日テレ「カラダWEEK」TBS「地球を笑顔にするWEEK」 テレビ局が“お堅い番組横断キャンペーン”を展開する本当の狙い
●奇しくも同時期開催だったが…
奇しくも同時期開催となった日本テレビの「カラダWEEK」(11月5日〜12日)、TBSの「地球を笑顔にするWEEK」(11月5日〜11日)が終わった。
前者は「さあ、ケンコーをはじめよう! 〜カラダに良いこと、お手軽に〜」のコピーで、主に運動・食事・睡眠・美容などの情報を発信する企画。後者はSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)を考えるためのキャンペーンだった。
両者の共通点は、報道、情報、バラエティ、スポーツなどジャンルの垣根を越えてさまざまな番組を横断する形で行われたこと。つまり、それだけ局を挙げた大きな取り組みということだろう。
ただ、健康にSDGsと堅めのテーマだからなのか、ネット上で大きな話題になることはなかった。なぜテレビ局はこのような堅いテーマの横断的なキャンペーンを行うのか。その背景をテレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
日本テレビ(左)とTBS
○■局が関わるべきテーマと協賛企業
まず「カラダWEEK」は、暑さがやわらぎ体を動かすのに良い時期、寒さやウイルスなどに負けない体を作る時期であることなどから、2015年から毎年ほぼ11月に開催。日テレをよく見ている視聴者にとっては秋の風物詩となっただけに、日テレとしては「“カラダ”や“健康”はテレビ局が積極的に関わるべきテーマ」という位置付けなのだろう。
次に「地球を笑顔にするWEEK」は、国連が報道機関などに向けて資源と創造的才能の活用を促すために設立した“SDGメディア・コンパクト”にTBSが加盟したことから、2020年秋にスタート。それ以前からTBSに限らず環境絡みのキャンペーンはしばしば行われていたが、近年はよりテレビ局が積極的に関わるべき重要なテーマとして扱われている。
次に挙げておかなければいけないのは、協賛企業の存在。
「カラダWEEK」は、協賛企業にYakult、TOYOTA、Esthe Pro Labo、JA共済、ゼリア新薬、MITSUBISHI ELECTRIC、ミネベアミツミが名を連ね、「私たちはカラダWEEKを応援しています」と掲げている。
一方、「地球を笑顔にするWEEK」は、協賛企業にTOYOTA、NISSAN、日清製粉ウェルナ、セブン&アイ・ホールディングス、アサヒ飲料、FamilyMart、KIRIN、コカ・コーラ、P&G、SUNTORY、FIXER、RIZAP、Liv Laboratoriesが名を連ね、「私たちはSDGsに取り組んでいます」と書かれている。
キャンペーンへの協賛は企業にとっても、自社の「カラダ」「SDGs」への取り組みやスタンスを内外に示すチャンス。顧客満足やコンプライアンスの延長線上にあるところだけに、ビジネスへの理解を高めるためにもイメージアップを図っておきたいところだろう。
●スポンサーと協調しておく絶好機
「カラダWEEK」キャプテンの上田晋也
これは裏を返せば、テレビ局にとってスポンサー企業へのアピールや結び付きを強めるチャンスでもあるということ。
実際、各局のテレビマンたちに話を聞くと、「正直な話、そのためのキャンペーンという感もある」「経済界と協調しておきたいテーマだから」という言葉を返す人が少なくなかった。つまり、視聴者に向けたものというより、スポンサーや国際社会に向けたキャンペーンという意味合いもあり、それが盛り上がりづらい理由の1つなのかもしれない。
だからこそ「カラダWEEK」は「キャプテン」に上田晋也、「サポーター」に福原遥、木村昴、やす子、「スペシャルサポーター」に河村勇輝、「デジタルサポーター」に&TEAM。「地球を笑顔にするWEEK」は、「キャンペーン大使」にバナナマン、上白石萌音、杉野遥亮、野口聡一、日比野麻音子アナと、活動ジャンルと年齢の異なる出演者をキャスティングして、幅広い視聴者層を引きつけようとしているのではないか。
あらためて参加番組を振り返ると、「カラダWEEK」は、『日テレアップDate!』『シューイチ』『Going!特別版』『サンデーPUSHスポーツ』『ザ!鉄腕!DASH!!』『行列のできる相談所』『おしゃれクリップ』『有吉ゼミ』『世界まる見え!テレビ特捜部』『スポーツ中継70年 歴史を変えた瞬間TOP100』『踊る!さんま御殿!!』『カズレーザーと学ぶ。』『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』『上田と女が吠える夜』『ぐるぐるナインティナイン』『秘密のケンミンSHOW極』『ダウンタウンDX』『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』『ウェークアップ』『ぶらり途中下車の旅』『嗚呼!!みんなの動物園』『世界一受けたい授業』『1億3000万人のSHOWチャンネル』『笑点』『真相報道バンキシャ!』『Going! Sports&News』『Oha!4 NEWS LIVE』『ZIP!』『DayDay.』『ヒルナンデス!』『news every.』『news zero』の32番組。
