ガザ地区の北部から南部へ移動する市民。日経平均は上昇へのシグナルが灯ったと言える。だが、兜町は中東情勢の悪化を警戒している(写真:ブルームバーグ)

期待の大きかった10月相場。まずはこの2週間を振り返ってみよう。

受け渡し日ベースで見ると、実質10月相場入りしたのは9月28日である。ここから日経平均株価は5営業日連続で10月4日まで下落。合計1845円安となり、10月の1週目は波乱で始まった。

強気予想は不変でも、直近の日経平均急落は見通せず

筆者は、2023年の大発会から始まった今回の大相場が、2024年まで、場合によっては2025年いっぱいまで続くとみており、この相場観に変わりはない。しかし、53年間にもなる「兜町暮らし」の中で、見通しが外れたことはこれまで何度もあったのだが、これだけ見事に外れた記憶はない。

もちろん、9月中盤を超えてから2週間の4兆6037億円に及ぶ対内証券売買契約(財務省ベースでの外国人投資家動向)の売り越しについては、詰まるところ、配当の税金対策における海外ファンドの「玉移動」という特殊要因が大きいことはわかっていた。

また、ウクライナ戦争の最中に、アメリカの議会がさまざまな対立から機能麻痺状態に近くなっても、政府機関が完全に閉鎖されるはずもないと思っていた。実際、同国の混乱は筆者の想定内だったことから、日経平均は今年の高値をつけてからのモミ合いゾーンの下値である3万1500円前後を簡単に割れることはないと思っていた。

実際は、3万1500円どころか、その下があった。当初の下げはアメリカの混乱で同国債が売られ、長期金利が上昇するという「悪い金利上昇」に過度に反応したのが原因だ。だが、アメリカよりも日本株の下げが激しかったことで、「何か日本国内に隠れた悪材料があるのか」との不安が広がった。

3万1500円を割れたことで、高値での「大きなしこり」を作ることになっただけでなく、3万1000円を割り、4日はザラバで3万0487円まであった。

3万0500円前後は2021年の高値で、テクニカル面でも非常に重要な水準である。ここまで下げたことで、市場は総悲観となり、勢いに乗った売り方は「日経平均3万円割れ、相場崩壊」まで想定し、大量の売り物がたまった。

「自動売買に弱い日本株」の体質が露呈した

前出の日経平均3万0500円前後の水準は、昨年の2022年は1度も抜けなかったガチガチの「上値のカベ」だった。だが、今年の大発会を起点とする上昇相場で抜いたことで、今度は「重要な下値支持の岩盤」に変わった。

5日に日経平均が反発して3万1000円台に戻ったことで、まさに上記のテクニカル面での見方が機能し、一気に買い戻し相場が爆発。今度は一転して、10月12日まで予想外の1967円もの急騰(10月)となった。

前出のとおり、今回の日経平均の急落と、直後の急騰の原因はアメリカ長期金利の変動による。だが、同国の10年債利回りとの関係でいうと、日経平均は4.8%前後で急落して4.6%前後で急騰したことになる。

結局、アメリカの長期金利が、たった0.2%前後の範囲で動いただけで、日本株はこれだけ変動したわけだが、AI(人工知能)を駆使した先物の自動売買に極めて弱い体質があることをあらためて認識させられた。個人投資家の方々は、今後とも冷静に対応しなければならない。

しかし、今回の異常ともいえる上下動が、まったく意味がなかったわけではない。日経平均は、大発会から7月3日までを「上昇第1波動」とすると、約3カ月に及ぶ調整局面を終え、ようやく「上昇第2波動」開始のシグナルが灯ったといえよう。

重要な上昇シグナル点灯、岸田政権の政策も評価へ

筆者がいつも重視している、買い方と売り方の勢力を表す「移動平均総合乖離」(25・75・200日移動平均線の乖離率の合計)で見ても、この値はプラスに転換しており、買い方が有利な情勢だ。

また、簡単にいえば売り場か買い場かの目安ともなる騰落レシオ(25日)も、9月25日の141%から急激に下がり、13日現在では買い場ともいえる81%台になっている。

一方、ファンダメンタルズ(基礎的条件)で見ると、デフレ脱却相場のカギとされていた半導体の需要が回復に向かっており、これでハイテク系と、自動車などのバリュー系との2本柱が整ったことになる。

企業業績面で見ても悪くない。10月13日現在の日経平均予想EPS(予想1株利益)は約2108円と、戻り歩調だ。また、IMF(国際通貨基金)の世界経済成長率予測で見ても、先進国の中で日本は相対的に高い成長予測(2023年2.0%、2024年1.0%)となっている。

その中で、岸田政権が景気対策として5本柱を示し、さらに減税政策の検討や、運用大国への決意を世界にアピールしたことで、世界の投資家から見れば、「2023年の2%のあとの2024年のたった1%成長」など、許されない状況になっている。

しかも、インフレ懸念が続くアメリカ、デフレ懸念のある中国、低成長が続きそうな欧州ということになれば、世界の投機資金の向かうところはおのずと狭まってくるはずだ。

また、国内の資金量で見ても、9月のマネーストック(M3)は前年同月比+1.8%の1591兆3000億円となっている。これは、新型コロナウィルスの「5類感染症移行」などの理由もあり、過去最高だった8月からは3兆4000億円減っているものの、引き続き高水準だ。

「戦い」はこれからだ

ただし、「反転態勢に入った」と言っても、13日現在の日経平均は3万2315円だ。日経平均が高値をつけた7月だが、同月の3万3000円台での東証プライム市場の売買高合計は200億株を大きく超えている。含み損を抱えている人も多くいることから、高値を抜くための戦いはこれからが本番だ。

さらに、兜町筋と話をしていて意外に思うのが、今回のイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突に対する注目度の高さだ。経済やファンド運用への影響度は、ウクライナ戦争に比べればはるかに小さい。なのに、なぜか兜町は気にしている。その理由はウォール街にあるようだ。

ウォール街とユダヤ資本の関係は昔から言われてきたことだが、ウォール街はアメリカの学生たちの間に広がっている「反ユダヤ」容認の気配をかなり気にしているようだ。学生たちは、今回の事変の歴史的本質を知っている。

ウォール街にしてみれば、ウクライナ戦争に対する世論に比べると、嫌な雰囲気だと警戒しているようだ。そんな雰囲気が、お金の動きに敏感な兜町にも伝わっているとみられる。このあたりはしっかり見極めたい。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(平野 憲一 : ケイ・アセット代表、マーケットアナリスト)