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大人の男性と同じくらいの高さがある弦楽器、コントラバス。大きなコントラバスから奏でられる低音は人気ですが、その運搬には苦労がつきもののようです。

あるコントラバス奏者の男性が、電車でコントラバスを運んでいたところ、駅のホームで別の乗客に激突されたそうです。

男性は9月29日、エックス(旧ツイッター)に「嫌な音がした」とつづり、ケースの内部で弦を支える駒の部分が外れてしまっているコントラバスの写真を公開しました。

不幸中の幸いで、修理可能だったそうですが、ぶつかった乗客はその場を去っていたとのことで、男性は、もし相手がわかった場合、「賠償金を請求できるものなのか」と疑問を投稿しています。

今回のようにコントラバスが壊れてしまっていた場合、ぶつかってきた乗客に賠償請求できるのでしょうか。鉄道に造詣の深い甲本晃啓弁護士に聞きました。

⚫️損害賠償を求めることができる

列車内に限ったことではありませんが、法律上、他人の手荷物を故意または過失によって破損した場合は、損害賠償責任が発生します。

「故意」とはわざと壊すような場合、「過失」とは不注意をいいますが、具体的な状況から判断することになります。もし嫌がらせでわざとぶつかってきたとすれば、修理費などの損害賠償を求めることができるという結論になります。

不注意といいましたが、列車内では同じ空間にたくさんの人がいますので、互いに周囲の状況に注意を払わないといけません。法律上は注意義務といいます。乗客として通常の払うべき程度の注意をしておらず、他人の物を壊してしまえば、過失があると判断されます。

一方、義務を尽くしていても避けられないような場合、過失はなかったと評価されます。具体的な状況、たとえばラッシュで混雑している車内や駅構内で、避けようがなくぶつかってしまうケースでは、過失がないと評価される場合もありうると思います。

このように過失の有無は具体的な状況判断になりますので、鉄道会社により車内に持ち込み可能とされている大きさを超えていたかどうかどうかは、直接的にはその判断に影響しません。

⚫️楽器を持ち込む側も注意が必要

鉄道会社によっては、楽器やサーフボード、自転車などについては、携行バッグやケースに入れることを条件に規定のサイズを超えても持ち込めるとされており、JR東海やJR東日本、東急電鉄などのホームページでは「長さの制限を超える場合であっても、車内で立てて携帯できるものは持ち込むことができます」と公式にアナウンスされています。

手回り品のルールは、鉄道会社ごとに異なるとは思いますが、他の鉄道会社についてもコントラバスの持ち込みを断っているという話は聞いたことがありません。

実際、新幹線でコントラバスをデッキに立てて運んでいたら車掌さんから駅ごとに左右どちらのドアが開くかを教えてもらって嬉しかったという投稿が有名になったことも過去にはありました。

一般論ですが、持ち込んだ楽器の所有者にもその管理には相応の注意が必要です。もし管理が不十分であれば、その度合いに応じて「過失相殺」といって、損害賠償請求が減額されることがあります。たとえば、通路に楽器を放置していたような場合、放置していた所有者にも過失があるので、相応の減額はされると思います。

⚫️泣き寝入りのケースも…保険で備えを

しかし、どんな事情であれ、わざとぶつかってきた場合は故意ですから、過失相殺はなく、ぶつかったほうが全額の損害賠償責任を負います。

とはいえ、今回のように、逃げられてしまえば、事実上は泣き寝入りになることも多いため、楽器については動産保険に加入し、万一の場合に修理代を保険で賄えるようにして自衛することも検討するとよいでしょう。

【取材協力弁護士】
甲本 晃啓(こうもと・あきひろ)弁護士
理系出身の弁護士・弁理士。東京大学大学院修了。丸の内に本部をおく「甲本・佐藤法律会計事務所」「伊藤・甲本国際商標特許事務所」の共同代表。専門は知的財産法で、著作権と特許・商標に明るい。鉄道に造詣が深く、関東の駅百選に選ばれた「根府川」駅近くに特許事務所の小田原オフィスを開設した。
事務所名:甲本・佐藤法律会計事務所
事務所URL:https://ksltp.com/