「地球を笑顔にするWEEK」は、『THE TIME,』『ラヴィット!』『プチブランチ』『ひるおび』『ゴゴスマ〜GOGO!Smile!〜』『Nスタ』『news23』『アッコにおまかせ!』『バナナマンのせっかくグルメ!!』『CDTV ライブ! ライブ!』『クレイジージャーニー』『バナナサンド』『東大王』『集まれ!内村と○○の会』『ニンゲン観察バラエティ「モニタリング」』『櫻井・有吉THE夜会』『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』『王様のブランチ』の18番組だった。
「地球を笑顔にするWEEK」キャンペーン大使のバナナマン
○■求められるライブ感とエンタメ性
これだけの番組が参加するのだから、局内外で関わる人は多く、当然交流は活発化していく。局内の他部署や他チームとの連携はもちろん、ネット局とのやり取りも含め、本人たちが一体感を意識できる貴重なイベントになっている。
特に日テレの「カラダWEEK」は2015年から9回目だけに、8月末の『24時間テレビ』と正月の『箱根駅伝』に次ぐ局を挙げたイベントとなり、関係者に与える影響力が大きくなっているという。一方のTBSも2020年秋から春・秋の年2回ペースで通算7回目となるため、局内ではすっかり浸透しているようだ。
惜しむらくは、「その局内での影響力や浸透度が、まだ視聴者に届いていない感がある」こと。
今後は堅いテーマだからこそ、各番組も通し企画も視聴者をドキドキさせられるようなライブ感、あるいは参加して楽しいエンタメ性のあるものが求められていくだろう。例えば、X(Twitter)のトレンド入りを積極的に狙っていくような話題性のある企画でなければ、そろそろ視聴者に飽きられるとともに、制作現場のモチベーションが下がってしまうかもしれない。
前述したように、もともと局内やスポンサー向けのニュアンスがあるキャンペーンだけに、いかに視聴者を楽しませていくのか。視聴者に飽きられても、制作現場のモチベーションが下がっても、簡単には止められないものであり、「これまでの形を踏襲していく」という形式的なスタンスでは先細りしていくように見える。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら
奇しくも同時期開催となった日本テレビの「カラダWEEK」(11月5日〜12日)、TBSの「地球を笑顔にするWEEK」(11月5日〜11日)が終わった。
前者は「さあ、ケンコーをはじめよう! 〜カラダに良いこと、お手軽に〜」のコピーで、主に運動・食事・睡眠・美容などの情報を発信する企画。後者はSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)を考えるためのキャンペーンだった。
ただ、健康にSDGsと堅めのテーマだからなのか、ネット上で大きな話題になることはなかった。なぜテレビ局はこのような堅いテーマの横断的なキャンペーンを行うのか。その背景をテレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
日本テレビ(左)とTBS
○■局が関わるべきテーマと協賛企業
まず「カラダWEEK」は、暑さがやわらぎ体を動かすのに良い時期、寒さやウイルスなどに負けない体を作る時期であることなどから、2015年から毎年ほぼ11月に開催。日テレをよく見ている視聴者にとっては秋の風物詩となっただけに、日テレとしては「“カラダ”や“健康”はテレビ局が積極的に関わるべきテーマ」という位置付けなのだろう。
次に「地球を笑顔にするWEEK」は、国連が報道機関などに向けて資源と創造的才能の活用を促すために設立した“SDGメディア・コンパクト”にTBSが加盟したことから、2020年秋にスタート。それ以前からTBSに限らず環境絡みのキャンペーンはしばしば行われていたが、近年はよりテレビ局が積極的に関わるべき重要なテーマとして扱われている。
次に挙げておかなければいけないのは、協賛企業の存在。
「カラダWEEK」は、協賛企業にYakult、TOYOTA、Esthe Pro Labo、JA共済、ゼリア新薬、MITSUBISHI ELECTRIC、ミネベアミツミが名を連ね、「私たちはカラダWEEKを応援しています」と掲げている。
一方、「地球を笑顔にするWEEK」は、協賛企業にTOYOTA、NISSAN、日清製粉ウェルナ、セブン&アイ・ホールディングス、アサヒ飲料、FamilyMart、KIRIN、コカ・コーラ、P&G、SUNTORY、FIXER、RIZAP、Liv Laboratoriesが名を連ね、「私たちはSDGsに取り組んでいます」と書かれている。
