ヤクルト・内山壮真の起死回生の同点弾を生んだオリックスバッテリーの「一瞬の隙」と「村上宗隆の影」
日本シリーズ第2戦が神宮球場で行なわれ、延長12回の末、3対3の引き分けに終わった。オリックスは3回、先発した山粼福也のライト前タイムリーなどで2点を先制。5回に杉本裕太郎のタイムリー内野安打で1点を追加した。
その裏から継投に入って8回まで無失点でつないだが、ヤクルトは9回裏、無死1、2塁から代打・内山壮真が起死回生の3ランで同点に。延長戦では互いにチャンスを生かせず、5時間を超える試合となり、そのまま引き分けた。この試合のポイントについて、ヤクルト時代に3度の日本一に輝いている秦真司氏に聞いた。
日本シリーズ第2戦、9回裏に起死回生の同点3ランを放ったヤクルト・内山壮真
オリックスは序盤からいいペースで試合を進めてきて、完全な勝ちパターンのゲームを追いつかれたので、負けに等しい引き分けだと思います。
初戦から通じて言えることですが、ヤクルトはキャッチャーの中村悠平選手が勇気のあるリードをしている印象を受けます。たとえば、追い込む過程では変化球を中心に使い、2ストライクからインコースやアウトコースにストレートを要求する。あるいはストレートで追い込んで、低めの変化球で打ちとる。バッテリーの相手打者への攻め方として、統一性が高いです。
中村選手がピッチャーの特徴を理解したうえで、自分たちのよさと相手の弱点をうまくミックスしながらリードしている印象があります。そしてピンチの場面や、強打者を迎えたところではインコースを使う。そうした中村選手の意図を投手陣がしっかり理解して、投げミスなく配球を組み立てられていることが、2戦目までの勝敗の分かれ目になったと思います。
一方のオリックスは、初戦は若月健矢選手、2戦目は伏見寅威選手がマスクを被りました。初戦はエース・山本由伸投手を立てながら、村上宗隆選手の1打席目でカーブ、カーブで四球にするなど、配球が後手に回った印象を受けました。2戦目はその反省を生かしてうまく組み立てていましたが、勝ちきれなかった。
3対0とリードして迎えた9回裏、最後の詰めが甘かった。この回から阿部翔太投手がマウンドに上がって、無死1、2塁とされました。先頭打者の宮本丈選手に二塁打を許したことは仕方ないとしても、次打者の塩見泰隆選手にフォアボールを出したことで相手に流れを与えてしまった気がします。
この場面、塩見選手に対して伏見は「ホームランを打たれてもいいから攻めてこい」という大胆なリードができていれば、違った結果になっていたのかもしれません。塩見選手を出すと村上選手まで回ってしまう。その意識が強すぎて、投球が窮屈になってしまった印象を受けました。
そして塩見選手を歩かせて迎えたのが代打の内山選手です。2球で追い込み、フォークを2球続けましたが内山に見逃され、ストレートが真ん中高めに浮いたところをレフトスタンドに運ばれました。
投げミスが許されない場面で、バッテリーは「ホームランはないだろう」と内山選手を少し甘く見ていたかのような印象を受けました。阿部にとって一番いいボールであるカットボールで勝負するという選択をしなかったのは悔いが残ったと思います。
日本シリーズはペナントレースとは違う緊張感があり、キャッチャーのリードが試合の流れを大きく左右します。そういう意味で、中村選手のほうが一枚上だったように感じました。
オリックス打者に必要な割り切りこれでヤクルトは初戦で山本投手に黒星をつけて、2戦目は土壇場で追いついて1勝1分。オリックスは移動日を挟んで、本拠地・京セラドームで迎える3戦目からもう少し工夫が必要になるでしょう。
今年のヤクルトはリリーフ陣の奮闘で優勝したことを前提に考えると、先発投手に対してもっと積極的に仕掛けていき、各打者が「2打席で攻略する」という備えが必要です。
2戦目は1番に安達了一選手を起用するなど、ランナーを置いた場面や追い込まれてからはセンターから逆方向のバッティングを徹底していました。相手のミスにも乗じて3点先行できたのは、逆方向に打っていこうという意思統一があったからだと思います。
そうなると3戦目以降、ヤクルトバッテリーとすればオリックスの逆方向を狙うバッティングは当然考慮してくるはずです。その対策として、インコースに食い込んでくる変化球を投げたり、逆方向に打たれない工夫をしてくると思います。
だからオリックスとしては早めに仕掛けて、相手ピッチャーを攻略するという姿勢が必要になってきます。初戦から言えることですが、オリックスの選手はファーストストライクの甘い球を見逃しているので、そこを徹底して振っていくことが大事になります。
そのうえで必要なのは"個別性の原則"です。各バッターはタイプが違うので、それぞれがどういう備えをするべきかをコーチと話し合い、本人に決断させるための後押しをしてあげる。
たとえば、ストレートに強い紅林弘太郎選手なら変化球を狙ったり、インコースに苦しめされている杉本選手ならあえてインコースのストレートを狙ったり、思いきった割り切りが必要なのではないかと思います。
そういうバッティングをしていくと相手にとっては"予想外"なので、中村は考えてしまい混乱する可能性もできてきます。オリックスとしては、ただ来たボールを狙うのではなく、自分たちから仕掛けていく。そうやって得点することができれば、主導権を握れると思います。
日本シリーズは事前の対策と準備をしたうえで、「頭の勝負だ」と野村克也さんは言っていました。孫子の兵法でも「彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」と言われるように、まずはデータから相手と自分を知り、そこから攻略法を見つけていく。そして、グラウンドでどう対応するかがプロの勝負です。
やられたところを逆にやり返し、やり返されたさらに対応して上回っていく。そこが日本シリーズの面白いところです。
ここまでの戦いを見ると、そうした対応はヤクルトのほうが若干うまくて、打者有利なカウントでの思いきったバッティングや、追い込まれてから粘って塁に出るなど、自分たちのすべきことをしっかり理解している印象があります。
オリックスは本拠地に戻り、どう巻き返すのか。本当の戦いはここからです。