スラッシュ・メタルのパイオニア、メガデス(Megadeth)が9月2日に通算16作目となるニューアルバム『The Sick, The Dying…And The Dead!』をリリースする。9月13日に61歳の誕生日を迎える、中心人物のデイヴ・ムステインはこの時代に何を思うのか。最新インタビューをお届けする。

前作『Dystopia』リリース以降の6年間、メガデスのデイヴ・ムステインはガンの恐怖を克服し、世界的なパンデミックを経験し、60歳の誕生日を迎えた。この夏、スピードメタル界の不動のパイオニア・バンドは、通算16枚目のアルバム『The Sick, The Dying…And The Dead!』をリリースする。典型的な「危険すぎる高速スラッシュ・マラソン」と呼べるこの作品は、デイヴの3分の1の年齢の若者ですら、必死にならないと追いつけないほどだ。

デイヴにはアルバムタイトルのストックでもあるのだろうか? 新型コロナが蔓延する前に言っていた「Black Plague」が新たな疫病となったのか? そんな質問を投げかけると、スイスからZoomでインタビューを受けていたデイヴが「違うよ」と答えた。ツアー中のメガデスは今スイスに滞在中だ。「俺の場合、現代史で起きた出来事がこれから俺がするべきことを教えてくれるし、今後俺がすることっていうのは自分にとっては納得し難いものになるんだ」と続けた。そこで、速度規制を粉砕する怒りの楽曲を今も作る理由があるのかと聞いてみた。「俺のクロスヘア(ライフルの十字線)内には照準を合わせているバンドがまだ2〜3いるよ」と言い、バンド名は明かさず、読者の想像に任せることにした。

モチベーションが何であれ、デイヴは9月2日にリリースされる新作『The Sick, The Dying…And The Dead!』で、勢いが衰えないメガデスの確かな腕前を披露することに成功している。そして、不穏な嵐のような軍用ヘリコプター(アイス・Tがゲストの「Night Stalkers」)、放棄との共存(「Dogs of Chernobyl」)、名声を欲しがるつまらない連中(「Celebutante」)、中毒の危険さ(「Life in Hell」「Junkie」)といった内容の楽曲が続く。音楽面では、メガデスの節目を作った2作品『Peace Sells〜』と『Countdown to Extinction』(破滅へのカウントダウン)を思い起こさせる。『Dystopia』同様に、今作もデイヴとクリス・レイクストローの共同プロデュースだ。リード・ギタリストのキコ・ルーレイロ、ドラマーのダーク・ヴェルビューレンは前作同様だが、長年メガデスのベースを担当してきたデヴィッド・エレフソンの解雇後、アルバムのレコーディングを引き継いだのがテスタメントのベーシスト、スティーヴ・ディジョルジオだった。その後、ジェームス・ロメンツォが返り咲き、現在ツアーに参加している。

このアルバムからの最初のビデオは三部作の第一弾で、「Dystopia』」「Conquer or Die」を手掛けたラファエル・ペンサード監督が再びメガホンを取っている。先ごろ公開された「Well Be Back」は、メガデスを信じない人々に向けてデイヴが中指を立てている曲だ。とは言え、ビデオのプロットはこれとは違う。デイヴの説明はこうだ。「最初に、軍需工場に出勤しなくてはいけない男が出てくる。複数の傭兵が自分と家族の命を狙っていることなど、こいつは全く気づいていない。しかし、遂にそれに気づいた男は、傭兵たちの後を追う。軍隊の仲間を連れて追いかけるも、最後には傭兵のリーダーとの肉弾戦になる。このリーダーは汚染爆弾を持っていて、男は命をかけて、この爆弾を持って海中を泳ぎ、そのまま死ぬ」。そこまで内容を明かしてもいいのか?と聞くと、デイヴは「大丈夫だ、主人公が死んでも彼の物語は第二章に続くからね」と言った。

