窓開き換気は感染を広げる可能性も? 専門家が指摘する新型コロナ予防の穴
新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから1年以上が経過し、2021年4月現在は「第4波」に入っていると言われている。
多くの人が気付いていることだろうが、新型コロナ禍はこれからもすぐに収まるということはないだろう。各々が感染しないように予防対策を打ちながら、日々を過ごしていく必要がある。
では、正しい予防法を知るにはどうすればいいのか。
新型コロナをはじめとしたさまざまな感染症の予防対策が書かれた『感染症予防BOOK』(三笠書房刊)の著者で、公衆衛生学を専門とする医師・左門新氏にお話をうかがい、新型コロナウイルスの予防対策や、感染症を防ぐために必要なことを聞いた。
(新刊JP編集部)
■窓開き換気は感染を広げる可能性も? 専門家が指摘する新型コロナ予防の穴
――『感染症予防BOOK』についてお話をうかがっていきたいと思います。ハーバード大学院で公衆衛生学を学ばれた左門さんですが、本書を執筆した経緯からお聞かせください。
左門:まず一つは、新型コロナウイルスの対策として、誤った対策が取られているところがあって、専門家として正しい予防法を知ってもらわないといけないと思っていました。そこにちょうど、新型コロナを含む感染症予防についての本を書いてほしいという出版社からの依頼がありまして、執筆をすることになりました。
実は日本の感染症対策は、世界にかなり遅れを取っています。具体的に言えば、予防接種であり、その代表例が子宮頸がんワクチンです。日本はもっと感染症に対して関心を持って、正しく対処しないといけないということで、新型コロナと子宮頸がんを中心に、広く感染症対策をカバーした本にしました。
――新型コロナでも対策方法に限らず、いろいろな人がいろいろなことを情報発信されています。その中で何を信じればいいのか、もっと言うと情報を正しく受け取るためにはどうすればいいのでしょうか。
左門:これはテレビを中心としたメディアとの関わり方に気を付けないといけませんね。
新型コロナ禍になって以来、毎日のようにテレビで専門家と言われる人たちが解説されていますよね。ただ、その中には感染症予防の専門家ではない人もいます。病気の診断・診療を行う臨床医と感染症予防の専門家は違うわけで、病気の診断・診療を行う専門家のなかには、予防対策は門外漢という方もいます。
また、テレビのワイドショーやニュース番組にはたいてい一人しか専門家が出てきません。本当はいろんな人を集めて、それぞれの意見を出さないといけないんです。それが科学の本来あるべき姿で、学会のようにいろんな意見をぶつけて正しいところに到達する必要があります。ところが、一人しかいないと、その人の意見がその場において通ってしまい、果たしてそれが正しいのか吟味されません。
――そうなると、正しく情報を受け取る、吟味するために、私たち一般人ができることは一体なんでしょうか。
左門:まずは公的機関。日本でいうと厚生労働省のホームページに、新型コロナウイルスをはじめとしたさまざまな感染症の対策が書かれています。ほかに国立感染症研究所のホームページもそうですね。日本だったらまずそこを見ることが大事です。
ただ、最初に述べたように日本の感染症対策は遅れていますから、国際基準としてWHO、英語になってしまいますが、アメリカのCDC(米国疾病予防管理センター)や欧州CDCを押さえておくべきでしょう。海外の機関の情報を読んで、日本との違いを確認する必要があります。
――日本で取られている対策を見たときに、左門さんから見て「これはNG」だと思うものはありますか?
