の力でどうにかできる」と思っている人)ほど、リハビリ後の自立度(介助なしで行える身の回りの行動の数)が向上しており、統計的に有意な正の相関(r=0.72)があったというものでした。

この研究では同時に、高齢者は若年者よりも内的統制が弱いことも示されています。年を取ると「自分が頑張ってもなるようにしかならない」という気持ちになっていくということなのでしょうか。

また同様に、慢性腰痛に対するリハビリの効果を調査した研究でも、内的統制の強い人は、治療1カ月後に症状が有意に改善していることがわかりました。

自分が頑張ればいい結果を引き寄せることができると思っている人ほど、リハビリを「努力」し、その結果として症状が軽快しているのでしょう。

■ダイエットは「性格に合わせたやり方」が成功のカギ

リハビリよりももっと身近な例として、内的統制の人のほうがダイエットを頑張ることを明らかにした研究もあります。

この研究では、過去に体重の10%以上減量した人を対象にしており、そのまま減量を維持している人と、体重が戻ってしまった人に分類し、それぞれの統制の所在を調査しました。

その結果、内的統制の人は減量を維持している傾向が強いことがわかりました。内的統制の人と外的統制の人で、食事の量や内容の差は見られなかったのですが、内的統制の人のほうがよく運動していることもわかりました。

この研究で面白いのは、内的統制の人は「自分で努力して減量した」人が多かった一方で、外的統制の人は「医療や健康のプロフェッショナルの力を借りて減量した」人が多かったことです。統制の所在によって、「努力するための工夫」が異なっていることを示唆しています。

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ある人の統制の所在がわかれば、その人が努力するタイプかどうかを知ることができるかもしれません。

もしそれで「努力しないタイプ」、つまり「なるようにしかならない」「やっぱり運は無視できない」というような外的統制タイプだとわかったとしても、落胆することはありません。

外的統制であるならば、自分1人でやろうとはしないことです。家族や友人、専門家など周囲の積極的なサポートを適切に利用すれば、努力を継続することができる可能性が高いのです。

そしてもし可能であるならば、内的統制になるような意識改革をしましょう。つまり努力したいと思っている物事に対しては「運ではなく、自分の力で結果を変えることができるのだ」と信じてみることです。「人生は自分の力で変えられる」と信じることで、努力は続けやすくなるといえるかもしれません。

■努力vs.運、多数派はどっち?

さて、それでは世の中には、どのくらい内的統制の人、つまり「努力を継続できる人」がいるのでしょうか? 努力を継続できる人はたくさんいるのでしょうか? それとも、ほとんどいないのでしょうか?

筆者が、ある大学の授業で集めたデータを紹介しましょう。

この授業の成績は、マークシート形式の期末試験70%と授業内課題30%で最終的に決定されることになっており、この評価方法は学生に通告してありました。単位を得るには60%以上の得点が必要ですので、学生にとってこの授業の期末試験はかなり重要なものであり、それを学生自身も知っていたということです。

最終回の授業で試験範囲などの説明をしたあとで、次のような2つの質問をしました。

Q1 この授業の定期試験(100点満点)で、あなたは何点を取ることができると思いますか?

Q2 Q1で答えた点数を実現するに当たって、現在のあなたの気持ちに最も近いものを1つ選んでください。
 ・(自分の力によって)どうにかできるだろう
 ・(運によって)どうにかなるだろう
 ・(自分の力不足で)どうにもできないだろう
 ・(運が期待できないので)どうにもならないだろう

全部で357人の学生が回答しました。そしてQ2の分布を見ると、全体の約85%の学生が「どうにかできるだろう」というポジティブな予想をしていましたが、その内訳が興味深いことになっています。

「(自分の力によって)どうにかできるだろう」と「(運によって)どうにかなるだろう」を比べてみると、51.0%の学生が「自分の力によってどうにかできる」、34.5%の学生が「運によってどうにかなる」と考えています。

教員目線では、試験が「運頼み」というのは奇妙に思えるのですが、努力がかなりわかりやすく報われるはずの試験においても、運に期待する外的統制の人は一定割合で存在しているといえるでしょう。

前節で紹介した「内的統制の人ほどダイエットを頑張る」という研究でも、239人の実験参加者のうち114人(約48%)が内的統制、125人(約52%)が外的統制でした。

■だから、「努力させること」を諦めるのはまだ早い

山根承子『努力は仕組み化できる』(日経BP)

このように見てみると、内的統制の人は決して少なくはないようです。これは「努力できない人が多い」「努力を継続できる人は希有」という一般的な印象とは異なる結果ではないでしょうか。

努力に適した性質を持つ人が多いのであれば、ちょっとした工夫で彼らに努力させることができる可能性があります。もしかしたら彼らは、自分が努力を継続することに向いていると自覚していないかもしれません。

特に小さな子どもなどにいえることかもしれませんが、少し後押ししたり、意識を具体的な「努力」に向けてみるだけで、彼らはそれほど苦にせず努力を続けるようになる可能性があります。

※参考文献
・Rotter, J. B. (1966) “Generalized expectancies for internal versus external control of reinforcement” Psychological Monographs: General and Applied, vol. 80(1), pp.1-28.
・Lachman, M. E., and Weaver, S. L. (1998) “The sense of control as a moderator of social class differences in health and well-being” Journal of Personality and Social Psychology, vol. 74(3), pp. 763-773
・Rapolienė, J., Endzelytė, E., Jasevičienė, I., and Savickas, R. (2018) “Stroke Patients Motivation Influence on the Effectiveness of Occupational Therapy” Rehabilitation Research and Practice, vol. 2018, pp. 1-7.
・Keedy, N. H., Ke_ala, V. J., Altmaier, E.M., and Chen, J. J. (2014) “Health locus of control and self-efficacy predict back pain rehabilitation outcomes” The Iowa Orthopaedic Journal, vol. 34, pp. 158-165.
・Anastasiou, C. A., Fappa, E., Karfopoulou, E., Gkza, A., and Yannakoulia, M. (2015) “Weight loss maintenance in relation to locus of control: The MedWeight study” Behaviour Research and Therapy, vol. 71, pp. 40-44.

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山根 承子(やまね・しょうこ)
パパラカ研究所 代表取締役社長
博士(経済学)。専門は行動経済学。大学教員を経て、企業や自治体に行動経済学のコンサルティングを行う法人を設立。行動経済学会常任理事、一般社団法人投資信託協会理事。著書に『今日から使える行動経済学』(共著、ナツメ社)、『行動経済学入門』(共著、東洋経済新報社)など。
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(パパラカ研究所 代表取締役社長 山根 承子)