※この記事は2012年11月17日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第246回

　千葉県の公園で、散歩中に落ちていたソーセージを食べた犬が、歩けなくなり病院に運ばれた。
　ソーセージは中身が青い色をしており、不凍液などとして使われるエチレングリコールが混入していたという。(*1)(*2) 　その公園では、それ以前にも猫の死骸などが発見されており、毒エサを定期的に撒いている人がいる可能性が高い。

　一番可能性が高いのが、野良犬や野良猫の臭いや糞などに悩まされていた近所の人間が、毒エサを巻いて野良を駆除しようとした可能性だろう。動物を殺すのは決してほめられたことではないし、動物が公園などに住むことも当然なのだが、それでもそうした被害に悩む人がいるということは理解しなければならないだろう。 　問題としては決して保健所が駆除を徹底すれば解決というわけではなく、人間と野生の動物が必要以上にお互いのテリトリーを荒らさずに共存する方法を考えて行きたいとは思う。

　ところで、僕はこのニュースを聞いて、少し別の事を考えた。 　よく、野良猫などを自宅で飼うでもなく、餌を与えているだけの人って、一体どういう考えでそういうことをしているのかということだ。そういう人が問題になるのは、彼らが餌を与えるだけで、猫の管理はもちろん、餌を与えた後のゴミの始末もしないような場合が少なくないからだ。 　そして多分、今回の事件のような「駆除」の論理と「餌を与える人」の論理って、多分似た様なものじゃないかなと、僕は思う。

　つまり、どちらも「自分にとって必要なことをするあまりに、他人の迷惑が見えなくなる」という事ではないのかなと。 　自分の家におしっこをかけられたりするから、野良を駆除したい。その場合に普通であれば猫よけのグッズなどを揃えたり、保健所に電話をしたりする。しかしそこで短絡的に毒の餌を撒いてしまう。その人の頭の中には「散歩中のペットが食べたらどうしよう」とか「子供が間違って口にしたらどうしよう」という考え方が浮かばない。また、野良がかわいそうだから餌をあげる人も、犬猫のために何かしてあげたいが、餌をあげる程度しかできない。それはいいのだが、その後の始末ということに全く気が配れない。

　彼らの気持ちは理解できないということはない。しかし、もう少し考えれば気づけるはずの事に気付けない人の存在というのは、やはり周囲の人からすれば気味が悪いのではないか。

　これらのニュースで伝えられることは、決して「かわいそうな犬猫が毒餌で殺されようとしている」ということではない。そのような変な人間が私たちの身の回りにいて、私たちの生活を脅かしているというメッセージである。そこには当然のように、そうした人たちを管理監視しよう、よしんばこの社会から排除しようという欲求が伴う。

　しかし、その恐ろしい人間の正体は、単に考えが少し他人よりも足りないだけの人である。そうした人をその実像のままに考え、理解していくことこそが、安易な排除を行わない社会を目指すためには必要であるはずだ。迷惑で怖いから排除をするというのでは、野良に毒エサを撒いて排除しようとした人と同じ考え方じゃないかと、僕は思うのだ。

*1：ソーセージに有毒物質？　千葉の公園、犬が食べ病院に（朝日新聞）http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121112-00000035-asahi-soci *2：“青いソーセージ”に騒然…公園そばに猫5匹死骸（テレビ朝日系（ANN））http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20121113-00000023-ann-soci

赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
 1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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