左門:この本の帯にも載っていますが、窓開け換気ですね。電車に乗ると窓が開いているでしょう。あれは感染を広める原因になる可能性があります。
WHOが出している「換気ガイドライン」の「換気」というのは、窓開け換気ではなく、フィルターを通して空気を濾過して循環させる中央換気システムのことをいいます。ファンやエアコンを使って室内の空気を回したりするのはNGとも書いてあります。それはなぜかというと、飛沫やエアロゾル粒子が室内に広がってしまい、むしろ感染を広げてしまう可能性があるからです。
中央換気システムがない場合は、室内に人がいないときに窓開け換気をして、人が入ってきたら窓を閉めるといいでしょう。人が複数いる環境では、空気の流れを作るのはNGです。
――換気は「風通しを良くして、空気を換える」というイメージがありました。
左門:日本は窓開け換気を重視する国ですが、実はもともと結核対策なんですよ。空気感染する結核は、換気のよい病棟に比べ、換気の悪い病棟では感染が数倍多いということが分かっています。そこでWHOは以前、結核などの空気感染する患者の医療施設向けに換気のガイドラインを作ったんですね。それがずっと用いられてきた背景があります。
ところが、新型コロナウイルスは空気感染ではありません。それにも関わらず、空気感染対策の換気のガイドラインがそのまま医療施設でない環境にも適用されてしまっているんです。
――本書の帯には「窓開け換気」とともに、もう一つ「うがい」も感染を広げることがあると書かれています。
左門:皆さん、予防でうがいをしていると思いますが、予防効果はないと言っていいでしょう。ウイルスが喉に付着して10分から15分で感染が成立しますが、たとえば外出先で10分おきにうがいするわけにもいきませんよね。
また、うがいがエアロゾルを発生させる可能性があると私は考えています。ガラガラガラガラで呼気と唾液が混じって発生し、そのエアロゾルが数十分間、遠くまで到達してしまう。沖縄コールセンターでのクラスターはこれが原因と思われます。複数の人がいる場所でうがいをするのはやめた方がいいと思いますね。
――では、新型コロナの予防対策として一番押さえておくべきポイントはどこにあるのでしょうか。
左門:まずは相手と面と向かって1.5メートル以内に近づくのであれば、マスクをしましょう。また、極力モノに触らないようにしてください。アルコール消毒は化粧品アトマイザーに入れて常に持ち歩いて、もし触ってしまったらすぐに手を消毒しましょう。これを徹底すれば95%は防げると思います。
なぜすぐに手を消毒しないといけないのかというと、人は一時間に10回から20回は無意識に口周りや鼻先、目を触るんです。そこから粘膜感染が起こります。本来であればこまめに手洗いをすることで防ぐことができるのですが、やはり外出先で何かに触ったらすぐに手を洗うことはできないですよね。
――なるほど。
左門:100%防げるわけではないですが、日常生活で目指すのは95%で良いと思います。100%防ぐ対策と努力は並大抵のことではないですから。
(後編に続く)
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多くの人が気付いていることだろうが、新型コロナ禍はこれからもすぐに収まるということはないだろう。各々が感染しないように予防対策を打ちながら、日々を過ごしていく必要がある。
では、正しい予防法を知るにはどうすればいいのか。
新型コロナをはじめとしたさまざまな感染症の予防対策が書かれた『感染症予防BOOK』(三笠書房刊)の著者で、公衆衛生学を専門とする医師・左門新氏にお話をうかがい、新型コロナウイルスの予防対策や、感染症を防ぐために必要なことを聞いた。
■窓開き換気は感染を広げる可能性も? 専門家が指摘する新型コロナ予防の穴
――『感染症予防BOOK』についてお話をうかがっていきたいと思います。ハーバード大学院で公衆衛生学を学ばれた左門さんですが、本書を執筆した経緯からお聞かせください。
左門:まず一つは、新型コロナウイルスの対策として、誤った対策が取られているところがあって、専門家として正しい予防法を知ってもらわないといけないと思っていました。そこにちょうど、新型コロナを含む感染症予防についての本を書いてほしいという出版社からの依頼がありまして、執筆をすることになりました。
実は日本の感染症対策は、世界にかなり遅れを取っています。具体的に言えば、予防接種であり、その代表例が子宮頸がんワクチンです。日本はもっと感染症に対して関心を持って、正しく対処しないといけないということで、新型コロナと子宮頸がんを中心に、広く感染症対策をカバーした本にしました。
――新型コロナでも対策方法に限らず、いろいろな人がいろいろなことを情報発信されています。その中で何を信じればいいのか、もっと言うと情報を正しく受け取るためにはどうすればいいのでしょうか。
左門:これはテレビを中心としたメディアとの関わり方に気を付けないといけませんね。
新型コロナ禍になって以来、毎日のようにテレビで専門家と言われる人たちが解説されていますよね。ただ、その中には感染症予防の専門家ではない人もいます。病気の診断・診療を行う臨床医と感染症予防の専門家は違うわけで、病気の診断・診療を行う専門家のなかには、予防対策は門外漢という方もいます。
また、テレビのワイドショーやニュース番組にはたいてい一人しか専門家が出てきません。本当はいろんな人を集めて、それぞれの意見を出さないといけないんです。それが科学の本来あるべき姿で、学会のようにいろんな意見をぶつけて正しいところに到達する必要があります。ところが、一人しかいないと、その人の意見がその場において通ってしまい、果たしてそれが正しいのか吟味されません。
――そうなると、正しく情報を受け取る、吟味するために、私たち一般人ができることは一体なんでしょうか。
左門:まずは公的機関。日本でいうと厚生労働省のホームページに、新型コロナウイルスをはじめとしたさまざまな感染症の対策が書かれています。ほかに国立感染症研究所のホームページもそうですね。日本だったらまずそこを見ることが大事です。
ただ、最初に述べたように日本の感染症対策は遅れていますから、国際基準としてWHO、英語になってしまいますが、アメリカのCDC(米国疾病予防管理センター)や欧州CDCを押さえておくべきでしょう。海外の機関の情報を読んで、日本との違いを確認する必要があります。
――日本で取られている対策を見たときに、左門さんから見て「これはNG」だと思うものはありますか?
