病気になった際の治療費は、治療や投薬の頻度・期間、さらには治療や薬の種類によって高額になることもあり得ます。現役世代であれば、かかった医療費の3割を自己負担することになっていますが、手術や入院などを伴うような大きな病気やけがをした場合には、治療費としてまとまった金額を一時的に支払わなければならないケースもあるでしょう。
日本では、そのようなケースに対して「高額療養費制度」や「医療費控除」など、負担を軽減する制度を設けています。ただし、内容をきちんと理解したうえで利用しないと、想像以上に高い医療費を請求され、頭を悩ませることになるかもしれません。
今回は高額療養費制度や医療費控除の概要と併せて、それぞれの制度の違いについても解説します。
過去に多額の医療費を負担したことがある人や、これから入院や手術を予定している人、万が一の際に高額な医療費がかからないか心配している人などはぜひ参考にしてください。

高額療養費制度とは?

高額療養費制度とは、1ヶ月(その月の1日から末日まで)にかかった医療費が、年齢や所得によって定められた上限を超えた場合、その超えた部分が還付される制度です。

69歳以下の方で、年収が約370~約770万円の場合、以下の計算式で求められる金額が上限となります。

(計算式)
8万100円+(医療費-26万7,000)×1%

自己負担額は世帯で合算できるため、被保険者本人とその家族でかかった医療費の合計が上限額を超えた場合にも適用できます。

また、70歳以上の人に対しては、入院や手術だけではなく、外来だけでの個人の負担額が上限を超えた場合も適用される仕組みです。

さらに、治療が長期化した場合の負担を軽減する仕組みも設けられています。それが「多数回該当」といわれるものです。
多数回該当とは「多数該当高額療養費」の略称で、過去1年以内に合計3回以上高額療養費制度の上限に達した場合は、4回目以降の医療費については「多数回」に該当するとされ、さらに上限額が引き下げられます。

上で紹介した例を用いると、69歳以下で年収約370~約770万円の負担上限額は「8万100円+(医療費-26万7,000)×1%」ですが、4回目以降は上限額が4万4,400円となり、自己負担額が大きく下がる計算です。

高額療養費制度を利用するには、原則として加入している健康保険組合(国民健康保険に加入している場合は市区町村役場)に申請しなければなりません。申告期限は診療を受けた月の翌月の初日から2年となっていますので、該当した場合は早めに申告するようにしましょう。

上限額
上でも述べたとおり、高額療養費制度の上限額は年齢および年収によって異なります。
上限額を求める計算式は以下のとおりです。

※1 世帯全員の住民税の「所得割」と「均等割」の両方が非課税になる世帯で、「住民税非課税世帯Ⅰ」に該当しない世帯のこと ※2 世帯全員の住民税の「所得割」と「均等割」の両方が非課税になる世帯で、各人の公的年金収入が80万円以下かつそのほかの所得がない世帯のこと

高額療養費制度の対象外の医療費とは?
高額療養費制度は万が一の医療費負担を軽減するありがたい制度ですが、病院で支払った医療費すべてが高額療養費制度の対象となるわけではありません。対象となるのは、あくまでも公的医療保険が適用になる医療費のみです。そのため、入院中の食事代や差額ベッド代、先進医療に要した費用や自由診療費など、保険適用外の医療費については高額療養費制度の対象外となる点に注意が必要です。

自分が支払った医療費が保険適用か否かは、病院が発行する医療費の領収書または請求書で確認することができます。支払った医療費に公的医療保険が適用にならないものが含まれている場合は、それを省いた医療費総額が前述の上限額を超えているかどうかで判断しましょう。

高額療養費制度の効果とは? いくら医療費が安くなるのか?

では、高額療養費制度を利用することで、自分が支払う医療費の負担をどこまで削減できるのでしょうか。具体的な例を挙げて解説します。

(例)
対象者年齢:50歳(勤務先の健康保険組合に加入)
年収:700万円
病院で手術および入院治療を受け、ひと月の医療費負担(窓口で支払った額、保険適用外のものを除く)が60万円だった場合(なお、この月にほかの家族での医療費の負担はなかったものとする)

50歳で年収700万円の場合、高額療養費制度における自己負担額の上限は以下の計算式で求めます。
8万100円+(医療費-26万7,000円)×1%
つまり、上限額は8万100円+(60万円-26万7,000円)×1%=8万3,430円です。
そうなると、還付される金額は60万円-8万3,430円=51万6,570円となり、実際に支払った金額の約14%にまで負担を軽減できたことになります。

医療費控除とは?

