GoogleはAIを利用して信号機の切り替わるタイミングを改善し、赤信号での待ち時間を削減するプロジェクト「Green Light」を進めています。すでにGreen Lightは世界中の複数の都市に導入されつつあるとのことで、その成果やコスト面のメリットについて日刊紙のウォール・ストリート・ジャーナルが報じました。

Stuck at a Red Light? Google Says Its Green Light Will Help Traffic Flow - WSJ

https://www.wsj.com/tech/personal-tech/google-green-light-traffic-light-optimization-992e4252



街中で自動車を運転している時に何度も赤信号に引っかかってしまい、「こんなにテクノロジーが発達した現代で、なぜ赤信号を待つという無駄な時間を過ごさなきゃいけないんだ」と思ったことがある人もいるはず。交通分析会社のInrixが2021年に行った調査によると、アメリカ人は短距離の移動にかかる時間の約10%を信号待ちに費やしているとのこと。また、信号待ちに伴う自動車のアイドリングにより、交差点はその他の公道と比較して温室効果ガスの排出量が29倍に達するとも指摘されています。

Googleの技術研究部門であるGoogle Researchのチームはこうした問題を解決するため、信号機の切り替えタイミングを最適化して赤信号の待ち時間を削減するプロジェクト「Green Light」に取り組んでいます。Green Lightは、ドライバーのスマートフォンにインストールされているGoogleマップのデータをAIモデルで処理し、切り替わるタイミングを最適化するというものです。

すでにアラブ首長国連邦のアブダビ、ドイツのハンブルク、アメリカのシアトル、インドのコルカタといった世界各国の14都市でGreen Lightが導入されており、これらの都市では交差点における車両の頻繁な停止や発進(ストップ&ゴー)が30%も削減できたと報告されています。



Green Lightの大きな利点のひとつが、信号機の切り替えタイミングを変更するために通常必要なコストと時間を削減できるという点です。一般に、行政は信号機の最適な切り替えタイミングを見つけるため、1日を通して交差点を行き交う自動車の数を集計する調査を行います。アメリカではこうした調査に1回当たり約5000ドル(約78万円)ほどの費用がかかるため、ほとんどの信号機は5年に1回ほどの頻度でしか切り替えタイミングが更新されず、中には数十年もそのままの信号機もあるとのこと。

特定のパターンに応じて点灯タイミングを切り替える固定信号機の他に、路面に設置されたカメラやセンサーのデータを基に存在する車の数を検出し、それに応じて点灯タイミングを切り替える「動的信号機」もあります。すべての信号が中央制御システムに接続され、街全体の交差点が瞬間ごとに最適化される動的信号機になるのが理想ですが、その設置には数万ドル(数百万円)のコストがかかり、交差点全体を完全に近代化するには25万ドル(約3900万円)必要という試算もあります。

また、これらの複雑なシステムに伴う追加のメンテナンスコストも生じ、運用すると年間5000ドルほどの追加費用が発生する可能性もあるそうです。当然ながら、資金繰りに苦しむ地方自治体は固定信号機を使わざるを得ません。

これに対しGreen Lightで使用するシステムは、ユーザーのスマートフォンにインストールされているGoogleマップを基盤にしており、追加のカメラやセンサーといった機器は必要ありません。最適化した信号機の切り替えタイミングはオンラインのダッシュボードに表示されるため、自治体はそれに従って信号機の切り替えタイミングを変えるだけでOKです。

また、自治体がGreen Lightのアドバイスに従って信号機の切り替えタイミングを変えた後、交通パターンがどのように変化したのかを測定することもできる点もメリットです。実際に2022年6月から5つの交差点でGreen Lightを導入したシアトルでは、交通パターンが改善されたのかどうかを分析した後、1つの交差点は元に戻して残る4つの交差点は変更を維持したとのこと。市の計画立案者は、従来の方法と並行してGreen Lightを使い続けることで、資金を節約できると考えています。



Green Lightは急速に拡大しており、2024年中には新たな導入都市が発表される予定だとのこと。また、ミシガン大学の交通工学研究者であるヘンリー・リウ教授は、GoogleがGreen Lightの方法論を一般に公開しているため、自動車本体やナビゲーションアプリから適切な種類のデータが取得できれば、その他のテクノロジー系スタートアップや交通機関も同様のシステムを開発可能だと主張。「交差点にカメラを設置する代わりに、車両の移動経路がわかれば車両自体が交通センサーになります」とリウ氏は述べました。