映画『マスカレード・ナイト』よりホテル・コルテシア東京のセット
 - (C) 2021東野圭吾/集英社・映画「マスカレード・ナイト」製作委員会

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 東野圭吾原作、木村拓哉&長澤まさみ共演による2019年のヒット作の続編『マスカレード・ナイト』が公開中だ。舞台は、前作『マスカレード・ホテル』と同じく一流ホテルのホテル・コルテシア東京。型破りな捜査一課の刑事・新田(木村)と、優秀なホテルマンの山岸(長澤)という異業種の2人が再びバディを組み、殺人事件の解決に向けて協力関係を築いていく。そんな本作のもう一つの主役と言えるのが、ホテル。その舞台裏を、前作に続いてメガホンをとった鈴木雅之監督が語った。

 物語は、ある日警察に匿名の密告状が届いたことから始まる。それはホテル・コルテシア東京で大みそかに開催されるカウントダウンパーティー“マスカレード・ナイト”に、数日前に起きた殺人事件の犯人が現れるというもの。刑事の新田は再びホテル・コルテシア東京のフロントクラークになりすまして捜査を開始。一方、フロントクラークからコンシェルジュに抜擢された山岸は、またもや暴走する新田に頭を抱えながら、一癖も二癖もある利用客たちの無理難題にに応えるべく奔走する。

 前作と同様、舞台はほぼホテル内で完結。ある時は手前から奥へ、ある時は左右に移動するなど縦横無尽に駆け巡るカメラワークもあって、まるでホテルの中にいるような体感ができるのが映画版シリーズの醍醐味だ。鈴木監督といえば、これまで「王様のレストラン」(1995)、「総理と呼ばないで」(1997)、「ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜」(2019)、そして木村とタッグを組んだ大ヒットシリーズ「HERO」(2007〜2015)など、限定された空間での群像ドラマを多く手掛けてきた。

 そんな鈴木監督が意識しているのが「舞台のような空間演出」だという。「『王様のレストラン』のころから意識し出したのが舞台のようなこと。例えば『HERO』だったら検察庁でメンバーのフロアの入り口前にみんなが集まる場所があって、登場人物たちが各自の部屋から出たり入ったりしている。それは舞台的な要素だし、『王様のレストラン』はレストラン、『マスカレード』シリーズはホテルの中だけで完結する舞台を作っていく感じ。そこには複数の登場人物がいて、こっちでもあっちでも同時にいろんなことが行われている。そういう舞台的な匂いが昔から好きだったんですよね」

 『マスカレード』シリーズで苦心したのが、ホテルの複数の場所にいる人々を一枚画で見せること。「こっちで木村くんが誰かと話している、こっちでは長澤さんが誰かと話している。こっちではほかの人が通っていく。いろんなところで芝居が行われているのを同時に撮っていき、それをリンクさせるカメラワークが多かった気がします。さらに、カメラが動くのと同時にいろんな人物が入り込むので、両方を合致させるのがまた難しい。これは照れくさいですけど、かなり緻密に考えました。細かいパズルをたくさん組み合わせていくような作り方。もう頭の中がごちゃごちゃになるという感じで大変です(笑)。ただ、そうすることで、観てくださる方が映画館でホテルの中にいるような感覚を味わっていただけるのではないかと」

 続編の舞台は前作と同じホテルだが、物語の構造に大きな違いがあるという鈴木監督。「前作は犯人かもしれない怪しい利用客が来てはいなくなるの繰り返しだったんです。対して、今回は怪しい利用客がどんどん入ってきて、ずっと留まる。彼らがホテルの中でどういう行動をしているのか、ということが重要ですね。みな思惑があって動いているので、それを見失わないようにするということ。ですから前作よりも緻密さを要したと言えるかもしれません」

 ところで「HERO」シリーズしかり、この映画シリーズのビジュアル、空間演出にも「シンメトリー」という大きな特徴がある。前作のオープニングタイトルでは、タイトルの左右に新田、山岸が配置され、新田は左向き、山岸は右向きの格好だった。ホテルのロビーのインテリアやロゴマークも左右対称となっているが、なぜシンメトリーにこだわるのか?

 「前作のオープニングでは、出会う前の新田と山岸がロビーにいるんだけど互いに気づいておらず、目線も一回も合わない。そんな画で『水と油』の二人なんだということを表現しています。シンメトリーというのは単に気持ちがいいんですよね。これは僕の個人的な趣向ですが、何でも正面から見たり、道がまっすぐ続いていたりする方が気持ちがいい。それがもう染みついてしまっているというか」

 本作では、原作の設定を変え一日の物語にしているため、大小さまざまな事件が目まぐるしく展開し、観る人はそれぞれ脳内で慌ただしく犯人捜しを繰り広げるはずだ。そんななかで見落としたくない“仕掛け”について聞くと、鈴木監督は「何かを見つけてくださるのがうれしいですけど……」と前置きしつつ、以下のように語った。

 「何カットか犯人の目線のカットが入っているんです。もちろん気づいてもらえなくてもいいのですが、こちら側としてはそういうつもりでやっている、みたいなことがいくつかあります。登場人物たちがどのように行動しているのか。この人はなんでここにいるのか? といったことまで目を光らせていただければと思います(笑)」

 そうした、繰り返し観ることで得られるサプライズも、本シリーズの人気の一つではないだろうか。(編集部・石井百合子)