オーストラリア戦での勝利によって、変わり始めた流れを確実なものにできるか否か。

 11月のワールドカップ最終予選2試合には、そんな意味合いがあった。

 10月のオーストラリア戦では、従来の4−2−3−1から4−3−3へと変更し、中盤に田中碧、守田英正を起用。先制しながら同点に追いつかれたあとは、古橋亨梧、浅野拓磨を投入し、勝ち越した。

 硬直化していたチームに変化がもたらされたことで、流れが変わった格好だ。

 ところが、11月最初のベトナム戦は、オーストラリア戦からの流れを意識するあまり、逆に対ベトナムの戦略を曖昧にしてしまった感がある。

 1−0で勝つには勝った。だが一方で、せっかく変わり始めた流れに乗り損ねた印象は強かった。

 そして、今回のオマーン戦。ここでもまた、日本はいい流れに乗るどころか、むしろ前半に関しては酷い内容に転じていた。

 ボールを保持してはいるものの、距離感が悪く、有効なパスはほとんどなし。逆に、安全第一で選択しているはずのバックパスを奪われ、スピードのあるカウンターを受ける結果になっていた。

 守備にしてもどこからボールを奪いにいくのかはっきりせず、全体がズルズルと後退。オマーンにうまくボールをつながれ、ゴール前まで運ばれるシーンも少なくなかった。

 得点の雰囲気がないばかりか、これだけオマーンに攻撃機会を与えれば、どこかで一瞬のスキが生まれ、先に失点しても不思議はない。

 前半の内容だけを比較すれば、9月に日本がホームで負けた試合よりも悪かった。

 だが、そんな流れを変えたのは、またしても新戦力の投入だった。

 後半開始からMF三笘薫が左サイドに投入されると、ファーストプレーでいきなり縦に仕掛け、ペナルティーエリア脇の好位置でFKを得る。

 その後も、決してきれいに抜き切るシーンばかりではなかったが、執拗にドリブルを仕掛け、際どくラストパスを狙い、オマーンディフェンスを背走させた。

 前半は、MF伊東純也のいる日本の右サイドだけを抑えればいい、といった様子だったオマーンも、これで日本の左サイドにも意識を向けざるを得なくなった。「今日初めてやったが、サイドから崩すのが得意なプレーヤーが両サイドにいると、相手も嫌かなと思う」とは伊東の弁だ。

 結果的に、オマーン守備陣が三笘の左からのクロスに対し、右から入ってきた伊東を捕まえられずに失点したのは、必然の流れだった。

 そこでは派手に目立つ三笘の存在に目を奪われがちだが、後半62分から左サイドバックに投入されたDF中山雄太の働きも出色だった。

 的確なポジショニングでセカンドボールを回収することで、単発で終わりがちだった日本の攻撃に厚みを加えていた。伊東の決勝ゴールにしても、一度は三笘が失ったボールを中山がすぐに奪い返したところから生まれている。

 従来の序列を覆し、ピッチに立った選手たちが最終予選の悪い流れを変えていることは、オーストラリア戦に続き、明らかだ。

 有り体に言えば、森保一監督の采配的中、である。

 この試合がA代表デビュー戦だった三笘が、いきなりの大一番でこれだけの仕事ができたのは、東京五輪に出場したU−24代表も含め、「1チーム2カテゴリー」での強化を進めてきた成果とも言えるだろう。


アウェーのオマーン戦を1−0で勝利した日本代表

 しかし、この選手交代が采配的中であるかのように映るのは、裏を返せば、それ以前に悪手を打ち、自ら戦局を悪化させていたから、でもある。

 三笘、中山の投入が流れを変えたのは確かだとして、なぜ彼らは先発で使われなかったのか。

 とりわけ中山は最終予選で途中出場を続けており、すでに先発出場への布石は打たれていたのではないのか。

 また、4−3−3と南野拓実の相性がよくないことは、これ以前の試合でも明らかなのに、なぜ南野先発にこだわるのか。

 Jリーグで好調なFW前田大然、DF旗手怜央が出場どころか、ベンチにさえ入らなかったことにも疑問を感じる。

 代わってベンチに入ったものの、出場機会のなかった海外組に比べ、むしろ武器がはっきりしている分、試合展開によらず、使い勝手はよかったのではないかと感じるのだが、森保監督の考えはそうではなかったようだ。

 せっかく「1チーム2カテゴリー」で強化してきたはずが、結局は「1カテゴリー」しか信用されていない。そんな印象さえ受けてしまう。

 この勝利で勝ち点を12に伸ばした日本は、オーストラリアを抜き、サウジアラビアに次ぐグループ2位に浮上。初戦でオマーンに、しかもホームで敗れる失態から始まった最終予選も、明らかに流れは変わった。

 キャプテンのDF吉田麻也が、「(日本が)苦しみながらも勝ち点3を積み上げて、オーストラリアは引き分け。状況が好転し始めているのは大きい」と話しているとおりだ。

 選手個々の能力で言えば、日本はグループ内でも抜けた存在であり、よほどのことがない限り、今後3位以下に転落するとは考えにくい。ここから先は、一歩ずつワールドカップ出場へと近づいていくだけだろう。

 とはいえ、その歩みにもどかしさを感じるのは、日本が本来の力を発揮できず、勝手にコケている感があるからだ。

 確かに、選手交代が悪い流れを変えた。だが、そもそも悪い流れはなぜ生まれたのか。

 采配的中の裏に潜むミスを見すごすべきではない。