今のデイヴは絶好調「相変わらず威勢がいいぜ」

今日のデイヴの声には熱がこもっている。咽頭がんが寛解期にあると発表してから2年半が経った今も、彼はすこぶる元気だ。「今の俺は健康だって感じるんだ。思う存分人生を謳歌しているし、いまだかつてないほど上手く歌えている。プレイも過去最高だ。ライブのとき、ステージに上がる前にジャムルームにみんなで入って曲を覚えているよ。初期のメガデスでやっていたみたいにね」と言い、現在の健康状態を「相変わらず威勢がいいぜ」と総括した。

「高次の力とはかなり固く結ばれていて、アルバムで俗悪さを出す必要がないから、本当にクールだよ。今の俺が品行方正ってことじゃない。だって、いつだって”ファック”と言っているからね。神様にそれを取り除いてくれって頼んでいるんだけど、神様には神様のやり方があるらしく、相変わらず”ファック”を連呼してしまう」とデイヴ。

彼はコロナ禍以前にアルバム・タイトルの「The Sick, The Dying…And The Dead!」を思いついたのだが、その時はちょうど童謡「Ring Around the Rosie」について考えていたと言う。「曲の中にあのライムを入れたいと思ったんだ。ほら、『Go to Hell』で俺が”Now I lay me down to sleep”と言っているみたいに。あれって時期を同じくしてメタリカも使ったんだよな」と言って、デイヴは一拍おいて「あれは奇妙だったな」とおどけながら続けた。「Ring Around the Rosie」のダークな解釈は、腐敗する死体の悪臭をごまかすための花束で、ライムの中の「アッシュズ、アッシュズ」はデイヴに「火葬」を思い出させるのだ。

「悪意なんてまったくない無邪気な童謡の『Ring Around the Rosie』でさえ、これだけダークなイメージになるって皮肉だと思ったよ。それでペストに興味を持ったというわけだ」と説明した(この曲とペストの関係性は長い間議論の的で、この曲とペストの関連性が最初に指摘されたのは1961年だと指摘する民俗学者が多く、実際にペストが流行してから数百年も経っていた)。そんなことを考えていた頃、彼は1994年のケネス・ブラナー監督作品『フランケンシュタイン』を観る機会があり、この映画の心象からインスピレーションを得た。これがタイトルトラックの複雑な起伏を描くリズムと、アルバムのアートワークへとつながった。


『The Sick, The Dying…And The Dead!』アートワーク

最近、楽曲を作っているとデイヴは「ベンジャミン・バトン的な体験をしている感覚になる。上手い言い方が見つからないけど、とにかく、今の俺の感覚は若返っているんだ」と。そして、新曲はすべてアグレッシブなサウンドだが、彼が最も意識を向けているのはメロディであり、今でも「俺たちの手助けが必要な物事に人々の注意を促す」ような歌詞を作るのが好きだと言う。「Dogs of Chernobyl」という曲名は、置き去りにされた感覚に対処する内容の歌詞を隠すための”おとり”的なタイトルだ。デイヴは、ウクライナで起きた有名な原発事後の現場に訪れた人々を題材にしたホラー映画を観た。この事故のとき、人々は飼い犬を置き去りにして逃げただが、「一番嫌だったのが、みんなが平気で犬を置き去りにしたことだ。どこかに移動することになったとき、自分の犬や馬たちを置き去りにできるか、俺には分からない」と言う。これは普遍的な感情だ、と。

「俺だって長年、苦労しているファンの姿をたくさん見てきたし、彼らを思うと心がズキズキ痛む。それに、俺たちに与えられていたチャンスがどんどん減っていることも実感するよ。そして、みんなにアピールする音楽が根本的に間違っているのが原因だとも思っているから、そういった事柄をたくさん考慮しながら、苦労している人たちのことを歌にして、物事の陰と陽の両面を表すように表現しようと心がけているんだ」

