芸能人の年の差婚がよく報じられますが、婚姻届のデータを分析すると……(写真:Ushico /PIXTA)

筆者は月に1回、全国10の自治体にある結婚支援・地域振興関連事業者(自治体結婚支援センター、公益財団、NPOなど)とのデータ啓発勉強会を実施しています。単に聞いて勉強するだけのカルチャーセンター状態にならないように、地元での活動に積極的に学んだ内容を反映していくことができる参加者で構成されています。

コロナ禍を契機に2020年にオンラインで開始した研究会も3年目を迎えましたが、その研究会に熱心に参加いただいている方でさえも、いまだに勘違いを起こしやすい「夫婦の年齢差」について、今回は最新情報をお届けしたいと思います。

最も多い夫婦の年齢差は?

厚生労働省から発表された2020年の初婚同士の男女が提出した婚姻届の年齢分析対象となる婚姻総数は、29万2214件です(政府統計の年齢集計で対象となる婚姻届は「届出年に結婚生活を開始している」ことが条件となるため、単純な届出提出総数とは異なりますのでご注意ください)。

さて、読者の皆さんはこの約29万件のうち、最も多い夫婦の年齢差は次のどれだと思うでしょうか。直感で選んでみてください。

1. 夫が3歳年上
2. 夫が2歳年上
3. 夫が1歳年上
4. 夫婦同年齢
5. 妻が1歳年上

いかがでしょうか?

先日、筆者が主宰する研究会でも同じ質問をしたのですが、参加者の回答は3(夫が1歳上)の挙手が最も多く、次に4(夫婦同年齢)や2(夫が2歳上)といった状況でした。結婚支援の現場感覚では「夫1歳上が多い」であり、研究会の参加者や拙書をお読みいただいた方でもこのような回答となりました。

しかし、残念ながら、正解は3(夫が1歳上)ではありません。2位にかなりの差をつけて、最も多い年齢差は「夫婦同年齢」になります(図表1)。


このデータのポイントの1つ目は、最も多いのは「夫婦同年齢」結婚である、ということだけでなく、2位の「夫が1歳上」結婚を件数で2万2871件(6万3235件−4万364件)と大きく上回り、また総件数に占める割合でも7.8ポイント(21.6%−13.8%)と圧倒的に多い、ということです。

結婚支援の現場感覚や読者の皆様の感覚と比べると、ちょっと違うかも、ではなく、かなりずれている、という結果だったのではないでしょうか。また、自信をもって「夫婦同年齢」と正解した方は、中高年世代ではなく、実際に結婚が多発している年齢ゾーンにいる比較的若い年齢(20代)の方に多いのではないかと拝察しますがいかがでしょうか。

実は多い「妻が1歳上」の夫婦

ポイントの2つ目は、3位が「妻が1歳上」である、ということです。同様の質問をある県の結婚支援担当者の方にも実施したのですが、やはり最も挙手が多かったのは「夫が1歳上」で、「妻が1歳上」の挙手は皆無、という状況でした。

夫が年上婚であることは当たり前で、夫婦同年齢や夫が2歳以上の年上であることも、ある程度は多いだろうが、妻が年上というのは多くはないだろう、といった雰囲気が挙手の状況から見受けられました。

しかし実際は、「妻が1歳上」は3番目に多く、第2位の「夫が1歳上」との差は件数で1万603件、割合で3.6ポイントの差となっています。そして、多くの人の予想に反して「夫が2歳上」の結婚よりも件数が多いという事実を、結婚を考えている皆様や結婚支援事業者の皆様には覚えておいてほしいところです。

「どちらが上でも」年齢が近い結婚ほど成立しやすい

データを活動に活かす、という視点でお伝えするならば、同年齢婚を最頻値として、夫婦のどちらが年上でも2歳差までの範囲で全結婚数の59.7%、3歳差までの範囲で69.9%の結婚が成立していますので、3歳差を超えるような結婚を希望すると相手から選ばれる確率が大きく下がり、結婚が難しくなるといえるでしょう。

3歳を超える年の差の相手との結婚が難しいことについて具体的な例を挙げてご説明すると、意外と「え!そうなの!」という方が続出します。

わかったつもりでも、実際はわかっていない。これが「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」の恐ろしいところです。

例えば32歳の男性が4歳下の28歳の女性との結婚を目指すケースについて、「結構いける(脈がある)のではないか?」と考える方が、初婚を目指す男性には多いのではないかと思います。

しかし、実際の統計(2020年婚姻統計)では32歳の男性が提出した婚姻届のうち、29歳までの年齢の女性との婚姻届は半数にも届かないのです。これが30歳の男性であっても、29歳までの女性との結婚はちょうど60%というのが現実です。しかし結婚支援の現場からは、30歳の男性が20代女性と結婚できるのは当たり前、と考えている男性が非常に多いという声を聞きます。

前回のコラムで男性は27歳の結婚(初婚同士結婚)が最も多く、次は26歳である、という分析結果をご紹介しましたが、26歳、27歳といった年齢の男性であれば妻が29歳までの割合は8割を超えています。年下希望の男性が多いと結婚支援現場の支援者の方々からは常々うかがっていますが、以上で解説した通り、3歳以上年齢が離れた年の差婚の成立は実際には難しいということを、婚活中の男性方にはご理解いただきたいと思います。

さらに付け加えると、初婚同士で結婚した男性のうち、32歳まで男性の結婚が7割以上を占めてしまいます。つまり33歳以上になると、婚活はかなり難しくなってきます。

その原因の1つが、今回ご説明した年齢差に対する無理解、ということも意識していただきたいところです。マッチングしやすい自分と年齢の近い女性にアタックしないから結婚が叶わない、というケースは男性の年齢が上がるほどに発生しやすくなっています。

アンコンシャスバイアスの問題点

「何歳の異性を好きになろうが勝手」という声も聞こえてきそうです。確かに個人の好みは自由であり、多様性の時代にかなり年下の相手を好むことを、「推し活」として考えることも自由です。しかし、結婚はアイドルなどへの推し活ではありません。相手の気持ちとのインタラクティブな関係性が最も重要で、成婚を叶えるためにはこの関係性の構築が必要不可欠です。

ある自治体センターの婚活イベントで、毎回同じ50代の男性が参加して20代女性にアプローチするため、20代女性が「ありえないです」と、その後イベントに参加してくれなくなった、という話を聞きました。50代男性が20代女性に好意を持つことは自由ですが、相手の気持ちも考えずに押し付けを繰り返すことは、さすがに結果的に「イベント荒らし」行為にすぎません。

このような例だけではなく、夫婦の年齢差については、拙著の読者の皆様であっても(夫婦の年齢差データを解説しています)何度も間違えてしまわれる方がいるように、アンコンシャスバイアスは「アンコンシャス(無意識)なだけに」強固であり、よほど自身で気を付けないと取り除くことが難しいものなのです。

結婚支援現場では「断られるはずがない」「自分にとっては快適だ」「私たち世代にとっては普通」「僕の周りでは多い」など、婚活している人も支援者も無意識に相手の気持ちを置き去りにして、自信をもって行動するケースが少なくありません。だからこそ、データに基づいた実態をしっかり受け止めたうえで、相手の気持ちに寄り添えているか考えつつ、婚活や結婚支援を行っていただきたいものです。

(天野 馨南子 : ニッセイ基礎研究所 人口動態シニアリサーチャー)