キャンペーンへの協賛は企業にとっても、自社の「カラダ」「SDGs」への取り組みやスタンスを内外に示すチャンス。顧客満足やコンプライアンスの延長線上にあるところだけに、ビジネスへの理解を高めるためにもイメージアップを図っておきたいところだろう。
●スポンサーと協調しておく絶好機
「カラダWEEK」キャプテンの上田晋也
これは裏を返せば、テレビ局にとってスポンサー企業へのアピールや結び付きを強めるチャンスでもあるということ。
実際、各局のテレビマンたちに話を聞くと、「正直な話、そのためのキャンペーンという感もある」「経済界と協調しておきたいテーマだから」という言葉を返す人が少なくなかった。つまり、視聴者に向けたものというより、スポンサーや国際社会に向けたキャンペーンという意味合いもあり、それが盛り上がりづらい理由の1つなのかもしれない。
だからこそ「カラダWEEK」は「キャプテン」に上田晋也、「サポーター」に福原遥、木村昴、やす子、「スペシャルサポーター」に河村勇輝、「デジタルサポーター」に&TEAM。「地球を笑顔にするWEEK」は、「キャンペーン大使」にバナナマン、上白石萌音、杉野遥亮、野口聡一、日比野麻音子アナと、活動ジャンルと年齢の異なる出演者をキャスティングして、幅広い視聴者層を引きつけようとしているのではないか。
あらためて参加番組を振り返ると、「カラダWEEK」は、『日テレアップDate!』『シューイチ』『Going!特別版』『サンデーPUSHスポーツ』『ザ!鉄腕!DASH!!』『行列のできる相談所』『おしゃれクリップ』『有吉ゼミ』『世界まる見え!テレビ特捜部』『スポーツ中継70年 歴史を変えた瞬間TOP100』『踊る!さんま御殿!!』『カズレーザーと学ぶ。』『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』『上田と女が吠える夜』『ぐるぐるナインティナイン』『秘密のケンミンSHOW極』『ダウンタウンDX』『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』『ウェークアップ』『ぶらり途中下車の旅』『嗚呼!!みんなの動物園』『世界一受けたい授業』『1億3000万人のSHOWチャンネル』『笑点』『真相報道バンキシャ!』『Going! Sports&News』『Oha!4 NEWS LIVE』『ZIP!』『DayDay.』『ヒルナンデス!』『news every.』『news zero』の32番組。
「地球を笑顔にするWEEK」は、『THE TIME,』『ラヴィット!』『プチブランチ』『ひるおび』『ゴゴスマ〜GOGO!Smile!〜』『Nスタ』『news23』『アッコにおまかせ!』『バナナマンのせっかくグルメ!!』『CDTV ライブ! ライブ!』『クレイジージャーニー』『バナナサンド』『東大王』『集まれ!内村と○○の会』『ニンゲン観察バラエティ「モニタリング」』『櫻井・有吉THE夜会』『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』『王様のブランチ』の18番組だった。
「地球を笑顔にするWEEK」キャンペーン大使のバナナマン
○■求められるライブ感とエンタメ性
これだけの番組が参加するのだから、局内外で関わる人は多く、当然交流は活発化していく。局内の他部署や他チームとの連携はもちろん、ネット局とのやり取りも含め、本人たちが一体感を意識できる貴重なイベントになっている。
特に日テレの「カラダWEEK」は2015年から9回目だけに、8月末の『24時間テレビ』と正月の『箱根駅伝』に次ぐ局を挙げたイベントとなり、関係者に与える影響力が大きくなっているという。一方のTBSも2020年秋から春・秋の年2回ペースで通算7回目となるため、局内ではすっかり浸透しているようだ。
惜しむらくは、「その局内での影響力や浸透度が、まだ視聴者に届いていない感がある」こと。
今後は堅いテーマだからこそ、各番組も通し企画も視聴者をドキドキさせられるようなライブ感、あるいは参加して楽しいエンタメ性のあるものが求められていくだろう。例えば、X(Twitter)のトレンド入りを積極的に狙っていくような話題性のある企画でなければ、そろそろ視聴者に飽きられるとともに、制作現場のモチベーションが下がってしまうかもしれない。
前述したように、もともと局内やスポンサー向けのニュアンスがあるキャンペーンだけに、いかに視聴者を楽しませていくのか。視聴者に飽きられても、制作現場のモチベーションが下がっても、簡単には止められないものであり、「これまでの形を踏襲していく」という形式的なスタンスでは先細りしていくように見える。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら