NISAが話題だ。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「新NISAで重要なのはゴールの金額を決めておくことだ。その時に参考になる『数字』がある」という――。
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■日本の半分の世帯では「老後10年」で資金が尽きる

NISAが話題です。とりあえず始めてみた方から、どうしようか迷っていらっしゃる方まで、読者の皆さんも状況は様々だと思います。そもそも新NISAがここまで話題になっているのはなぜでしょうか? この記事では新NISAが話題を集めている理由を3つの切り口からわかりやすく解説します。

話題の理由1:新NISAが老後2000万円問題への解決になるから

政府が新NISAを決めた大きな背景のひとつに「老後2000万円問題」があります。この老後2000万円問題ですが、その意味が意外と知られていないので、あらためて解説させていただきます。

簡単にいえば「仕事がない高齢者夫婦の年金生活では月5.5万円が不足する」という政府による試算結果が発端です。他に収入がない以上、不足する分は貯金を切り崩して生活することになります。月5.5万円の切り崩しが30年間続くと合計で1980万円になります。これが「老後には2000万円の資産が必要だ」という話のもともとの根拠です。

ところが大半の世帯はそんなにお金を持っていません。60歳代の金融資産についての調査では世帯あたりの金融資産の中央値は650万円です。つまり日本全体の半分の世帯では月5.5万円ずつ切り崩していくと10年で資金が尽きてしまうのです。

■新NISAは老後資金をつくる手段である

国民の過半数が不十分な資産しか持てていない最大の理由が、日本人が貯金ばかりしてきたからです。バブル後の時代までは預金金利は高かったのです。1988年から1992年頃のデータをみると郵便貯金の定期貯金金利が一年定期で3.39%〜6.08%と今では信じられないほど高い金利がついていました。

つまり昔は銀行や郵便局に預けた金融資産は増えていったのですが、今はそんな時代ではありません。金利はほぼゼロなのになぜか国民は惰性的に銀行預金を続けています。それを「預金から投資へ」という新しい流れを作ることで変えていこうということから新NISA制度が設計されました。

ですから最初に知っておくべきことは、大半の読者にとっては「新NISAはご自分の老後資金をつくる唯一の手段なのだ」ということです。貯金に頼っていては安心できる老後はやってこないのです。

■「インセンティブをつけると国民は動く」という発見

話題の理由2:ふるさと納税と同じで得だから

この2番目の理由は結構、重要な理由です。1番目の理由で「預金から投資に変えないと老後資金が十分に形成できない」ということが理解できたとしても、大半の人は「リスクが嫌だから」と動きません。

一方でここ数年、政府が学んだことがあります。それは「インセンティブをつけると国民は動くのだ」という発見です。これは行動経済学的な発見といっていいと思います。

たとえばマイナンバーカードを作れといっても、大半の国民は「なんか個人情報が洩れるといやだから作りたくない」と後ろ向きでした。この申請率がはねあがるきっかけになったのがマイナポイントの付与です。

最初は2021年末までにマイナンバーカードの交付申請をした人に5000円のポイントがもらえるという話から始まりました。それが効果があったことから、2023年には健康保険証とマイナンバーカードを紐づけると7500円、公金受取口座を登録するとさらに7500円ポイントがもらえる形にマイナポイントが拡大します。

結果としてみれば、いつのまにかマイナンバーカードの申請率は70%を超えて、いまでは大半の人がマイナンバーカードを所有するところまできたのです。このように国民を動かすにはインセンティブが重要です。

ふるさと納税には地元経済を回す効果がある

インセンティブによって大きく国民が動いた2つめの例がふるさと納税です。これは平たく言えばサラリーマンにとってお得な官製通販そのものです。サラリーマンが住民税の範囲内で地方自治体に寄付をすると3割相当の地産品がもらえます。

サラリーマンにとってはもともと納税していた税金が寄付に変わるだけなので、一律2000円かかる負担金を除けば、ふるさと納税でもらえる商品はただで手に入ったのと同じです。

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寄付をしてもらった側の自治体では商品の代金に加えて発送料などのコストから寄付金の5割は消えてしまい、手元には5割の寄付金しか残りません。そのことを指して「むしろトータルでは税収が減る」という批判がありますが、実は寄付を受けた自治体はそのマイナスを補ってあまりあるプラスの恩恵を受けています。

