井上真央

写真拡大

 井上真央が13日、渋谷のユーロライブで行われた映画『わたしのお母さん』の完成披露試写会に来場。母娘の確執を描いたシーンの撮影時を振り返って「楽しくなかった」とあっけらかんと語る石田えりの言葉に「楽しくはないかも」と同意し、会場を沸かせるひと幕があった。この日は井上と石田とともに杉田真一監督も来場した。

 本作は、長編デビュー作『人の望みの喜びよ』がベルリン国際映画祭ジェネレーション部門でスペシャルメンションを受賞した杉田真一監督の長編2作目となる人間ドラマ。幼いころから母親に苦手意識を抱き、自分の気持ちを表すことのできない娘・吉村夕子(井上)が、夫と暮らす家で母・寛子(石田)との同居生活を始めるさまが描き出される。

 脚本を読んだときに「なかなか地味な作品だなと思いました」と正直な思いを語った井上。「でも、読み進めていくたびに、静かに感情の部分を追っていくというか、ひもといていく感じがあって、こういう静かな映画っていいなと思いました」と述懐する。

 続けて「セリフもト書きも少ないんですよ」と明かした井上は「だから、それを埋めていかないといけないなと思いました。撮影している途中でも、このセリフはいいやと、どんどん少なくなっていく。(セリフがないので)楽は楽だったのですが、そのぶん、夕子の思っていることや感じていること、夕子ってどういう人なんだろうと、自分自身がまず一番知らないといけないな、と思ってやっていました」と振り返る。

 杉田監督とのタッグに「難しいことを言ってくるんですよ」と笑う井上。「けっこう細かいところまで見てくださっていたので。こちらの迷いとか、ちょっとわからないなと思いながらやっているときは、すぐに見つけられてしまう。でも、『こういうイメージで』『こういう思いで』とワンシーンワンシーン、話しながらできたかなと思います」としみじみ。

 劇中、石田ふんする母親の寛子は、何の悪気もないのに娘を追い込んでしまうが、それでもどこか憎めないところがある役柄となっている。「もうちょっと賢い人ならスマートに接したりできるのに賢くないんですよ」と切り出した石田は「でも、自分でやる役ですから、どこか嫌なところがあっても、いとおしいなと思わないと。批判的にならずに寛容な気持ちでお母さん像を作りあげたら、こんな感じになりました」と説明。杉田監督も思わず「天才ですね」と感嘆するばかりだった。

 井上は印象的だったシーンとして、夕子がたたんだ洗濯物を、母の寛子がたたみ直す場面だという。このシーンの撮影は初日だったということもあり、二人の微妙な距離感を描き出したいと思った杉田監督は、このシーンのテイクを何度も繰り返し、その距離感を見定めていたという。石田は「(役柄としても)現場で私語をべちゃべちゃしゃべる時間もなかったけど、キツかったですね、雰囲気が。楽しくなかった」とぶっちゃけて会場は大笑い。その言葉に「現場はそうかもしれないけど、お客さんが(そのシーンについて)どう思うかですから」と杉田監督がフォローするも、井上が「(そのシーン自体は)楽しくはないかも……。どうしよう、これから観るのに」とたたみかけて会場を沸かせた。

 劇中での母娘の関係性を「こうすりゃいいのにとか、ツッコミどころが満載で。皆さん同じ人間ですから、思い当たる節はいっぱいあるんじゃないかなと思いますね」と振り返った石田。「本当に生きていく上ではコミュニケーション力があるかないかで大きく変わってくる。人生はこれで幸せになるか、不幸になるか、はっきり分かれ道があって。オープンに接すれば楽しくなっていくけど、この人みたいにこう(視野が狭く)なっちゃうと……ね」と井上を指すと、会場は大笑い。

 井上による「(井上が演じた)夕子が、ですよ」とのフォローに、思わず笑ってしまう石田。「そうそう、夕子。娘が、ですね」と続けて「本当にコミュニケーション下手なお母さん。映画を観ている方も、本当にそんなことをやるから駄目なんだ、と思ってしまうと思うんですよね」と熱弁した。

 そんな井上が撮影で楽しかったシーンは、スーパーのレジ打ちのシーンだったという。「ここで土台を組むといいとか、バナナはここでレジを通すとか」との井上の言葉に、石田は「かわいそう! あんなところで幸せを感じてたなんて!」と嘆いて笑いを誘う。さらに井上が「そこでお総菜を買って、その日の夜はホテルに帰って一人で食べていました」と続けると、自身の役柄に自戒を込めて(?)嘆く石田の天真らんまんな姿に会場は終始大盛り上がりだった。(取材・文:壬生智裕)

映画『わたしのお母さん』は11月11日より全国公開