Vol.223 ローランドVRシリーズを突き詰めてここまで来た。「VR-120HD」を試す[OnGoing Re:View]

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メディア向け製品説明会やセミナーなどのライブイベントは、リアルとオンラインのハイブリッド開催が当たり前になってきている。リアルはリアルの良さがあり、オンラインにはオンラインの良さがある。出席する側がどちらかを選択できるようになったのは、大きな変化である。

現在ライブイベントなどで広く使われているAVミキサーは、スイッチャーとミキサーが一体化したものだ。これはローランドが業界を牽引してきた製品群であり、その源流は2011年発売の「VR-5」に見る事ができる。

現在VRシリーズは、VR-50HD MK II、VR-4HD、VR-1HDの3モデルを展開しており、オールインワンで省スペース、ワンマンオペレーションを狙った製品として人気が高い。そんなVRシリーズに強力な新モデル「VR-120HD」が登場した。

VR-120HDは、高機能化が進むビデオミキサー「Vシリーズ」で培った技術を惜しげもなく投入し、さらに多彩な新機能を盛り込んだ、新世代VRの夜明けとも呼ぶべき製品だ。実際に触ってみて、VRシリーズのポリシーを突き詰めた結果、とうとうここまで到達したのかと思わせる製品に仕上がっている。

   
2023年2月下旬発売予定の「VR-120HD」
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強力な映像表現力と、新しいUI

まず入出力から押さえておこう。HDMI 6系統、SDI 6系統の合計12入力となっている。HDMIとSDIは切替で排他になるわけはなく、同時に使用できる。スイッチャーとしてのクロスポイントは8で、この12入力を自由にアサインすることができる。またクロスポイントにアサインしなかった入力は、16分割表示のInput-View画面で直接タッチすることでスイッチングできたり、合成用の入力として使用できる。

スイッチャークロスポイントは8
   
バックパネルの入力系統。SDIとHDMIは6系統ずつ
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HDMIの全入力にスケーラーを装備しており、480/59.54iから1920×1200/60pまで、解像度やフレームレートを気にすることなく入力できる。SDI入力にはスケーラーがないため、出力解像度と合わせる(720もしくは1080)ことになるが、23.98pから59.94pまでのフレームレート変換は可能。インターレースは自動でプログレッシブに変換される。

出力はHDMI 3系統、SDI 3系統のほか、USB-TypeC端子からネット配信用のストリームが出力できる。ここまで来てピンと来る方はピンと来ると思うが、入出力数が少ないだけで、V-160HDのスペックにかなり近い。16入力だから「160」で、12入力だから「120」になっているわけである。

   
バックパネルの出力系統部
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またVRシリーズとしては初めて外部同期端子を備えた。Vシリーズ並みにシステム同期がかけられるので、放送用システムなどにも組み込むことができる。

そうなるとV-160HDとどう違うのか、ミキサーが中に入っているか外に出ているかの違いか、と思われるかもしれない。実際に両モデルを使ってみて筆者なりに理解したのは、V-160HDは難しい部分をプリセット・メモリーやマクロ、シーケンスなどで自動化できるが、基本的にはマニュアルオペレーション型ライブスイッチャーだ。一方VR-120HDは、シーン・メモリーやマクロ、シーケンスを駆使してのポンだし化へ振った、ある種「キュー型」とも言えるオペレーションスタイルになる。

メインパネルは、従来のスイッチャーのセオリーから大幅に見直しが行なわれており、ほとんど「仕込みスイッチ」だ。その一例としてわかりやすいのは、クロスポイントの機能だろう。内部的にはトランジション可能なABスイッチャーだが、ボタンは1列しかないし、フェーダーもない。クロスポイントは、プログラムに出力する映像の切り替えに使うに留まらず、AUX出力の切り替えも兼務するし、シーン・メモリーの呼び出し、マクロの呼び出しボタンも兼務するというマルチぶりである。

クロスポイントキーは、シーンメモリーやマクロの呼び出しスイッチにも変化する

4つのキーヤーは、PinPも兼用する。加えて2系統のDSKは、アルファチャンネルやエクスターナルキーにも対応する。映像バスのスプリット機能も加えれば、8レイヤー合成が可能だ。これはV-160HD相当の合成能力があるということである。

PinP兼用の4キーヤー構成
   
DSKはアルファチャンネルとエクスターナルキー対応
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テロップ出しのニーズが高まるにつれ、内蔵フレームメモリーの充実は従来モデルユーザーから強く求められていた部分だ。VR-120HDでは、16枚の静止画を内部メモリーから、1つのビデオをSDカードから出力できる。ソースとキーヤーが多くなるほどオペレーションは複雑になるが、セッティングをスナップショット的に記憶できるシーン・メモリー、オペレーションを時間で自動化できるマクロ、複数のシーン・メモリーやマクロをまとめて一本化できるシーケンス機能がある。

16枚のスチルストアを内蔵
   
ビデオプレイヤーも内蔵した
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本機はより事前の「仕込み」が重要になっているが、こうした「仕込み」を支えるのが、新設計されたUIだ。本体ディスプレイ上に表示されるメニューはよりグラフィカルになり、ほとんどのパラメータは画面タッチやドラッグ操作で可能になっている。VALUEつまみも従来同様に使えるが、むしろメニューのスクロールなど、アクセスの高速化に活用した方がいい。

   
グラフィカルになった新UI
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V-160HDでは、マクロの設定などは本体よりもiPadを使ったほうが断然早かったが、新UIを採用したVR-120HDなら本体パネルだけで十分にエディットできる。加えてレコーディング機能を装備しており、メインパネルでオペレーションしたものをマクロとして記録できるようになった。

