今後、ツイッターはどんな場所に変わっていくのでしょうか(写真:ipuwadol/GettyImages)

ツイッターの画面上に、ナゾの「4本線」と数字が表示されるようになり、気になっている人も多いのではないか。添えられた数字は、ツイートが何回表示されたかを表しており、現状は「インプレッション数」や、シンプルに「表示回数」と呼ばれている。

新たにインプレッション数が示されるようになって、ユーザーからは、誰が訪問したかが表示されるmixi(ミクシィ)の「足あと」機能や、かつてのウェブサイトによく置かれていた「アクセスカウンター」を思い出すといった声が続出。表示してもらうために、より過激な投稿が増える可能性があるなどの懸念から、「承認欲求モンスター」というワードもトレンド入りした。

悲喜こもごも、すでに多くの反応が出ているが、この機能の実装によって、ツイッターにどんな影響が出るのだろう。ネットメディア編集者として、約10年にわたってツイッターをながめてきた筆者の見立てでは、

(1)実力の可視化

(2)露出を増やす、新たな課金オプション開始

(3)広告出稿のテコ入れ

という、「3段階の変化」が起きるだろうと感じた。インプレッション数表示の機能追加の経緯を振り返りつつ、起こると予想される変化を1つずつ、順を追ってみていこう。

第1の変化「実力の可視化」

インプレッション数が表示されるようになったのは、電気自動車メーカー「テスラ」のCEO(最高経営責任者)で、2022年10月27日にツイッターを買収したイーロン・マスク氏の改革による。

インプレッション数表示機能の追加が発表されたのは、12月23日のこと。マスク氏は、すでに動画ツイートでは再生回数が公表されていると述べたうえで、「ツイッターユーザーの90%以上は(ツイートを)読んでも、リツイートや返信、『いいね!』をしていない」と指摘し、インプレッション数を明記することにより、プラットフォームとしてのツイッターが活発であると示せるとした。

そこで生まれるのが、第1の変化である「実力の可視化」だ。

これまでツイッターでは、フォロワー数がアカウントの力を測る指標だとして、一般のツイッターユーザーやインフルエンサー、インフルエンサーに広告案件を依頼する広告代理店等の企業から考えられてきた。

しかし、インプレッション数が可視化されると、この物差しは過去のものになる。

ツイッターのサービス開始(2006年)から、まもなく17年。日本上陸も15年が経過する。老舗アカウントが先行者利益で集めたフォロワーのなかには、すでに休眠状態になっているものも多いだろう。懸賞プレゼントなどで集めたフォロワーも、アカウントの発信に興味があるとは限らない。ただフォローを外すタイミングを失っているだけ、なんてことも考えられる。

フォロワー数が多いながらも、さして各ツイートが閲覧されていないアカウントは、もはや「裸の王様」であり、ネットスラングで言うところの「オワコン(終わったコンテンツ)」とみなされる。それらが振り落とされた先には、「いま」必要とされているコンテンツや、その提供者が評価されるような未来が想像できる。

フォロワー数とインプレッション数、どちらも「影響力」の指標だが、今回の新機能実装には、そのギャップを埋める意図があるのではないか。事実マスク氏は、何年もツイートやログインをしていない、約15億の休眠アカウントのユーザー名を近日中に解放すると、12月9日に発表している。

マスク氏就任以前の2019年にも、休眠アカウントの削除方針が示されたことがあった。しかし、故人のアカウントが含まれ、ツイートが消えてしまうとの懸念がユーザーから寄せられ、いったん見送りに。そんな経緯もあって、改めて同様の懸念が示されている。

第2の変化「露出を増やす、新たな課金オプションの開始」

「はりぼて」が可視化され、メッキがはがれた先に、筆者は「露出を増やす、新たな課金オプション=費用を支払うことで、表示数を増やせるようにするサービス」が提供されるようになると予想している。

具体的には、検索エンジンや飲食店評価サイトで、検索結果や評価より上に、リンク先が表示されるようなイメージだ。すでにある課金オプションであるプロモツイートは、TL(タイムライン)上にツイートが混ざる形となっているが、より露骨に優遇されると言えばいいだろうか。これが、インプレッション可視化によって起こると筆者が考える、第2の変化だ。

