【紗倉まなさん執筆】草刈民代さん編コラム
毎週月曜よる10時放送中の『推しといつまでも』(全国ネット MBS/TBS系)は、長年心に秘めながら推し本人に伝えてこなかった熱い思いや、感謝の気持ちを伝えるきっかけの場となるような様々な企画をお届けする番組。
『推しといつまでも』では、特別企画として<読む『推しといつまでも』>を期間限定で実施中!様々な業界で活躍する著名人の方が、番組を放送前に見て、率直な感想をコラムとして執筆。今回は、セクシー女優の紗倉まなさんです!
草刈民代編(紗倉まな)
日本のバレエ界を牽引し続け、映画「Shall we ダンス?」では主演を務めた。放映時、私はまだ3才だった。番組内で草刈さんの輝かしい経歴に触れていくにつれ、こんなにすごい人だったのかと改めて知る人も多かったのではないだろうか。今回の放送では、草刈さんと、その草刈さんを推す側である仁美さんという女性の間に漂う絶妙な空気感が映し出されていて、仁美さんの背景にある「物語」に見入ってしまった。
草刈さんに憧れて同じバレエ団に入団した仁美さんは、草刈さんを推しながらも大先輩として敬愛し、ファン歴30年(!)でありながらその思いは一度も伝えたことがないという。ものすごく近いところにいるのに、ものすごく遠い人物として草刈さんを見つめ続けてきた仁美さんの思いは、並大抵のものではない。バレエダンサーを志す契機となり、紛れもなく仁美さんの人生の道標となった草刈さんに対して、仁美さんはどのようなおもてなしを考えるのだろうか。
外側から、誰かを推している様を見るのは面白い。推し活から溢れ出るパワーはまぶしくて、何より「推す」というのは一筋縄ではないかないことばかりなのだ。「この人になりたい」というシンプルな気持ちを保持し続ける人もいれば、応援の域を超えてうずうずと欲が出て、恋愛めいた感情が入り混じることもある。推している数だけ物語がある。私は誰かを熱烈に推した経験がないから、推す側の好意と情熱を目の当たりにすると、いつも衝撃を受けてしまう。
「推し」という言葉が流行り始めてから、応援の仕方の多様性について考えられるようになった。推す際に、相手に何を求めるかが各々で異なっているのだから、応援の仕方だって当たり前に違う。相手から認知されたい、いえいえひっそりと見ているだけでいいんです、といった具合に少しずつ違う。応援の量や質を問うツイートが、たまにタイムラインで流れてくる。どれだけグッズを買えたか、コンサートやイベントに参加できたか、リプを飛ばせたかいいねをもらえたか...。推す側にも承認欲求が芽生えることはあって、推されている側が見返りを求められて悩むこともある。「可愛い、綺麗!」「こういう人になりたい!」「この人を見ていると元気になる!」そんな純粋な感情から派生した、推すという行為。それがいつの間にか濁ったり、生きる希望に満ちていた推しの存在によって心が折れたりもする。現に、そんな状態に陥った人を私も何人か見たことがある。
だからこそ、推すことも、推し続けることも実はとても難しい行為なのだと思う。自分が推しからどう思われるかを考えて、推しから好かれるため、推しを心地よくさせるために行動を変えるケース。推しの幸せをただひたすらに願っていて、推しが楽しく生きてくれることが自分の幸せとして跳ね返ってくるケース。ケースバイケース。だから常に、推される側も推す側も自身の存在を変容させ続けていて、そうして距離感や関係性が自然と変わっていくものなのだ。簡単に「推す」という言葉を使いながらも、その実情は込み入っていて複雑。だからこそ、今回の仁美さんのように30年という長い期間にわたって、表立って相手に思いを伝えることなく、密かに、その人の存在を心に宿し続けて生きていることに、私は痺れたのだと思う。
就職や結婚や出産など人生のフェーズが変わっても、仁美さんのように誰かを推し続けることはできるのだろうか。もちろんそれが推す行為の正解なのだと言いたいわけではなく、さまざまな出来事に晒されてもその人のことをすぐに思い出せること、そして、そうした存在になり得ることがすごい。奇跡に近いのではないか。映画や音楽を鑑賞していて、「昔はあんなに感じ入ったのに今は響かないな...」現象が起きるのと同様に、人との出会い方やその先に繋がる縁は、全て自身のコンディションによって左右されるものだろう。仁美さんは、草刈さんと、最高の出会い方をしたのだ。それだけ魅力的な存在として誰かの胸の中で生き続ける草刈さんと、その魅力をずっと感じ続けて応援できる仁美さんの、どんと構えた二人の強くてあたたかい気が絡まり合う。なんというか、「推す側と推される側」の集大成を見てしまった感じ。
懸命に草刈さんのためにサプライズを企てて、室内を華やかに彩り、草刈さんをもてなす食べ物を考え、ダンスの練習をする仁美さん。推している自分がどう思われるのかよりも、推しである草刈さんがとにかく喜んでくれることを、楽しんでくれることを願う。草刈さんを見つめる仁美さんの瞳はずっと嬉しさと感動で煌めいていて、これを無償の愛という言葉以外に、どうあらわしたらいいのか迷う。最高のバランス感覚を培ってきたバレリーナ達の、ジェンガに挑戦するシーンはとにかく必見(めっちゃ笑った)。ぶれることのない、その軸は強い。
紗倉まな
1993年、千葉県生まれ。工業高等専門学校在学中の2012年にSODクリエイトの専属女優としてAVデビュー。
2016年2月、『最低。』で作家デビュー。著書に小説『最低。』『凹凸』『春、死なん』『ごっこ』、エッセイ集『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』『働くおっぱい』など。ラジオパーソナリティや報道番組のコメンテーターなど、活動の幅を広げている。