   
本体UIでのマクロ編集画面
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このUIは、今後のローランドスイッチャーにも採用されていくという。その点では、ローランド映像機器の歴史の中で、本機が1つのマイルストーンになる。

ポン出しにも対応、進化しすぎて神化したオーディオ部

本体の半分がミキサーとなっているのがVRシリーズの特徴だが、本機のオーディオ機能は本格オーディオミキサー並みに拡張された。

HDMIとSDIではステレオのエンベデッドオーディオが使えるので、ここだけで24ch。さらにマイクなどに対応するアナログ入力が6ch、RCA入力がステレオで2系統ある。加えてBluetoothにも対応しており、スマートフォンなどの音源も再生できる。背面にはUSB-TypeC端子があり、ここからもUSB Audioとして2chの音声入力と出力ができる。

オーディオソースとしてBluetoothにも対応

ここまでで38chあるわけだが、さらに本体パネル左上にオーディオプレイヤーを備えた。8つのWAV音源がポンだしできるパッド部を備えている。パッドはA/B2つのバンクを備えており、8音源のセットを2系統、仕込んでおける。

VR-120HDの顔とも言える、8つのオーディオパッド

プレイモードとしては、BGM、SE、Soloの3つがある。BGMにアサインされたものは、別のパッドを押すと音がそちらへ入れ替わるが、SEに指定された音源は重ねて同時に再生できる。出囃子のBGMに乗せてSEの拍手を入れ込むといった演出もできる。Soloは他の音源をミュートして、ソロ出力となる。

   
オーディオパッドの設定画面
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オーディオ出力はプログラムアウトからエンベデッドで出るのは当然として、オーディオのみの出力も3系統備えている。出力バスとしては、Main Bus、AUX1、AUX2の3つがある。

エフェクターも充実している。フロントパネルには「Auto Mixing」「Loudness AGC」「Adaptive NR」「Reverb」の4つのボタンがあるが、他のエフェクトにも割り当てることができる。配信に使えそうなものとしては、「Echo Canceler」、「Anti-Feedback」、「Noise Gate」、「De-Esser」がある。「Voice Changer」を多用する人もいるだろう。イコライザーもパラメトリックだけでなく、特定の出力、例えばAUX 2だけにグラフィックEQが使えたりするのは、会場PAも兼務する場合に便利だ。

オーディオエフェクトは必要な機能を4つのボタンに自由にアサインできる
   
GEQの設定も新UIで簡単に
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録画、ライブストリーム両方に対応

VRシリーズは映像も音声もオールインワンで操作できることから、VR-5の時代から、本体にはUSB出力がないのにユーザーがあれこれ工夫してライブストリーミングに使ってきた。そんな歴史的経緯を見ても、VRのカタチはユーザーが作っていったと言ってもいい。

そんな中、2022年8月に発売された「SR-20HD」は、コンパクトなAVミキサーでありながら、PCレスで本体から直接ストリーミング出力ができるところから、VRシリーズの派生モデルと見られていた。

だが今回のVR-120HDには、「SR-20HD」のダイレクト・ストリーミング機能も搭載している。背面のLAN端子からネットワークに繋げば、PCレスで2つのライブ配信サービスに対して、同時に配信できる。またUSB-TypeC端子からも同時にUSBストリームが得られるため、PCや単体のストリーミングボックスなどを使って、さらに別サービスへ平行して配信できる。

また、これら3系統の同時ストリーム出力に加え、SDカードへの同時録画も実現した。本体の動画再生機能も同時に使う場合は、配信と録画を1080/30p以下に設定する必要があるが、実用上は十分だろう。動画再生機能を使わないなら1080/59.94pでの配信や録画が可能だ。

   
配信と同時にSDカードに録画も可能
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加えて、これもSR-20HDで初搭載された「セーフティー・ディレイ」機能も載せてきた。これは設定した秒数ぶん(5秒〜60秒まで)だけ配信を遅延させる機能だ。ライブの現場で問題が起こったときに、それが配信として流れてしまう前に、静止画の切り替え・音声のミュートができる。失敗が許されないお仕事には、欠かせない機能だ。

LAN端子のさらなる活用法としては、スマートタリーを動かしたり、PTZカメラコントロールも可能だ。特にPTZカメラコントロールはV-160HDでも実績があり、カメラの動きをマクロに仕込んでの自動制御は、すでに高い評価を得ているところだ。

   
PTZカメラコントロールも実績のある機能
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これまでVR・SRのAVミキサーシリーズは、どちらかと言えば中・小規模なイベントのライブ配信用に使われてきた。オールインワンボディのワンマンオペレーションでやれる配信規模だったわけだ。

だがVR-120HDは、扱える映像の規模感やオーディオチャンネル数を考えても、もはやその枠を超えた怪物である。実質的にV-160HD+VR-50HD MK II+SR-20HD+αの機能を持つわけだから、当然そうなる。

ただ、ボディはオールインワンではあるが、ワンマンオペレーションではないという方向性も垣間見える。全機能をフルで使おうとすれば、いくらマクロなどで自動化できるとはいっても、1人がライブでやれる範囲を超えているのではないかと思う。ボディのコントロールパネルは音声と映像でキッチリ分かれているし、のちにリリースされるiPadアプリも駆使しながらの、2マンオペレーションの可能性を探っていくというのがいいように思える。

オールインワンボディながらオペレーションは新領域へ

VR-120HDは、VRシリーズの頂点であるのは当然として、オペレーションの面でも新しいフェーズの到来を告げる機器と言っていいのではないだろうか。