SNS上で影響力のある人が自身のアカウントで、企業の広告案件を請け負う「インフルエンサーマーケティング」は、今やSNS上では定番の手法だ。だが、インフルエンサーマーケティングにおいて、場所を提供するツイッターのようなプラットフォーム企業には、直接の利益が発生しないことも多い。ツイッターにお金を払うことで、ツイートをより拡散させるプロモツイート機能は、影響力のある人の投稿では、必ずしも必要とされないからだ。

しかし、もしツイッターが飲食店検索サイトや美容室検索サイトのようなスタイルになれば、広告料を支払わないアカウントの投稿は、相対的にインプレッション数が下がると考えられる。その結果、今まではツイッターにお金を支払っていなかったインフルエンサーも、ツイッターの力を借りざるを得なくなる。

現在、ツイッターを立て直すうえでマスク氏に課せられた命題は、収益モデルの強化だ。「数百万フォロワー」を威光にインフルエンサーたちが多大な利益を得ながら、プラットフォーム側にメリットがない現状の改善に、目を付ける可能性はあるだろう。

インプレッション数こそが「真の実力」だとなれば、そこに上乗せできるオプションに飛びつきたくなる人も多いはず。また、インフルエンサーでなくても、承認欲求を満たしたいネットユーザーは珍しくない。そこには金脈が眠っている。

そして、すでに布石は、打たれている。マスク氏は11月、サブスクリプション(継続課金)サービス「Twitter Blue」(月額8〜11米ドル、日本では未提供)の特典に、これまでツイッター社の審査が必要で、限られたアカウントにしか付与されていなかった「認証済みアカウント(バッジ)」を追加した。

これまで「カネで買えなかった」ものでも、収益増のためなら課金制での導入も辞さない。そう考えると、課金による露出増も、あながち非現実的な話とも言えないのではないか。なお、従来からの青いバッジに加えて、企業向けは「ゴールド」、政府機関は「グレー」のチェックマークにするなど、さらなる差別化も行われている。

第3の変化「広告出稿のテコ入れ」

ユーザーからBtoCの課金を強化すると同時に、企業からツイッター社へBtoBの「広告出稿」にもテコ入れが行われるだろう。これが、インプレッション可視化によって起こると筆者が予想する、第3の変化だ。

マスク氏による買収以降、広告主の流出が相次ぎ、ツイッターへの広告出稿は激減したとされる。直接お金を落としてくれる、広告案件の拡大は急務だ。

実態のともなわないフォロワー数ではなく、インプレッション数を指標とすれば、「競合より効果が可視化されやすいSNS」だとアピールする材料となる。実際、インプレッション数が表示されるようになってから、自身の投稿について「こんなに表示されていたのか」と思った人は少なくないだろう。その結果、ツイッター熱が復活した人もいたかもしれない。

とはいえ、企業目線で見れば、アカウントに表示されるインプレッションの数字が少なかったら、広告出稿もためらわれる。となると、次に求められるのは、よりユーザーの回遊性を高め、ツイートを目にする頻度を高める施策だ。一体、どうすれば--。

ツイッターの「囲い込み」が進むと予想

ここからは筆者の想像でしかないが、このタイミングで「囲い込み」の戦略に、かじを切ろうとしていたのではないか。ユーザーをなるべく外にリンクさせず、アプリ内でコンテンツ消費を完結させる。

この手法はニュースアプリや、メッセージアプリなど、国内のIT企業でも珍しくない。事実、ツイッターは12月19日、フェイスブックやインスタグラム、マストドンなど、他社SNSのリンク投稿を禁止すると発表した。

だが結局、数時間後にその告知を削除。ユーザーからは迷走していると受け取られ、マスク氏の求心力を低下させ、CEO辞任表明の一因となった。情報を拡散する場所として機能している、ツイッターの特性を改めて確認させられる結果となったのが興味深い。

これまでのフォロワー数に代わり、これからはインプレッション数が権威付けとなっていくだろう。だが、ツイッターがビジネスである以上、運営企業側の意思は反映される。また、そこでビジネスをする、インフルエンサーや企業の思惑も絡んでくる。あらゆる利害が交錯するなかで、インプレッション数もまた、新たな「はりぼて」になってしまうのかもしれない。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家)