※この記事は2021年12月31日にBLOGOSで公開されたものです

元経産省官僚の宇佐美典也さんに「私が○○を××な理由」を、参考になる書籍を紹介しながら綴ってもらう連載。第22回のテーマは、コロナ禍の影響が続く2021年の振り返り。フラストレーションの高まることが多かった一方で、「悪くない」と思える面もあったと宇佐美さんは指摘します。

私が2021年は割と良い1年だったと思う理由

年の瀬ということで、区切りとして1年を振り返ろうと思う。

こういうとき記憶だけに頼ると限界があるので、元ネタというものがどうしても欲しくなる。そんなわけで、最近やや不評も耳にする「ユーキャン 新語・流行語大賞」の元ネタ書に当たる「現代用語の基礎知識2022」などを眺めながら、1年を振り返り始めた。この本は主にリベラル界隈の世相の認識というものがわかり、個別用語のまとめ記事も(妙に批判めいていてねちっこいものの)レベルは高く、便利でおすすめである。

眺めていると
・DHC吉田嘉明会長の「日本の中枢を担っている人たちの大半が今やコリアン系で占められている」、
・菅義偉首相(当時)のニコニコ生放送での「こんにちは。ガースーです」、
・平井卓也デジタル担当大臣の「象徴的に干すところを作らないと、なめられちゃうからね」、
・安倍晋三元首相の「反日的な人が五輪に反対している」、
・メンタリストDaiGoさんの「生活保護の人が生きていても、僕は別に得しないけど、猫が生きてれば僕は得なんで」、
・森喜朗オリンピック委員会会長(当時)の「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」
・河村たかし名古屋市長の「メダルかじり」
・小泉進次郎環境大臣(当時)の「おぼろげながら46%」
など数々の炎上発言が思い出されて、大変興味深い。

コロナ禍のフラストレーションと40代で迎えた曲がり角

こうして今年の話題を振り返ると、私自身が1年間続けてきた記事を見直すことでも十分な総括ができそうなことに気づく。連載というのは何かと便利である。

ということでこの1年の間に自分が書いてきたテーマと取り上げた本を振り返る。ラインナップは以下の通りだった。

1月、SDGsという言葉が化石燃料を利用する産業に対してレッテルばりの印象操作のように使われだしたのが気にくわなくなり、
・SDGs ~「お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs」(たかまつなな著)

2月、withコロナ下の飲食店の経営の厳しさを目のあたりにして考えこみ、
・withコロナでの飲食店経営 ~「全店舗閉店して会社を清算することにしました」(福井寿和著)

3月前半、ひろゆきさんのツイートをきっかけに古文・漢文を題材に学問と実用性の関係について考察し、
・古文漢文は必修に必要か? ~「世界史を変えた数学」(ロバート・スネデン著)

3月後半、同性婚や夫婦別姓の議論が盛り上がっているのでこれを機に日本の戸籍制度の歴史を調べ、
・戸籍制度と同性婚、夫婦別姓 ~「日本の家族と戸籍」(下夷美幸著)

4月前半、菅政権のビジョンと説明の不在という観点から政権運営に対する批判めいた本を出し(学術会議問題なんてのもありましたね)、
・菅政権の政治手法 ~「菅政権 東大話法とやってる感政治」(拙著)

4月後半、二階幹事長と公明党の時宜を得ないGoTo政策推進に不満を垂れ、
・コロナ対策のあり方 ~「公明党 その真価を問う」(山口那津男、佐藤優著)

5月前半、オリンピック前に緊急事態宣言を解除して感染が再拡大する事態にイラつき、
・オリンピックと緊急事態宣言 ~「新型コロナから見えた日本の弱点」(村中璃子著)

5月後半、DHCの吉田会長の在日コリアンに対する差別発言に老害を感じ、
・DHC吉田会長の差別発言 ~「在日異人伝」(高月靖著)

