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盛況のうちに閉幕したパリオリンピック。2021年の東京に続いて「暑さ」が話題になりました。

いったいどれくらい暑かったのかを振り返り、これからの夏季オリンピックはどうなっていくのかを展望してみましょう。

パリ五輪、100年の時をへて再び

Image: Climate Central
オリンピック開催時期のパリにおける平均気温の変化(1924年〜2024年)。気温は華氏。華氏5.5度は、摂氏3.06度。

前回、パリで夏季オリンピックが開催されたのは、100年前の1924年でした。非営利の気候研究団体クライメート・セントラルによると、1世紀たったパリは、前回開催時と比較して気温が3.06度上昇していたそうですよ。3度はキツい…。

日最高気温が30度以上に達する日は、1924年から1933年の10年の合計で69日だったのに対して、2014年から2023年の10年では3倍近い188日まで増加しています。日最低気温が20度以上に達した日数は、1924年から1933年の10年間の4日から、2014年から2023年の10年間では84日と、21倍も増えています。

また、極端な気象現象への気候変動の影響について分析・発表している国際気候研究組織World Weather Attributionは、人為的な気候変動の影響がなければ、この暑さにはなり得なかったと指摘しています。クライメート・セントラルと同じく、気候変動によって気温が3度上昇したと考えられるそうです。

分析に参加した気候科学者フリーデリケ・オットー氏は、

世界は35度の暑さの中で汗だくになるアスリートたちを目撃しています。もしも大気が化石燃料の燃焼による温室効果ガスで汚染されていなければ、パリは約3度涼しく、スポーツにとってはるかに安全な場所になっていたはずです。

とコメントしていますよ。

オリンピック開催前に非営利団体British Association for Sustainable Sportが発表した報告書の中で、世界陸連のセバスチャン・コー会長が気候変動のアスリートへの影響について以下のように記しています。

アスリートにとって、睡眠障害や競技直前のスケジュール変更といった小さな問題から、健康状態の悪化、熱ストレス、故障に至るまで、暑さの影響は多岐に渡ります。世界の気温が上昇を続ける中、気候変動はますますスポーツの存続にとって脅威と考えられるようになってきています。

同報告書では、2019年のドーハ世界選手権の50km競歩で金メダルを獲得したものの、2021年の東京オリンピック出場を辞退した鈴木雄介選手が、ドーハの世界選手権で競技中に脱水症状や熱中症の症状があったと話しています。その後、東京オリンピックに向けてトレーニングを再開するも、一向に状態が回復せず、出場辞退につながったといいます。

そして、「もしもドーハの世界選手権で途中棄権を選択していれば、その後の競技人生は違うものになっていたかもしれない」とし、若い選手たちには自身と同じ経験をしてほしくないと鈴木選手は述べています。

2028年の夏季五輪はLAで開催

さて、次回のオリンピックは、2028年にアメリカのロサンゼルスで開催されますが、地中海性気候で過ごしやすいといわれるロサンゼルスの暑さは大丈夫でしょうか?

CNNが世界主要都市の2050年までの気温上昇を分析したところ、多くの都市でアメリカスポーツ医学界が定めている、スポーツ競技を安全に行なうためのしきい値とされる暑さ指数(湿球温度)である27.8度を超えてしまうそうです。

過去の開催地の中で、2050年には暑すぎてオリンピックどころじゃなくなりそうな都市として、セントルイス、北京、リオデジャネイロ、アテネ、ローマ、東京、アトランタ、ソウル、バルセロナ、ブリスベン、シドニーが挙げられています。

逆に、モントリオール、メルボルン、ロサンゼルス、ロンドン、メキシコシティー、パリ、モスクワ、ベルリン、アントワープ、ミュンヘン、ストックホルム、アムステルダム、ヘルシンキはしきい値を下回っています。

パ…パリ? 今年暑さが問題になったパリは、2050年でも安全そうとのことですが、本当に大丈夫? 一抹の不安が…。

ロサンゼルスは、分析で開催時期に設定された2050年7月20日から8月11日の予想される気温が、日なたでも日陰でもしきい値を下回っています。熱波に見舞われなければ大丈夫そうですね。熱波にさえ見舞われなければ…。

長期的な傾向ではないのであくまでも目安になりますが、前回ロサンゼルスでオリンピックが開催された1984年と今年の7月20日から8月11日の平均最高気温を比較すると、今年の方が2.5度暑くなっています。

1984年のロサンゼルスオリンピックはリアルタイムで見た記憶があります。鮮明に覚えているのは、ロサンゼルスオリンピックから公式競技になった女子マラソンで、暑さによって脱水症状を起こしたアンデルセン選手がフラフラになりながらゴールし、直後に倒れた光景。

印象的なシーンではありますが、40年前よりかなり暑くなっていると思われる2028年のロサンゼルス大会で同じような光景を見ないですむことを願います。

暑いのがわかっているのになぜ夏に開催?

じゃあ暑い時期を避けてオリンピックをやればいいじゃん、と思いますよね。でも、それがなかなか難しいんです。オリンピックに多くのプロ選手が参加するようになりましたが、この時期はシーズンオフのスポーツが多いみたいです。

アメリカのテレビ局の影響も大きいらしく、プロバスケ(NBA)とアイスホッケー(NHL)がシーズンオフで、大学(NCAA)とプロのアメフト(NFL)がシーズンに入る直前のこの時期しか、オリンピックで視聴率をとれないという事情があります。商業オリンピックはスポンサーがついてこそなので、選手や関係者、観客の安全は後回しになっちゃうんでしょうか。

でも、1964年の東京オリンピックは暑さを避けるためもあって10月に、2022年のFIFAワールドカップサッカーは、カタールの暑さを避けるために晩秋に開催された前例もあります。

究極まで体を鍛えているアスリートとはいえ、急速に進む温暖化に適応できるとは思えませんし、それを求めるのは危険です。オリンピック委員会には、アスリートと観客の健康を守るために最善を尽くしてほしいところです。

Source: Climate Central, World Weather Attribution, The British Association for Sustainable Sport, CNN

Reference: X (旧Twitter) / World Weather Attribution, NOAA, Olympics / YouTube, VOX

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