左門:この本の帯にも載っていますが、窓開け換気ですね。電車に乗ると窓が開いているでしょう。あれは感染を広める原因になる可能性があります。
WHOが出している「換気ガイドライン」の「換気」というのは、窓開け換気ではなく、フィルターを通して空気を濾過して循環させる中央換気システムのことをいいます。ファンやエアコンを使って室内の空気を回したりするのはNGとも書いてあります。それはなぜかというと、飛沫やエアロゾル粒子が室内に広がってしまい、むしろ感染を広げてしまう可能性があるからです。
中央換気システムがない場合は、室内に人がいないときに窓開け換気をして、人が入ってきたら窓を閉めるといいでしょう。人が複数いる環境では、空気の流れを作るのはNGです。
――換気は「風通しを良くして、空気を換える」というイメージがありました。
左門:日本は窓開け換気を重視する国ですが、実はもともと結核対策なんですよ。空気感染する結核は、換気のよい病棟に比べ、換気の悪い病棟では感染が数倍多いということが分かっています。そこでWHOは以前、結核などの空気感染する患者の医療施設向けに換気のガイドラインを作ったんですね。それがずっと用いられてきた背景があります。
ところが、新型コロナウイルスは空気感染ではありません。それにも関わらず、空気感染対策の換気のガイドラインがそのまま医療施設でない環境にも適用されてしまっているんです。
――本書の帯には「窓開け換気」とともに、もう一つ「うがい」も感染を広げることがあると書かれています。
左門:皆さん、予防でうがいをしていると思いますが、予防効果はないと言っていいでしょう。ウイルスが喉に付着して10分から15分で感染が成立しますが、たとえば外出先で10分おきにうがいするわけにもいきませんよね。
また、うがいがエアロゾルを発生させる可能性があると私は考えています。ガラガラガラガラで呼気と唾液が混じって発生し、そのエアロゾルが数十分間、遠くまで到達してしまう。沖縄コールセンターでのクラスターはこれが原因と思われます。複数の人がいる場所でうがいをするのはやめた方がいいと思いますね。
――では、新型コロナの予防対策として一番押さえておくべきポイントはどこにあるのでしょうか。
左門:まずは相手と面と向かって1.5メートル以内に近づくのであれば、マスクをしましょう。また、極力モノに触らないようにしてください。アルコール消毒は化粧品アトマイザーに入れて常に持ち歩いて、もし触ってしまったらすぐに手を消毒しましょう。これを徹底すれば95%は防げると思います。
なぜすぐに手を消毒しないといけないのかというと、人は一時間に10回から20回は無意識に口周りや鼻先、目を触るんです。そこから粘膜感染が起こります。本来であればこまめに手洗いをすることで防ぐことができるのですが、やはり外出先で何かに触ったらすぐに手を洗うことはできないですよね。
――なるほど。
左門:100%防げるわけではないですが、日常生活で目指すのは95%で良いと思います。100%防ぐ対策と努力は並大抵のことではないですから。
(後編に続く)
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