間宮祥太朗と前田和男監督

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 俳優の間宮祥太朗が28日、東京・丸の内の公益社団法人日本外国特派員協会で行われた映画『破戒』(7月8日公開)の会見に前田和男監督と共に出席し、監督から本作のキャスティングの決め手は「美しさ」と明かされる一幕があった。

 島崎藤村の名作小説を約60年ぶりに映画化した本作は、被差別部落出身という自らの出自を隠し通すよう亡き父から強く戒められて生きてきた小学校教師・瀬川丑松の葛藤を描く。丑松は生徒に慕われながらも出自を隠すため誰にも心を許せないことに苦しむ一方、下宿先の士族出身の志保(石井杏奈)に惹かれていく。

 「これまで観てきたどの映画の役割とも違う役柄だが、丑松役は間宮さんでないと駄目な役」と絶賛する司会者が、間宮をオファーした理由について尋ねると、前田監督は「この役は間宮さん1本押しでいきました。何が一番の決め手になったのかというと美しさですね。これは皆さん納得していただけると思いますが」とコメントし、会場は大盛り上がり。さらに「それともう一つが、美しさをかたどってる寂しさみたいなものですかね。それがたぶん丑松のキャラクターに深みを与えている。それを期待して、間宮さんにお任せという感じでした」と付け加えた。

 その言葉に「ちなみに僕も監督のことを美しいと思ってますよ」と笑った間宮は、「最初にお会いした時にレオス・カラックスの『ホーリー・モーターズ』(2013)の話を一緒にしました。『ホーリー・モーターズ』のキャラクターはそれぞれが仮面をかぶってて、真実を隠している。この映画の丑松も、父親からもらった仮面をかぶって生きているというところのリンクについて話をしました」と述懐。「美しいから、というのはあとから聞きました」と付け加え、会場を沸かせた。

 また本作の役づくりについて「もちろん文学作品なので、日本語の響きがとても美しい。それは原作もそうだし、台本もそう、自分がしゃべるときには美しい響きがなくならないように心がけました」と明かした。 

 原作は、木下恵介監督や市川崑監督といった巨匠が映画化してきた不朽の名作。その作品をなぜ現代に映画化しようと思ったのか。それはもともと人権や差別問題を扱った教育映画を手がけてきた前田監督のもとに、部落差別解放のために1922年に結成された団体・全国水平社創立100周年記念作品を2022年に向けて作りたいというオファーが舞い込んだことがきっかけだったという。膨大な原作を映画化するにあたり、「わたしとしては何度も読み返すうちに『ロミオとジュリエット』だなという印象が強くなって。それを縦軸に、部落差別で悩む丑松がいたらいいかなと思いました」と本作に挑んだ思いを明かした。

 会場の海外の記者からは「本作で描かれる部落差別は今の時代でもあるのか?」といった質問も。前田監督は「基本的にこの映画で描いた部落差別は今でも残っています。決してなくなってはいません」と断言。以前、日本のとある県で高校生と一緒に合宿をして人権・差別について考えるドキュメンタリーを作った時のことを例に「そこは部落差別が根強く残ってる地域でしたが、街頭インタビューで『部落差別は残っていますか』と聞いてみたところ、大体の人が『残っていない』と。『では結婚はどうですか』と聞くと『結婚はあかんな』と。表面上はなくなったと思いたいけど、心の中では残っている。この映画でも部落差別の言葉を使っていて、表面上は使われていない言葉だが、年配の人の中には時々その言葉を今も使っている人はいる。基本的に差別はなくなってないと思いますね」と語った。

 そして最後に「日本のみならず海外の観客に向けてどのように発信していきたいか」という質問を受けた間宮は「自分がこの映画を観ていただく時の気持ちと、丑松が生徒たちに思いを伝えた時の気持ちというのは少しリンクした部分があります」と語ると、「ここにいるそれぞれの方にそれぞれ育ってきた家庭があって。その中でこれがいい、これが悪いとされてきたものがあって。いろんなことを経験してこの場にいると思うんですが、それは僕も同じ。僕は僕が観た世界がすべて。それぞれの視点の世界がこの世に存在しているなということを自分は感じました」とコメント。さらに「それぞれの生きてきた人生、これからの人生、何かを考えるきっかけになれば、僕は幸せです」とメッセージを送った。(取材・文:壬生智裕)