医療費控除とは1年間(その年の1月1日~12月31日)に支払った医療費が一定の基準を上回った場合、所得税および住民税の計算において控除を受けられる仕組みです。

医療費控除を申告する際の医療費の額は、確定申告をする本人と生計を一にする配偶者およびそのほかの親族が負担した医療費も合算できます。

医療費控除の金額は、以下の式で求めます。
窓口で実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補填される金額-10万円※
(※その年の総所得金額などが200万円未満の場合は総所得金額など×5%)

なお、医療費控除は自分で確定申告をしなければ適用されません。確定申告を行うことにより、再計算された所得税額との差額が還付される仕組みです。確定申告は原則として対象となる年の翌年2月16日~3月15日に行いますが、もし申告し忘れていたとしても過去5年間は遡って申告できます。ただし、医療費控除の額には上限があり、最高でも200万円となっている点も忘れないようにしましょう。

ちなみに医療費控除と似た制度にセルフメディケーション税制がありますが、医療費控除との併用はできません。より多くの還付金を受け取れるほうを選択して、確定申告しましょう。

高額療養費制度と医療費控除の違いとは?

医療費の還付を受けられるという意味では似た制度である高額療養費制度と医療費控除にはどのような違いがあるのでしょうか。
ここでは、高額療養費制度と医療費控除の違いについて解説します。

手続き方法が違う
高額療養費制度と医療費控除は、いずれも申請しなければ還付を受けることができない点は同じですが、申請先が異なります。

高額療養費制度の申請先は、勤務先で健康保険組合に加入しているならその健康保険組合に、国民健康保険に加入しているなら管轄の市区町村役場です。一方、医療費控除は確定申告(還付申告)によって税務署に申告しなければなりません。

医療費の範囲が違う
よく間違われる点の一つに、対象となる医療費の範囲が挙げられます。高額療養費制度と医療費控除とでは対象となる医療費の範囲が異なることを、ぜひ知っておきましょう。

高額療養費制度の対象となる医療費の範囲については、上で述べたとおり公的医療保険適用の治療費のみです。それに対し、医療費控除は保険適用分の治療費だけでなく、それ以外の治療費も対象です。この違いを知らなかったばかりに本来よりも少ない額で医療費控除の申告をしてしまう人も見られます。

効果が違う
制度を利用した際の負担額の減額効果が異なる点も、二つの制度の違いです。

高額療養費制度では、年齢や年収に応じて求められる上限額を超えた部分の医療費が払い戻されます。一方、医療費控除の制度は最終的な課税所得税額を求めるうえでの所得控除の一つであるため、控除される額は最終的に適用される税率によって異なります。そのため、課税所得金額が大きく、適用される税率が高い人ほど多く還付を受けられる仕組みになっています。

高額療養費制度と医療費控除は併用できるのか?

高額療養費制度と医療費控除は併用できます。

申請の手順としては、まず高額療養費制度を申請して上限額を超えた医療費の払い戻しを受け、その後、確定申告にて医療費控除を申告します。その際には、高額療養費制度によって補填(払戻し)された金額を差し引く必要があることを忘れないようにしてください。

つまり、上の例で60万円の医療費を払って高額療養費制度で51万6,570円の還付を受けたのであれば、医療費控除にて申告できる医療費の額は8万3,430円であり、60万円ではありません。

高額療養費制度と医療費控除を併用する際には、この点に注意して正しい金額を申告するようにしましょう。

まとめ

高額療養費制度とは、ひと月の間に高額な医療費を負担した場合に、年齢と年収によって計算された上限額を超えた部分が払い戻される制度です。そして、似た制度である医療費控除とは所得控除の一種です。

高額療養費制度と医療費控除は手続きの方法や対象となる医療費の範囲、さらには削減できる負担額の効果などに違いがあります。二つの制度を併用することは可能ですが、前述のとおり注意点もあることを理解したうえで制度を利用しましょう。