※この記事は2021年10月19日にBLOGOSで公開されたものです

元経産省官僚の宇佐美典也さんに「私が○○を××な理由」を、参考になる書籍を紹介しながら綴ってもらう連載。今回は第49回衆議院選挙が19日公示されたことを受けて、特別編として宇佐美さんに各政党公約を読んで寸評をお願いしました。

いよいよ衆議院選挙が始まった。

選挙というと堅苦しく考えがちだが、与えられた手持ちの1票を消費していずれかの候補者、政党を選択して日本の政治を託すという意味で、金融商品などの購買行動に近く、実際そういう消費分析的な観点で実証的な研究もなされている。

「いわば有権者は消費者であり政党は企業。政策(マニフェスト)が商品で票がお金と考えれば、まさに票と政策の交換であり、消費者の購買行動と有権者の投票行為が重なってみえます。」(「あたかも消費者がモノを買うように投票する有権者」 一橋大学大学院社会学研究科教授・中北浩爾氏)

となれば有権者は投票をする前に“商品”をよく知っておいた方が後々後悔することが少ないだろう。

政党を選ぶ比例代表は公約の評価が軸

我が国の衆院選は小選挙区比例代表制なわけで、小選挙区で政治家を選び、比例代表では政党を選ぶことになる。政治家を選ぶには、例えばその人格や経歴も含め人間を総合的に評価することもできるが、政党を選ぶとなると公約を評価することが軸になると言ってもいいだろう。

ただ公約の内容というのは多岐にわたるわけで、その全てを具に見て適切に評価するのは難しいのだが、よくよく考えればそもそもそんな必要はない。あくまで選択肢の中から「私にとって良い党」を見つければ十分なので、自分にとっての良し悪しを評価できれば十分である。

そんなわけでこれから私は各党の公約を、自分なりにいくつかの軸を設定して、なるべく客観的に評価しようとしているわけであるが、たとえ客観的であってもその評価軸の設定自体が偏っており、もしかして中立的というわけにはいかないのかもしれない。ただまぁその内容、やり方も含めなんらか皆様の参考になるだろうと思うので、こうして紹介するのも無駄ではないだろう。

ということで前置きが長くなったが、今回の衆院選で各党の公約を評価するにあたって設定した軸は以下の3つである。

① 再生エネルギーや原発をめぐるエネルギー政策に対するスタンス
→脱原発型(再エネ重視)か、バランス型(現状の延長)か、原発新設型か

② 経済財政に対するスタンス
→積極財政/分配重視か、財政均衡/民間活力重視か

③ 安保政策に対するスタンス
→集団的自衛権を認めるか、敵基地攻撃能力を認めるか

それぞれ①に関しては国際的に「脱炭素」への機運が高まる一方で急ぎすぎた欧州や中国でエネルギー危機が起きており脱炭素とエネルギー供給の安定性の両立に難しい舵取りが求められるようになってきていること、
②については当面のコロナ禍で生じている経済社会問題への対応と政府運営の持続可能性を両立させるためには経済財政政策の見直しが必要になってきていること、
③については我が国の領土保全のためには軍拡を続ける中国の脅威にどう立ち向かうか考える必要があること、から選んだものである。

各党の公約を評価した結果が以下のとおりである。

・少なくとも短期的には財政均衡を志向する政党はいない。
・自民党と公明党の間には安保政策で若干の距離がある。
・一方野党共闘陣営はエネルギー政策では一致しているが、れいわの積極財政路線、共産党の安保政策は独自路線を行っている。
・国民民主党はエネルギー政策で消極的ながら、原発の利用を容認している点で野党共闘政党と距離がある。
・維新は小型原子炉推進に対して最も積極的なスタンスを取っている。

以下それぞれの政党の公約に対する寸評をまとめるので参考にされたい。

①エネルギー政策

自民:バランス型だが、政策パンフレットから「再生可能エネルギー」の文字が消え※、他方で原発再稼働、核融合開発が明記されるなど、菅政権に比べてやや原発推進に振れた。

※1. 原子力、水素を含むあらゆる選択肢を追求する「クリーンエネルギー戦略」に集約。
※2. 令和3年政策BANKでは「2030年目標に向けて、再生可能エネルギーを最大限導入し、主力電源化します」と記載。

公明:バランス型だが、従来からの主張通り「原子力発電に代わる再エネを最優先の原則のもとで最大限導入し、原発の依存度を着実に低減するとともに、原発の新設を認めず」として、自民党と若干の距離が開き始めている。これに配慮してか、重点政策集にはエネルギー政策に関する記載が乏しい。

立民:「原発に依存しないカーボンニュートラル」を前面に押し出し、2030年に自然エネルギー電力50%、2050年に自然エネルギー電力100%を目指すとする。

国民:原子力に関しては新増設を認めないが、消極的ながらも当面の利用は認めるとし、立憲民主党とは距離がある。

共産:「石炭火力から脱却し、原発のない脱炭素社会を追求する」ことを目指し、2030年までに石炭火力と原子力発電の発電量はゼロとするとしている。

れいわ:原発は即時廃炉し、「自然エネルギー100%の社会を2050年までに実現」すると主張。

社民:「脱炭素は脱原発とセット」として原発ゼロを掲げ、「2050年には自然エネルギー100%の実現」を目指すとする。

維新:「既設原発は市場原理の下でフェードアウトを目指し、国内発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合を拡大させ」、他方で「廃炉技術の伝承と使用済み核燃料の有毒性低減のため、小型高速炉など次世代原子炉の研究を強化・継続」するとしている。相対的ではあるが原発については最も前向きなスタンスを示している。

