REALFORCEのファームウェアとR3ソフトウェアがアップデートされ、割り当て可能なキーの種類が増えた。筆者的にうれしいのは、「戻る」と「進む」のキーを割り当てることができるようになったこと。Fnキーを併用する割り当てで、最下段右端のカタカナの“ろ”と隣のシフトキーに割り当てておくと、キーボードだけでブラウザなどの履歴の中を前後に動くことができるようになる(写真01)。Chromeブラウザ標準のAlt+左右カーソルキーより押しやすい。ついでにFnキーの割り当てにテンキーのコードを割り当てた。一部のアプリケーションでテンキーのコードを使うものがある。たとえば、エクスプローラーのファイルツリーウィンドウでは、テンキーの“*”で選択フォルダー以下をすべて展開し、テンキーの“-”ですべてを折りたたむことができる。

写真01: 新しいファームウェアとR3ソフトウェアでは、戻ると進むをキーに割り当て可能になった。Fnキーを押しながら入力するキーにこれらのキーやテンキーのコードを割り当てた

筆者は、日本語入力はソフトウェアを併用してOASYS配列で行っている。このため、スペースキーともう1つのキーを親指で押したい。REALFORCEの初代の配列ではギリギリ可能だったが、2世代目以降は、これが難しくなった。このため、スペースキーと変換キーのあたりを改造することにした。ただし、このREALFORCEは『借り物』なので、分解の許可をもらい、元に戻せるような改造とした。とはいえ、切った貼ったの工作が不要というわけでもない。そこで、加工用のキートップとして、同じ静電容量方式を使うPFU HHKBのオプションである「カラーキートップセット」を入手した。少し幅の広いキートップ(REALFORCEの右シフトキー相当の幅)と、通常の文字キーと同じ幅のキートップがそれぞれ2つ入っている。REALFORCEとHHKB Professionalは、キートップの固定方法が同じであるため、差し替えがきく。

・カラーキートップセット

https://www.pfu.fujitsu.com/direct/hhkb/hhkb-option/detail_keytop-proc.html

キー配列を考えたとき、スペースキーの下にある「サポート」と「カタカナ/ひらがな」キーが邪魔になる。REALFORCEが採用する静電容量検出方式では、基板の上に電極を作り、その上に円錐状のバネ、ゴムカップ、キートップ支持部品という構造になっていて、配線などを壊すことなくキーを外すことができる。ただし多数のネジを外す必要がある。

部品を外したら、スペースのキートップを変換キーに使い、スペースキーには、カラーキートップセットの幅広いキーの右側を少し切断して使うことにした。スペースキーは、変換キーでもいいのだが、わずかに幅が狭い。押せないわけではないが、キートップの角を押すことになり、キートップが指に当たる感触が気になる。これをカラーキートップセットの幅広のキーにすると、端にはなるがキートップ上部を押すことになるため感触に違和感がない。ただし、この場合、右側が隣のキートップと干渉するため、右側を切り落とした(写真02)。

写真02: スペースのキートップを変換キーにつけ、スペースには、カラーキートップセットのコントロールキーを加工して取り付けた。下には、薄いゴムのシートを敷いてキートップが金属のキーボードフレームに当たらないようにしてある。このためにスペースキーの左右にあったサポート部品と「カタカナ/ひらがな」キーを取り外した。コントロールキーの左側にも加工のあとがあるが、試行錯誤の結果である

ただ、REALFORCE R3の分解は簡単ではない。こうした作業になれていないと元に戻せなくなる可能性もある。特にキーボード基板のラバーカップは手荒く扱ったりすると、外れて中のバネが出てしまうので要注意である。

さて、改造のついでといってはなんだが、ついでに内部の基板などもちょっと見ておくことにしよう(写真03)。中身は、大きくメイン基板とキーボード基板に分かれ、その間をフレキシブルPCBがつなぐ構造、背面のコネクタの裏側がメイン基板であり、キートップの真下がキーボード基板である。

写真03: REALFORCE R3HC22は、本体底部にメイン基板が装着され、その上にキーボード基板、キートップを含む金属フレームが乗る構造で、キーボード基板と金属フレームは多数のネジで止めてある。キーボード基板の右上の張り出している部分はLEDが装着されている

キーボード基板側には、小さなICが2つ乗っているが、配線などを見るにLED点灯/制御のためのICと思われる。

メイン基板(写真04)は、キーボードにしては割と大きめで小さな部品が多い(静電容量によるキーオンオフ検出などのためと思われる)。中央付近の大きめのICは、STマイクロエレクトロニクス社のSTM32L072RBT6(以下STM32L072と表記)で、ARMのCortex-M0+を使ったSCOである。乾電池で駆動するため、低消費電力のプロセッサを採用していると考えられる。資料は、以下にある。

・STM32L072RBT6

https://www.stmcu.jp/stm32/stm32l0/stm32l0x2/12618/

写真04: REALFORCE R3HC22のメイン基板。中央のSTM32L072RBT6は、Cortex M0+コアを内蔵している。キーボード基板との接続コネクタやUSBコネクタに接続しているように見受けられる。左上がCPUコア(Cortex M4F)を内蔵するBluetoothモジュールで、こちらもある程度複雑な制御が可能。Bluetoothの接続先切り替えやペアリング処理などを担当していると思われる

右上の金属で覆われたものがBluetoothの通信モジュール太陽誘電EYSHCNZWZだ。こちらの情報は、現時点では以下にある。

・太陽誘電 通信モジュール

https://www.yuden.co.jp/jp/product/category/module/bluetooth/

モジュールの中身は、 Nordic Semiconductor社のnRF52832で、中にはCortex M4Fコアが入っている。STM32L07との機能の振り分けは、不明だが、配線を見るにSTM32L072側でキーボードのオンオフ検出とUSB接続を行っているように見える。

今回のタイトルの元ネタは、「借り物」、「貸し出し」という発想から、久生十蘭の「姦(かしまし)」である。「ウチら陽気なかしまし娘」(古い?)の「かしまし」である。会話で進行する小説だが、その中で語られる着物の話が尋常ではない。こういうのを否定的な意味で「衒学」、“ペダンティック”などということがあるが、筆者は「知識」をこうやって「文章」にするのだと教えられた。久生十蘭は、戦前、戦後に活躍した作家。筆者は久生十蘭を社会思想社の現代教養文庫で知ったが、いまでは大半の作品が青空文庫で読める。