ゼンショーに売却されるロッテリア。「絶品チーズバーガー」など人気商品もあるが、繁華街の店舗も撤退するなど苦戦が続いていた(写真:アフロ)

ロッテホールディングスが、ハンバーガーチェーン「ロッテリア」を展開するロッテリアの株式をゼンショーホールディングスに売却すると発表し、外食業界に大きな激震が走っている。

ロッテリアは国内3位の店舗数を誇るハンバーガーチェーン。1972年の誕生以来、マクドナルドやモスバーガーとともに、日本の外食産業をつくりあげてきたが、ここ数年は苦戦が続いていた。実際、2022年3月期こそ7億5600万円の純利益があったが、2021年3月は4億5000万円の赤字、2020年3月は100万円の純利益しか出ていない。

業績の低迷に合わせて、店舗数も激減。2009年には500店舗を超えていたが、2023年1月時点で350店舗にまで減っている。最近閉店した店舗にはJR大久保駅店やJR池袋駅北口店なども含まれており、繁華街エリアでも苦戦が目立っていた。

今回、ロッテリアを買収したゼンショーは牛丼チェーンのすき家をはじめ、回転寿司のはま寿司や、ファミリーレストランのココスなど、人気チェーンをいくつも展開。2022年3月期の売上高は6585億300万円と、外食企業としては日本でトップの売り上げを誇るが、ハンバーガー事業については一筋縄ではいかない可能性もある。

競争が激しいハンバーガー業界

現在、ハンバーガー市場は7000億円程度あると言われており、コロナ禍でも成長を続けている。それをチャンスと踏んで、参入する企業も多いが、競争が激しいため生き残りも難しい。

例えば2015年にアメリカから進出したシェイクシャックを皮切りに、ベアバーガー、カールスジュニア、ウマミバーガーが次々と日本に進出し、“黒船バーガー”として大きな話題を集めた。しかし、1997年に上陸したクアアイナこそ30店舗以上展開しているものの、その他のブランドは当初の予想ほど伸びていない。

また、2020年11月には、焼き肉のファーストフード店、焼肉ライクなどを展開するダイニングイノベーションがブルースターバーガーをオープンさせ、大きな話題となった。テイクアウトに特化したプチグルメバーガー専門店で、オープン当時は全国2000店舗を目標に掲げていたが、斬新な取り組みは市場に受け入れられず、2022年7月には市場から撤退している。

かっぱ寿司や牛角などを展開するコロワイドもハンバーガー業態に手を焼く。同社は2016年にフレッシュネスバーガーを買収し、当初はフランチャイズ展開を加速して、2020年度には400店体制を構築する計画だったが、うまく進んでいない。公式のデータがないが、現在の店舗数は170店舗ほどだといわれている。

コロナ禍ではチキンバーガー専門店が増えたが、これも大きく成長したブランドは今のところ現れていない。

かくいうゼンショーも過去にハンバーガー市場に参入して撤退した過去を持つ。2002年に当時、ウェンディーズを展開していたダイエーから事業を買収したものの、店舗を拡大させることができずに2009年に撤退をしている。

同じタイミングでダイエーから買収したビッグボーイは今もなお堅調に成長続しているので、外食のさまざまなノウハウを持つゼンショーですら、ハンバーガー業態の展開は難しいのである。

ロッテリアの一人負けの要因

こうした環境の中、ゼンショーの下で、ロッテリアが再起する可能性はあるだろうか。競合大手のマクドナルドとモスバーガーも店舗数自体は減らしているものの、成長自体は止まっていない。一人負けとなっているロッテリアとの違いを探っていくと、「メニュー開発力」と「人への投資」、「フランチャイジーとの関係性」にたどり着く。1つずつ説明していこう。

メニュー開発力

マクドナルドは「月見バーガー」や「グラコロ」など期間限定メニューに強い。また、顧客とつながることを目的とした商品開発にも力を入れており、特徴的なのが、2016年に行った「名前募集キャンペーン」だ。

当時、「北海道産ほくほくポテトとチェダーチーズに焦がし醤油風味の特製オニオンソースが効いたジューシービーフバーガー(仮称)」という長い商品名の、正式名称を客から募集するキャンペーンを行った。結果として、500万件を超える応募があり、「北のいいとこ牛(ぎゅ)っとバーガー」に決定。2016年2月に正式販売したところ、既存店売上高が前年同月比で29.4%も伸びた。

モスバーガーも2019年3月期に11年ぶりの赤字に転落した際、商品部門の組織再編を実施し、マーケットインの発想で新商品が開発できる体制を構築。実際、最近のモスバーガーには「グリーンバーガー」など、ヒット商品が多い。

一方、ロッテリアにも「エビバーガー」や「絶品チーズバーガー」などのヒット商品がある。しかし、来店動機を引き出すような、定期的なメニュー開発にはそれほど強くなかった。キャンペーンがチーズだよりになってしまっているところもあり、お店が飽きられた要因として無視できない。


ロッテリアにも数多くの期間限定商品があるが…(写真:ロッテリアのホームページより)