デイヴが軽蔑するもの、ベーシスト交代劇について

自分のファン以外にはあまり同情しないと言う。有名人の名前を自分の友だちのように出して話をする「名声のためなら手段を選ばない」女を歌った、心地よいスラッシュ曲「Celebutante」についてたずねると、間髪入れずに「つい最近もそういうモンスターに遭遇したよ」と言った。「(オランダの)アイントホーフェンでかわいい小道を歩いていたら、2人の少女が歩いていた。その一人のドレスの前身頃にメガデスのロゴがデカデカと印刷されていて驚いたんだ。だから『それ、俺のバンドだぜ』って声をかけた。すると、その少女は俺を見て『離れてよ、ヘンタイ!』って。『いやいや、それは俺のバンドなんだよ』ともう一度言ったら、その少女は両手を上げて、空港のマーシャラーみたいに、俺にあっちへ行けと両手を振ったんだよ」。メガデスのツアーカメラマンが彼女たちに写真を撮らせてほしいと頼んだら、二人は「このバンドのことなんて知らない。町のブティックで買っただけだし、あんたに写真なんて撮らせないわよ」と答えた。

「そこで、俺は『きっとあの子たちはセレブタントの卵で、カーダシアン姉妹がスレイヤーのTシャツを着ていたのを見て、あの服を手に入れたんだろうな』と言ったけどね」と、説明するデイヴの表情には嫌悪感が読み取れた。

デイヴが同じ用に軽蔑するものが、彼のモチベーションに異論を唱える連中だ。例えば、新作から「Killing Time」をシングルとしてリリースするアイデアが出たとき、あるレーベルスタッフが曲のタイトルを誤解した。「俺は『なあ、世界中の銃撃事件や、人間が他の人間を支配したくて実行した恐ろしい出来事に斟酌して、曲のリリースを保留しなきゃいけないっていうなら、お前ら覚悟しておけよ。俺は考えを変えるつもりはないからな』って思った。こういう悲惨な事件は、人間が互いに愛し合うことを覚えない限り続く。俺は、暴力的な報いを受けるようなことをした連中に、暴力で対抗するタイプの人間じゃない。かなり平和的な人間だと、自分では思っているよ」と、デイヴが述べた。

『The Sick, The Dying…And The Dead!』のレコーディングが中盤に差し掛かった頃、ベーシストのデヴィッド・エレフソンがスキャンダルに巻き込まれた。彼がファンに送ったあけすけな性的メッセージがオンライン上にリークされたのだった。メガデスはエレフソンを解雇し、エレフソンは2021年のツアーの成功を祈りながらバンドを去った。「かつての俺たちのベーシストと過ごした10年、20年の歳月に起きたさまざまな出来事を考えると」と、言葉を濁しながらデイヴが続けた。きっとエレフソンがデイヴを相手取って訴訟を起こしたのちに和解したことを示唆しているのだろう。「そうすべき時期だったというか……これについては話したくないんだ。彼を追い出すのは俺にとっては本当に辛いことだったから。今の俺はこれまでで一番幸せだよ」。彼を解雇した後、デイヴは他のベーシストを見つけて、ベースパートをレコーディングし直すことにし、「とにかく才能が半端じゃないプレイヤーの一人」と絶賛するテスタメントのスティーヴ・ディジョルジオに頼んだのである。

レコーディングを終えて、スティーヴがテスタメントに戻ると、デイヴは2006年から2010年までメガデスに在籍したジェームス・ロメンツォに連絡して、ツアーへの参加を打診した。現在、やっとバンドが完全体になったと彼は感じている。「以前とは違うメンバーだが非常に満足している。本当に元気いっぱいだし、今の俺は本調子だ。この先何年間も黄金期が続くって感じるほどにね」


メガデス
『The Sick, The Dying…And The Dead!』
2022年9月2日リリース
詳細:https://www.universal-music.co.jp/megadeth/