②経済財政政策

自民:「成長と分配の両面が必要」と掲げ、多様な先端技術分野への投資支援や、看護師、介護士、幼稚園教諭、保育士などの賃金上昇が明記された。総裁選における高市陣営の主張と、岸田陣営の主張が折衷してバランスがとられた印象。他方消費減税は明記されず。

公明:重点政策に「0歳から高校3年生まで全ての子どもたちに『未来応援給付』(一人あたり一律10万円相当の支援)」「出産育児一時金(42万円)を増額」、さらには「子ども家庭庁」の創設など子どもや出産・子育てを重要視する方針を強調。他方で財政規律に関する記述は乏しく、積極財政・分配重視に振れた印象。また消費減税に関する記載はなし。

立民:「1億総中流社会の復活」を目指し、法人税や富裕層への増税を進める一方、「(時限的な)年収1000万円程度までの所得税ゼロと(低所得者への)年額12万円の給付」「時限的な5%の消費減税」などの減税・給付策を進める。また医療、介護、子育てや教育などの分野への予算の重点配分を謳う一方で、財政規律に関する姿勢について記載はなく、積極財政・分配に大きく振れた印象。

国民:「積極財政への転換」を唱え、「一律10万円の再給付」「5%の消費減税」「コロナの影響を受けた事業者に対する最大90%の家賃や光熱費などの固定費補償」など分配重視の政策を前面に打ち出す。また教育無償化や児童手当の拡充など子育て世帯への支援も明記。財源としては「教育国債」を創設し10年間で50兆円確保する。

共産:歳入面では消費税は5%に減税することを主張する一方、税の不公平性をただすため大企業が優遇される租税特別措置の縮小や、法人税、富裕層の所得税を上げて負担を強化することを宣言。歳出面では給付金、生活保護や社会保障関係費の充実を主張。コロナ危機への対応など短期的には国債増発によって財源を賄うものの、コロナ終息後は大企業や富裕層に対する増税により恒久的な財源を用意する方針。

れいわ:異次元の積極財政を唱えている。具体的には「消費税の廃止」「社会保険料負担軽減(後期高齢者医療制度を全額公費とし毎月5000円キャッシュバック)」「デフレ脱却給付金(脱却するまで1人当たり月3万円給付)」「児童手当の倍額化」「教育完全無償化」などを唱え、インフレが起きるまでは国債を積極的に発行するとする。

社民:「消費税は3年間ゼロ」とし、代わりに大企業の内部留保への課税を主張。大企業・富裕層への課税を強化し、「あらたな特別給付金10万円を支給」するとしている。その他教育の無償化、奨学金は原則給付型とすることを主張。他方財政規律への考え方については明確な記述なし。

維新:財政については当面は「将来世代の負担と過度なインフレを招かない範囲で積極的な財政出動・金融緩和」を行うとし、コロナ禍で赤字幅が拡大するプライマリーバランスについて「現実的な黒字化の目標期限を再設定」するとしている。また「2年(目安)に期間を限定した消費税5%への引き下げを断行」し、その後は「所得税・法人税を減税する 『フロー大減税』で簡素で公平な税制を実現するとしている。分配面では教育の無償化や、出産支援の拡充などを唱えており、「減税をして積極財政を展開する」という点ではかなり財政緩和的な内容となっている。

③ 安保政策

自民:日米同盟を軸に豪、印等と連携し「自由で開かれたインド太平洋」を推進する旨明記。台湾のTPP加盟申請歓迎も記載。限定的に集団的自衛権を認め日米同盟を強化し、Quad※のような日本主導の経済安保の枠組みを推進するという点で、安倍政権以来の安保政策の方針を踏襲。「相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」も記載し、敵基地攻撃能力の保有を示唆。

※日米豪印の首脳、外相らによる安全保障や経済を協議する枠組み。

公明:重点政策には特段記載なし。政策集には、自民党と同じく日米同盟を軸に豪、印等と連携し「自由で開かれたインド太平洋」を推進する旨を明記。他方台湾のTPP加盟申請や敵基地攻撃能力に関する記載はなく、こちらも自民党と若干距離がある印象。

立民:日米同盟重視を謳いつつも、一方で辺野古の新基地建設の中止、安保法制の集団的自衛権にかかる部分の廃止、などを主張。

国民:日米同盟重視を謳いつつも、一方で辺野古の新基地建設の一時停止、安保法制の見直し、などを主張。

共産:辺野古新基地の建設中止、普天間基地の無条件撤去、安保法制の廃止、ひいては日米安保条約の廃棄を主張。「異常なアメリカいいなり」をただすとする。

れいわ:安保政策については積極的にマニフェストでは触れられていないが、従来から立憲民主党等と同様、辺野古の新基地建設の一時停止、安保法制の見直し、などを主張。日米関係については「対米追従外交からの脱却」を謳い共産党により近いスタンスを取っている。

社民:立憲民主党等と同様、辺野古の新基地建設の一時停止、安保法制の見直し、などを主張。他にも「反基地や脱原発の住民運動が監視・弾圧されるおそれ」があるとしてかねてから批判してきたが、菅政権下で成立した重要土地調査規制法にも触れた。日米安保条約については、日米地位協定などと合わせて見直し、軍事協定から「日米平和友好条約」に転換することを主張している。

維新:日米同盟を軸に、日米英豪印に加え台湾との連携強化を明記した。公約には書かれていないが敵基地攻撃能力についても容認する姿勢を従来から見せており、また防衛費のGDP1%の枠撤廃を主張するなど、一部では自民党よりも踏み込んだ内容となっている。

※各党選挙公約
・自由民主党
・公明党
・立憲民主党
・国民民主党
・日本共産党
・れいわ新選組
・社会民主党
・日本維新の会