1971年からある「ハンバーガー大学」

人への投資

マクドナルドといえば「ハンバーガー大学」が有名だ。マクドナルドの一号店のオープンは1971年だが、「日本で一番人材を育てる企業でありたい」という思いの下、そのオープン前にハンバーガー大学は開講している。経営不振に陥っていた2012年を境に、一時は受講者が減るとともに、スタッフの離職率も上がった。しかし、再度人への投資をし、サービスレベルの向上につなげている。

モスバーガーも2015年に「モスアカデミー」を設立。体系化された幅広い研修・教育活動を通じて、活躍する人材の育成・定着を目的としており、同社の櫻田厚会長が名誉校長を務めている。

人材の成長は顧客満足のベースとなるQSCの安定に結びつく。QSCとは、「Quality(クオリティ)」「Service(サービス)」「Cleanliness(クレンリネス)」の頭文字を取った略語だ。

マクドナルドは、これに「Value(バリュー)」をつけて、店舗運営の基本にしている。どんなに料理の質が高くても、スタッフのサービスが悪かったり、店舗が汚かったりすると一瞬で台無しになる。ロッテリアにはこうした社内教育機関がないことも、両者との差になって現れているのではないか。

フランチャイジーとの関係性

ハンバーガーチェーンを全国展開していくには、加盟してくれる「フランチャイジー」の存在が欠かせない。現に、マクドナルドは70%、モスバーガーは90%がフランチャイズ店舗だ。ロッテリアは公式のデータがないが、50%に満たないと見られている。

マクドナルドとモスバーガーは、経営不振に陥った際、フランチャイジーを大切にする方針をあらためて打ち出して以来、良好な関係を築いている。例えば、モスバーガーではフランチャイジーの互助組織である「共栄会」と連携し、互いの意見交換を活発に行い、それを店作りや商品開発に生かしている。

ロッテホールディングスは、クリスピー・クリーム・ドーナツや銀座コージーコーナーも展開している。クリスピー・クリームは2020年に手放してしまったが、いずれも直営店中心。フランチャイジーとの関係性をつくりながら、店舗を拡大させていくノウハウがなかったことが、長期的な不振を招く結果となった。

ロッテリアはゼンショーの傘下に入ることで、他業種展開ならではのメニュー提案や、飲食店での経験豊富なスタッフなどによって「来店動機の弱さ」と「人への投資」という2つの弱点を克服できる可能性が高い。

フランチャイジーとの関係性については、ゼンショーはどちらかというと直営での店舗展開を得意としている。そのため一気に直営に切り替えて、スムーズな展開を行うことも考えられるだろう。

ただ、競争が激しい業界なので、来店動機が必要だ。そもそもマクドナルドの利益率も10%程度。だからこそ、一定以上の客数を確保しないとビジネスが成り立たない。ゼンショーが、どういう集客方法を採用するのかまだ分からないが、筆者の予測では価格を下げて、客数を伸ばす作戦をとるのではないかと睨んでいる。

なぜならゼンショーは価格の勝負に大変強いからだ。現に、はま寿司はスシローやくら寿司が値上げをした中でも100円をキープしている。またなか卯の「目玉焼き朝食」(280円)は、松屋の朝食の最安値である「Wで選べる玉子かけごはん」(290円)や、吉野家の朝食の最安値の「納豆定食」(399円)と比較しても安い。

ゼンショーは多くのブランドを展開しているため、1つのブランドの利益率だけで考える必要がない。それはハンバーガーでも同じだ。業態ポートフォリオの中で、最適になるように計算して、ハンバーガーの価格をギリギリまで下げてくるのではないだろうか。

ハンバーガーにも「1000円の壁」?

マクドナルドは経営不振に陥っていた2013年に1日限定などで1000円バーガーを発売。一方のモスは、2003年から2006年にかけて「匠味」シリーズを販売したが、どちらも狙い通りの結果を出すことができずに終了している。やはり多くの人がチェーン展開するハンバーガー店に求めているのは手軽さだということだ。

 現在、モスバーガーは「モスプレミアム」という別ブランドで高級路線に成功している。2016年に「モスクラシック」としてオープンさせたブランドを地道に育てて「モスプレミアム」というブランドに結実。ポイントは「桜木町クロスゲート店」と「千駄ヶ谷店」の2店舗しかないという希少性の高さだろう。

そもそも希少性の高くないものに、そんなに高いお金を払いたくない。また、ハンバーガーにお金を出せる人がいるエリアも限られている。ここに「シェイクシャック」などの黒船バーガーが思うように店舗を拡大できない要因にもあると考えている。単価と客数を踏まえて、しっかりとエリアを選ばないと、すぐに失敗してしまうのがハンバーガー市場の難しさなのだ。

規模の利益が働くので、原材料費などのコストもコントロールしやすい。これはマクドナルドやモスバーガーにはない強みである。ゼンショーホールディングスの下で、ロッテリアの反撃が始まるかもしれない。

(三輪 大輔 : フードジャーナリスト)