というのも3割のお金は地元企業におちてきます。乗数効果といってそのお金がさらに回り回ることで、地元経済は5割のコストを取り戻す勢いで経済が回る効果が期待できるのです。

このマイナポイントやふるさと納税で「国民を動かすにはインセンティブが必要だ」と理解した政府が打ち出した、「銀行預金から投資にお金をシフトさせる秘策」が新NISAということです。

あとで細かい計算はお見せしますが、マイナポイントやふるさと納税と違って新NISAは長期的には数百万円規模で得をする仕組みです。だから皆、今年の1月からいっせいに証券口座を開設し始めているというのが、今起きていることなのです。

■「オルカン」か「S&P500」を選ぶ人が大半

話題の理由3:投資が2択でわかりやすい

さてここからが新NISAがここまで広がっている最大の要因です。その3つめの要因とは「投資すべき金融商品が2択でわかりやすい」という事象があります。

預金から投資と言われて、大半の読者は最初は何に投資をしていいかわからないはずです。株を買うとしてどの会社の株がいいのかとか、今、日経平均がバブル期の高値を更新したといって、いつまでその勢いが続くのかとか、大切な預金を株式投資に向けようとすると知識がない方はとにかく心配になるはずです。

ところが実際に証券会社に連絡をして投資アドバイザーの話を聞くと、この悩みは意外と簡単に解決します。「他の方はどうしているんですか?」と訊ねると、大半の人はたった2つの商品のうちのどちらかを選んでいることを教えてもらえるのです。

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それが「オルカン」と「S&P500」という商品です。どちらも簡単に言えばたくさんの外国株に分散して投資をする金融商品です。実は株式というものはひとつひとつはリスクを抱えているのですが、たくさんの株式に分散投資をするとそのリスクが大きく減ることが知られています。

■オールカントリーには日本株と中国株が入っている

1990年代以降に現代金融理論が積み重ねられた結果、一番リスクが少なくなる投資方法は市場全体のインデックスに投資をすることだということが証明されたのです。世界全体のインデックスに分散投資をするのが「オルカン」すなわちオールカントリー型の投資信託で、アメリカの株式市場のインデックスに分散投資をするのがS&P500連動型の投資信託です。

そしてここが重要なことなのですが、そういった事実が広く知られるようになった結果、新NISAを始めた方の大半が「オルカン」か「S&P500」の投資信託を買っているのです。

ちなみに一番人気のオールカントリーは一番リスクが小さい一方で、経済評論家の視点で見ると懸念点があります。それは日本株と中国株が一定比率で入っていることです。世界全体の縮図なのでそうなるのですが、日本株は今調子がいいと言っても1989年から見れば1倍にしか増えていません。

さらに心配なのが中国株です。中国の各都市で起きている不動産バブル崩壊のせいで、中国株のインデックスは昨年来大きく下げていますし、これから数年はさらに不況が続きそうです。

そういった要素を織り込んだオールカントリーよりも、過去一貫して100年以上上昇を続けている、アメリカ経済の発展に集中したほうがいいという考え方があって、そういった方々が二番人気のS&P500連動型投資信託を買っているのです。

■10年以上のスパンで見れば株価インデックスは増加している

さて、ここまでが新NISAが話題になった理由の解説です。ここからは新NISAを始める際の重要なコツを4つのポイントにまとめてみます。

第一に投資は超長期の視野で行うべきです。ゴールはあくまで老後資金2000万円問題の克服です。ですからご自分が65歳〜70歳になったとき、言い換えるともう働けなくなったときに2000万円以上の資産を持っていたいというのがゴールです。

そこで効いてくるのが投資の長期効果です。S&P500を例にとってお話しすれば、これまでもリーマンショックやブラックマンデー、古くはオイルショックなどいろいろな出来事があったのですが、それでも10年以上の長期スパンでみれば一貫して株価インデックスは増加しています。

写真=iStock.com/takasuu
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そして計算してみると1〜2年単位でマイナスになることはあっても、長期でみると「だいたい9年間で資産が倍に増える」という結果になっています。ですからとにかく短期の株価で一喜一憂せずにできるかぎりずっと持っていることが大切です。

■銘柄だけでなく「投資タイミング」も分散が大切

第二に、大きなリスクを避けるためには新NISAでは積立投資を基本にすべきです。

具体的にお話しすれば、今、アメリカ株市場では生成AIと半導体が株価を大きく押し上げています。株は急騰するとどこかで一度、値下がりしていくものです。GAFAMと呼ばれるアメリカのIT大手株は2021年にも一度高騰したことがあるのですが、そのあと2022年から23年中旬くらいまで調整期に入って値下がりしました。

