22歳の稲見萌寧(左)と21歳の古江彩佳 若い二人がし烈な女王争いをくり広げた(撮影:村上航)

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ゴルフを愛するみなさんこんにちは。原田香里です。
今シーズン、最後まで激しい賞金女王争いを繰り広げた稲見萌寧さんと古江彩佳さんのスタッツ(部門別ランキング)を改めて見直してみました。どちらも、平均的にいい数字を出していることがわかります。ドライビングディスタンスは稲見さんが33位(平均238.86ヤード)、古江さんは56位(平均233.51ヤード)ですが、どちらもこれはウイークポイントになっていません。平均ストローク1位(稲見さん)と2位(古江さん)なのですから。「ゴルフは飛ばしではない」ということを、2人とも体現してくれていると言っていいでしょう。強いて今後の課題を探すとすれば、古江さんのパーオン率20位(70.5817)くらいでしょうか。
2人の過去データと比べようとしたのですが、2020-2021はロングシーズンになったので、古江さんはルーキー。稲見さんも2018年に3試合出ただけで、2019年の記録としか比べられないことに気が付きました。うっかりそのことを忘れて調べてしまうほど、2人の活躍は際立っていたのです。
女子ツアーでは出場しているアマチュア選手が上位に入ることが珍しくなくなっています。2014年の勝みなみさん(KTT杯バンテリンレディス)、2016年の畑岡奈紗さん(日本女子オープン)。そして2019年の古江さん(富士通レディース)と、優勝するケースも増えてきています。プロになってすぐにツアーを引っ張るような活躍をする選手が多いのも、皆さんご存じのとおりです。
その一方で、トップアマとして活躍し、プロの試合でも上位に入るなどした選手が、プロに転向したらなかなか結果が出ない、というのもよくあることです。
なぜ、そういうことが起きるのか。私なりに分析してみました。私がプロになったのは今から30年以上前の1989年。選手層も違えば、プロになった時のレベルも今とは全く違います。プロになってすぐに活躍できる選手は本当に限られていました。
それでも、プロとして試合に出始めると、周囲からこんな風に聞かれたことをよく覚えています。「なんでプロになったら急にアンダー(のスコア)が出るの?」と。当時は今と違って、アマチュアがアンダーパーで回ることはまだ少なかったのです。
自分が何と答えたのかは覚えていませんが、今になってその答えを改めて探すと「ゴルフの質の差かな」という気がしています。
「1打の重み」というのは、競技ゴルフをしていればプロでもアマチュアでもよくわかっているはずです。それでも、プロになるとその重みは直接、賞金という形ではっきりと表れることを選手は肌で感じます。それがランキングになり、自分の評価につながる。「1打の重み」に、色々なものがついてきてさらに重くなる、と言ってもいいでしょう。それに伴って、言葉では言い表せない形で、ゴルフの組み立て方が変わってくるのではないでしょうか。
もう少し、違う方向からお話ししましょう。試合に出ているプロは、もちろん優勝を目指してプレーしていますが、優勝しなくても予選を通れば賞金がもらえます。順位によって賞金が変わる中で、攻めるところは攻めて、守るところは守ってと、その時の状況でゴルフの精度を上げていかなくてはなりません。試合は毎週あり、その中で勝つか、負けるかだけを考えていてはうまくいかないこともあります。
一方、アマチュアの場合は違います。昔に比べれば試合の数は増え、プロの試合に出られる機会もありますが、毎週プレーするわけではありません。プロの試合で予選を通っても、当然、賞金もありません。極端な言い方をすれば、優勝するか、しないか、という部分でゴルフをしているのが現在、ツアーに出ているアマチュアなのです。
プロに転向して、早く活躍できる選手は、『無意識』のうちにゴルフの組み立て方を変えることができているのではないでしょうか。古江さんや西村優菜さん、優勝はできなかったけれども賞金ランキング上位に入った西郷真央さんなどは、本能的にプロとしてのプレーに切り替えることができているから、結果が出せているのかもしれません。
ツアープレーヤーを目指す以上、プロになることは目標ではなく単なる通過点です。プロになって試合に出て結果を出す。そのためにみんな必死で練習しているはずです。ところが、いつの間にかプロになることが目標になってしまうのは、よくある話です。
プロテストを目指している若い人たちに私が話すのは、前述のようにプロテストは通過点に過ぎないこと。なかなかそのような思考でプロテストに向かうのは難しいとは思いますが…。その先の目標を考えれば、自分が何をしなければならないかは自然に見えてくるはずだ、ということです。
今の若い人たちの多くは、決まったコーチに見てもらっている場合が多いですが、だからといってコーチの言う通りにプレーしていればいいわけではありません。自分で決断して自分でプレーするのがゴルフ。コーチに練習方法を教えられても、何のための練習なのかわかっていなければ、意味がありません。わからないのなら、コーチに質問する。自分が何をしたいのかがはっきりしなければ、練習もただやるだけ、になってしまいます。反復練習で体にスイングを覚えさせることは大切ですが、意味が分かってやっているのと、そうでない場合は、効果が全く違うはずです。トレーニングも同じことです。
コーチにスイングを見てもらい、トレーナーに体づくりのアドバイスをもらう。近頃の多くのゴルファーが置かれた状況はとても恵まれています。ただ、その分、自分を見失いやすい、という部分もある気がします。
ゴルフをするのはコーチでもトレーナーでもなく自分自身。当たり前のことですが、これができないとプロゴルファーとしてはうまくいかないでしょう。結果が出たとしても、長くは続きません。
ルーキーで女王争いをした古江さん、3シーズン目で女王になった稲見さんを始め、プロになってすぐに結果が出ている人たちは、自然にプロとしてのゴルフができているのだと思います。この先も、自分で考えることをしっかりし続けられれば、浮き沈みはあっても息の長いプレーヤーになれるはずです。
原田香里(はらだ・かおり)
1966年10月27日生まれ、山口県出身。11歳からゴルフを始めると、名門・日大ゴルフ部に進み腕を磨いた。89年のプロテストに合格しプロ転向。92年の「ミズノオープンレディスゴルフトーナメント」でツアー初優勝。93年には「日本女子プロゴルフ選手権大会」、「JLPGA明治乳業カップ年度最優秀女子プロ決定戦」勝利で公式戦2冠を達成。98年には賞金ランキングでも2位に入るなど通算7勝の活躍。一線を離れてからは日本女子プロゴルフ協会の運営に尽力。今年の3月まで理事を務めていた。
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