孤独な人は「世界の感じ方」が孤独でない人だけでなく他の孤独な人とも異なっているという研究結果
ロシアの文豪であるレフ・トルストイは、著書「アンナ・カレーニナ」の冒頭で、「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」と記しました。「孤独」を感じている人の脳活動を測定した新たな研究では、トルストイが記したように、孤独な人の脳活動は孤独を感じていない人だけでなく、孤独を感じている他の人とも異なっていることが判明しました。
https://doi.org/10.1177/09567976221145316
Brain scans reveal that lonely people process the world in unique ways
https://dornsife.usc.edu/news/stories/brain-scans-lonely-people-process-unique/
Lonely People's Brains Work Differently, New Evidence Shows : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/lonely-peoples-brains-work-differently-new-evidence-shows
社会的な動物である人間にとって「孤独」はつらいものであり、過去の研究から孤独は精神だけでなく身体にも有害であることが示されています。孤独な人は「他人に理解されていない」という感情を持つことが多く、孤独な人とそうでない人を分けるものが何なのかを知ることは、孤独の予防や治療において重要です。
そこで、研究当時はカリフォルニア大学の元博士研究員であり記事作成時点では南カリフォルニア大学の心理学助教を務めているエリーザ・ベック氏が率いる研究チームは、18〜21歳の大学1年生66人を被験者にした実験を行いました。
まず、66人の被験者は孤独感や社会的孤立の程度を測定する(PDFファイル)UCLA孤独尺度のアンケートに回答。研究チームはこのアンケート結果を基に、被験者を「孤独なグループ」と「孤独でないグループ」に分類しました。その後、被験者の脳活動を磁気共鳴機能画像法(fMRI)で測定しながら、「感傷的なミュージックビデオ」「パーティーの様子」「スポーツイベント」などを含む14個のビデオクリップを見てもらったとのこと。
研究チームは、被験者の脳内の214にわたる異なる領域がビデオの刺激に対してどのように反応するのか、被験者間でどのような類似点や相違点があるのかを分析しました。その結果、孤独でない被験者はいずれも神経学的に似たような脳活動を示していましたが、孤独な被験者は実際に持っている友達や社会的つながりの数に関係なく、独特の脳活動を示す傾向がみられたと研究チームは述べています。
孤独な被験者の脳活動は、特に視点の共有や主観的理解に関連しているデフォルトモードネットワークにおいて違いが顕著であり、脳の報酬系に関与する領域でも他の人と異なっていたとのことです。さらに、孤独な被験者の脳活動は他の孤独な被験者とも異なっており、孤独だからといって類似した脳活動を示すわけではないことも判明しました。
デフォルトモードネットワークにおける脳活動パターンの類似性が低いということは、孤独な人は世界を理解する方法が他の人と異なっていることを示唆しています。世界に対する共通の理解を形成できないことは、孤独な人が社会的つながりを確立するのに苦労し、孤立感を覚える理由かもしれません。
ベック氏は、「孤独な人々はお互いに類似していないことに驚きました」「『アンナ・カレーニナの原理』は孤独な人々を表現するのにふさわしい言葉です。彼らは普遍的なものではなく、特異な方法で孤独を経験しているからです」とコメントしました。