こういった株式市場の上下リスクを回避するためには、銘柄の分散投資に加えてもうひとつ、投資タイミングを分散することが大切だと言われています。新NISAの積立投資は毎月10万円に設定すれば年間120万円、2年で240万円を期間を分散させながら投資できます。2年間にわたって投資を分散させれば「始めた時期が運が悪かった」と後悔するリスクも減らせるでしょう。

第三に為替リスクをどう考えるかです。ここは結論としては「考えないほうがいい」という話になるのですが、そこに至る話を整理しておきたいと思います。

■「この先数年で円高に戻る可能性」がある

ここ数年「悪い円安」という言葉が流行しました。1ドル=150円近辺まで円安が進んだ結果、輸入物価が跳ね上がってしまい、ガソリン代が高騰し、小麦や食用油などの食料品がつぎつぎと値上げラッシュを引き起こしました。

難しい説明は省きますが、今後は日銀とアメリカの金融当局の政策が変わるため、この先数年で逆に円高に戻る可能性が高いと専門家は考えています。すると投資家にとっては困ったことが起きます。新NISAでオルカンやS&P500を買った分が、円高で目減りしてしまうのです。

仮に何年か後に1ドル=120円まで為替レートが円高に戻ったとします。そしてちょうど今、1ドル=150円のときに100万円のアメリカ株の投資信託を買ってしまったとします。1ドル=120円になったとたんにその価値は80万円に目減りしてしまいます。これでは大損です。

そう考えると為替リスクは確かに心配ですよね。もちろん為替の未来は本当のところは「読めない」というのが実態ですので、10年先、20年先は1ドル=80円かもしれませんし、1ドル=250円になっているかもしれません。

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■超長期投資の場合は「為替リスクは心配しないほうがいい」

でも結論としてはそれを心配する必要はないのです。理由は今回新NISA投資をする目的が超長期投資だからです。覚えておくべき数字は先ほど申し上げた「9年で倍になる」という話です。言い換えると18年で4倍、27年で8倍、36年で16倍を狙ってオルカンないしはS&P500に投資をするのです。

その時に1ドル=120円だったとしてもたとえば27年間で8倍になったはずの儲けが8割の6.4倍に減るだけで、得をしていることに変わりはありません。では最悪、老後になってみて1ドル=75円という過去なかったほどの超円高が起きていたとしたらどうでしょう? 8倍に増やしたつもりが円建てだと4倍にしかなっていないので残念ではありますが、それでも資産は銀行に預金するよりもはるかに増えていることになります。

つまり老後に備えた超長期投資の場合は「為替リスクは心配しないでとったほうがいい」というのが私のアドバイスです。

■ゴールに到達する金額をイメージしておくこと

そして最後に重要なポイントは、スタート時点でゴールに到達できる金額をイメージしておくことです。先ほど60歳代の資産の中央値が650万円だと申し上げましたが、同じ調査では30歳代が240万円、40歳代が365万円だとされています。

仮に35歳で240万円で新NISAを始めたとしてみます。71歳、つまり36年後に(過去の実績から)期待できるのは資産16倍です。計算してみると240万円で36年間続けた場合の期待されるゴールは3840万円と老後資金に最低必要な2000万円をちゃんと超えていきます。

同様に45歳で365万円で始めて、27年後、つまり72歳のとき資産がいくらになるかを考えると、期待としては8倍の2920万円です。これも数字上は老後資金2000万円を超えられます。

投資を始める目的は、老後資金のゴールをめざすことです。そのつもりで新NISAをどれだけの金額で始めるのかをきちんと設計しましょう。簡単な目安として「老後資金2000万円必要」という数字と「18年で4倍、27年で8倍、36年で16倍」という数字を組み合わせれば、どう始めるのがいいのかは見えてくるはずです。

NISAを始めるのは若ければ若いほど有利です。ですから「まだ老後なんてずっと先だ」という方ほど、本当は新NISAを始めたほうがいいのです。そしてせっかくの政府が打ち出す新制度です。計画的に頑張ってご自分の未来を明るくしていきましょう。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AIクソ上司」の脅威』など。
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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)