6月前半、ポストアベノミクスの経済財政政策のあり方のヒントを過去に求め、
・日本の財政再建 ~「ルワンダ中央銀行総裁日記」(服部正也著)

6月後半、小泉進次郎環境相の無責任かつ到底実現不可能な温室効果ガスの46%削減目標設定に激怒し、
・温室効果ガス46%減目標 ~「エネルギー・シフト」(橘川武郎著)

7月前半、共産党との野党共闘を推し進める立憲民主党の枝野代表(当時)の欺瞞と苦しい立場を推察し、
・立憲民主党の今後 ~「枝野ビジョン」(枝野幸男著)

7月後半、キャリアの折り返し地点に来ての学び直しと独学勉強法を考え、
・独学勉強法 ~「東大教授が教える独学勉強法」(柳川範之著)

8月、また改めて日本社会の名前の伝統という観点から日本社会における夫婦別姓の位置付けを考え直し、
・夫婦別姓と名前の伝統 ~「氏名の誕生」(尾脇秀和著)

9月前半、とんねるずの芸風に時代遅れを感じてやるせなくなり、
・とんねるずの芸風 ~「お笑い世代論」(ラリー遠田著)

9月後半、自民党総裁選での河野太郎氏の発言から核燃料サイクルのあり方について国民的議論が起きることを望み、
・核燃料サイクル ~「なぜ再処理するのか?」(大和愛司著)

10月前半、40歳を迎えて少子高齢化社会における中年男性の位置付けの不安定さに悩み、
・40歳の悩み ~「中年男ルネッサンス」(田中俊之、山田ルイ53世著)

10月後半、習近平政権以後の中国の変化と台湾危機に対する日本の関与のあり方を考え、
・習近平と台湾危機 ~「ラストエンペラー習近平」(エドワード・ルトワック著)

11月、朝生に代表される平成の批判型メディアのあり方に限界を感じるとともにテレ朝・平石直之アナに「ポスト田原総一朗」の可能性を感じ、
・ポスト朝生/田原総一朗 ~「超ファシリテーション力」(平石直之著)

12月、昨今の半導体不足を機に役人生活を振り返り哀愁に浸りつつ今後に期待している。
・日本の半導体産業の復活 ~「日本半導体 復権の道」(牧本次生著)

こう見るとよく学び、色々な考えた1年であったな~と多少の満足を感じる。だいたいキーワードとしては、SDGs、withコロナ、同性婚、夫婦別姓、GoTo、ポストアベノミクス、野党共闘、46%温室効果ガス削減、核燃サイクル、半導体不足、40歳の憂鬱、というようなところであろうか。

個人的にはコロナ禍という未曾有の事態に政治へのフラストレーションを感じつつも、キャリアの曲がり角を迎えつつある自分の行く末に悩むという1年だったということになろうか。

「良い1年だった」と思える多くの要素

そういう意味では気が滅入るようなことが多い1年ではあった。だがこうして年末になってみれば、社会的にはワクチン接種が進んで先進国の中ではコロナの感染者数をかなりの低い水準に抑え込めているし、エネルギー政策をめぐって懸念していた急進的な脱炭素派の安全保障軽視は欧州を中心とした電力危機を通して世の中に広く知れわたり政策再考の機運が高まっているし、世間に見破られた立憲民主党と共産党を中心とする野党共闘の欺瞞は選挙を通してある程度NOが突きつけられたし、岸田政権も方向性はまだ固まらないものの限界が来ていたアベノミクスの次の経済政策の軸というものを模索し始め、個人的にも仕事が安定し学びに費やす時間を多く得られたという意味で悪い1年ではなかったように思う。

以上、今回はかなり私的な1年の振り返りのエッセイのようになったが、良い心の整理になった。皆様に置かれても年末年始、スケジュールや手帳を見ながら今年1年を振り返ることをお勧めしたい。

またこの連載は良い学びのマイルストーンになったので改めて読者とBLOGOSに感謝したい。本当に1年お世話になりました。ありがとうございます。