オリックスが3連勝で王手。勝負を分けた杉本裕太郎への1球と短期決戦のポイントを川崎憲次郎が解説
日本シリーズ第6戦が神宮球場で行なわれ、オリックスが3対0で勝利して3連勝。通算3勝2敗1分けで日本一に王手をかけた。ヤクルト・小川泰弘、オリックス・山粼福也の両先発が好投した一戦で、先手をとったのはオリックス。6回表、5番・杉本裕太郎のライト前タイムリーで先制した。その裏からリリーフに宇田川優希を投入して継投に入ると、平野佳寿、山粼颯一郎とつないでヤクルト打線を7、8回と三者凡退に。オリックスは9回表にスコット・マクガフの暴投などで2点を追加すると、最後はジェイコブ・ワゲスパックが無失点に抑えた。勝敗を分けたポイントはどこにあったのか。ヤクルト時代の1995年と1997年に日本一に輝いた川崎憲次郎氏に聞いた。
日本シリーズ第6戦で決勝のタイムリーを放ったオリックス・杉本裕太郎
投手戦で明暗を分けたのは、勝負どころでの1球でした。0対0で迎えた6回表の二死2塁からヤクルトは4番・吉田正尚選手を申告敬遠で歩かせて、杉本選手と勝負します。初球をアウトコースに外したあと、インサイドに真っすぐを2球続けました。
ここまでのシリーズで杉本選手は内角攻めで苦しめられているので、この打席でもヤクルトバッテリーはインサイドを攻めてくると予想していました。それで2ボール1ストライクとなり、真っすぐで内側をもう1球攻めてファウルでカウントを稼ぎ、最後は外へのスライダーかフォークで勝負......という攻め方を考えていたのでしょう。配球的には間違っていません。
しかしその4球目が少し甘くなり打たれてしまいました。ピッチャー心理からすると、カウントを整えたい状況だったからです。「当ててはいけない」というのと「ボールにはしたくない」という気持ちが、結果としてインコースに攻めきれなかった。おそらく小川投手は割りきれていなかったのでしょうね。
攻めるオリックスの立場からすれば、チャンスで甘く入ってくるボールはそうそう来ません。そうした勝負どころで、杉本選手が1球で仕留めたのはさすがだったということです。
1点リードした直後、オリックスベンチは5回までに70球、被安打1の山粼福也投手に代えて、2番手に宇田川投手を送りました。中継ぎ陣がしっかりしているので、型どおりの継投かなと感じましたね。中嶋聡監督の狙いどおり、6回からリリーフ陣が見事につないで逃げきりました。
一方、ヤクルト打線は初回の先頭打者の塩見泰隆選手が放った1安打に封じられました。今シリーズ前半で当たっていた塩見選手、村上宗隆選手、ホセ・オスナ選手の勢いが、第4戦から落ちてきています。
村上選手はかなりインコースを厳しく攻められるようになって、少し迷っているように感じます。オスナ選手は高めのストレート、低めに落ちる変化球と上下の攻めをされて、5戦目からボール球に手を出し始めました。今シリーズの序盤戦はどの球も打っていたので弱点が見えなかったけれど、オリックスバッテリーが4戦目以降はうまく攻められていますね。
シリーズ序盤であれだけ当たっていたヤクルトのバッターたちですが、オリックスの強力リリーフ陣にかかるとなかなか打てなくなりました。インコースへの厳しい攻めも効いてきて、短期決戦のなかでヤクルト打線は調子が落ちてきているのかもしれません。それくらい緻密な駆け引きが繰り広げられています。
短期決戦のミスは致命傷になる先に2勝したヤクルトですが、3連敗で追い詰められました。とくに過去2試合は嫌な形で負けています。5戦目の吉田正尚選手のサヨナラホームラン、6戦目の杉本選手のライト前タイムリーと、甘く入った1球が決勝点につながりました。
短期決戦で勝負を分けるのは、細かいプレーです。第6戦でオリックスはセンター・中川圭太選手のフェンス際でのナイスキャッチなど好プレーが出た一方、ヤクルトは最終回に抑えのマクガフ投手の暴投も絡んで追加点を奪われました。
去年の日本シリーズから言えることですが、ミスは致命的になります。エラーもそうですし、記録ではエラーがつかないミスもある。フォアボールや、ピッチャーの投げミスも含めてです。
追い詰められたヤクルトとしては、切り替えるしかありません。チームカラーとして「明るい」という特徴があるので、そこを全面に出していくしかないですね。両チームの実力は変わらないので、短期決戦の超短期で切り替えをできるかどうかです。
第6戦までを振り返ると、いずれも明暗を分けているのは"勝負の綾"です。点で見れば本当にただの1球ですが、ハイレベル同士の短期決戦では1球の差で勝負が決まってしまいます。
ここという場面で、ピッチャーなら自分が思ったとおりの1球を投げられるかどうか。バックはきっちりアウトにできるかどうか。バッターは甘い失投を見逃さずに打ち返せるかどうか。
勝負を分けるのは本当に1球で、ミスは致命的になると本人たちが一番わかっているからこそ張り詰めたような緊張感が生まれ、両チームの名勝負につながっている。それが去年からの日本シリーズです。
実力的には本当に拮抗しているから、どちらが勝つかは最後に幕を下ろすまでわかりません。