出張訪問買い取りの様子(写真:バイセル提供)

コロナ禍においては、多くの企業が苦しい状況下に置かれている。そんな中で、今注目されているのが、古着や使わなくなった家具などを販売する、リユース業界だ。リユース業界にとって「コロナ禍はプラスに働いた側面もある」、との業界関係者の声も聞こえてくる。いったいどういうことなのか。

テレビCMでも目にすることが多いBuySell Technologies(以下バイセル)は、着物や切手、貴金属、時計、ブランド品など、幅広いジャンルのモノを買い取り・販売している。

バイセルは、買い取り希望の依頼者の自宅に社員が直接出向いて商材を仕入れる「出張買取」方式をとっているが、2020年は出張訪問件数が第1四半期で4.4万件、第2四半期で4.1万件、第3四半期で4.7万件、そして第4四半期で5.4万件と訪問件数も着実に伸びている。

また出張訪問当たり仕入れ高も、第1四半期で2.6万円、第2四半期で2.5万円、第3四半期で3万円、第4四半期も3万円と、こちらも順調な推移だ。

第2四半期は落ち込みがあったものの、下期にかけて回復してきた要因について、同社の岩田匡平社長は「コロナが逆風から追い風へと変わった」と分析する。

コロナ禍での3つの追い風

岩田社長によると「コロナによる追い風」とは、具体的には3つあるという。1つは、買い取り依頼者が在宅で過ごす時間が長くなったことにより、遺品整理、生前整理、自宅整理などを行うときに処分・売却するニーズが高まったことだ。

バイセルの利用者はもともと、家の掃除をするときに利用する人が63%を占めている。コロナ禍によって、自宅整理などががさらに増加し、同社への買い取り依頼も増えたそうだ。

2つ目は、金相場の上昇だ。金相場は、コロナ禍の前は1グラム当たり4000円前後で推移していたが、コロナにより取引が活発化して最高値7000円まで上昇。その結果、宝飾、貴金属など高単価品を売却したいという依頼者が増え、「1訪問当たりの買取り金額、つまり獲得粗利額が大幅に増加した」(岩田社長)。

3つ目は、EC販売が伸びたことだ。バイセルは、買い取り希望の依頼者の自宅に社員が直接出向いて商材を仕入れ、買い取った製品を業者向けに販売する「卸売り」がメインだが、3年ほど前から一般消費者に対しても、百貨店の催事とECによる直接販売を開始した。

百貨店催事については、予定していた催事の多くがキャンセルされ、2020年第2四半期は壊滅的な状況だったようだ。一方で、ECは自社サイト・他社モールともに夏頃から大幅に伸びたという。

岩田社長は「ECによる購入層は、日常的に着物を愛用している中高年やシニアの女性客も多く、コロナによって、消費者の購買行動様式が完全に変わった 」と話す。一般消費者向けの販売比率は、コロナ前の2019年度は10%であったが、2020年度では、14%程度まで増えた。

また、こうした状況を下支えしている要因として、同社ではリユース事業の主要KPI(重要業績指数)に「出張訪問数」と「出張訪問当たり変動利益」の2つを設定している。

KPIの徹底した推進と管理

1つ目のKPIの「出張訪問数」は、採用人員を増やすことと、広告宣伝費の投下による訪問アポイント数を増やすことによって増加を図っている。2020年第3四半期の出張訪問数は4万7344件で前年同期比3.5%増とコロナの影響から回復。第4四半期は5万4603件と前年同期比17.2%増になった。

もう1つのKPIである「出張訪問当たり変動利益」は、出張訪問あたりの「売上総利益」から「広告宣伝費」を差し引いたものだ。変動利益を拡大するには、売上総利益を拡大し、広告宣伝費を効率化することが必要だ。

そこで大事になってくるのが「出張訪問当たり売上総利益」の増加である。バイセルでは3年前に、自社の教育システム「イネ―ブルメント」を構築。これは、トップクラスの成績を出したことがある出張訪問査定員が集結して、営業スキルや査定ノウハウ、お客様評価などをスコア化し、体系的な教育システムとして作りあげたものだ。この教育システムで、新卒社員でも半年で出張訪問査定が可能になるという。

こうした取り組みの結果、出張訪問当たり変動利益は、2017年12月期の通期では2万6716円であったが、その後増え続けて2020年の通期は3万5526円へとアップ。コロナ禍においても堅調に推移している。

コロナでの追い風があったという点もあるが、こうした徹底したKPIの推進や管理が、同社の直近の安定した状況に貢献しているようだ。

中古市場で堅調なのは、衣服や宝飾類だけではない。携帯やタブレットもコロナ禍で伸びている。

携帯市場(東京都千代田区)は、スマホや(iPadのようなタッチパネル式の)タブレットなど中古の端末を全国約400店舗の代理店や買取サイト、法人から買い取り、ECサイトでの一般消費者への販売と、代理店や法人への卸販売を行っている。小売りと卸の売上比率は、ほぼ半々だ。

同社の今期10カ月間(2020年5月〜2021年2月)の売上高は、前年同期比23%増の9.6億円と堅調だ。同社の粟津浜一社長は、特にコンシューマー向けの低廉価格帯の中古のスマホやタブレット端末が大幅に伸びている要因を3つ挙げる。

子ども用の低価格タブレットが伸びる

1つは、2019年10月に電気通信事業法が改正され、携帯電話の通信料金と端末代金が完全分離されたことだ。それまでは、例えば、キャリアショップで新しい携帯を買う時には端末の割引があり、実質ゼロ円で買えた。それが禁止されたことで、より安い端末を求めるニーズが強まり、中古携帯がどんどん売れるようになったという。

2つ目の要因は、コロナの影響で子ども用の低廉価格の中古タブレットが売れたことだ。コロナによって、親が自宅で仕事をすることも増えてきた。さらに子どもたちも、休校で学校に行けなくなったり、学校が再開しても通常より早く自宅に帰ってくるようになった。

「子どもは親の仕事の邪魔になるので、“これで遊んでいなさい”と中古タブレットを与えることで需要が増えた」と粟津社長は分析する。

3つ目の要因は、昨年12月から、「5000円スマホ」「10000円スマホ」といった「価格カテゴリー販売」を開始したことだ。その背景・狙いは、「わかりやすい商品が欲しい」というユーザー層の獲得にある。

「従来は、スペックによって7980円とか、12980円といった値付けをしていた。しかし、中古携帯は、価格の安さを最優先に選ぶ人が多く、スペックに興味がない人もいる。中古携帯を伸ばしていくには、わかりやすくする必要があると思った」(粟津社長)。

そこで、5000円、10000円とわけ、それぞれの価格カテゴリーでできることをメインに伝えるようにしたことで、顧客獲得にもつながっていった。

課題もまだまだ多い

ここまで衣服、宝飾類、携帯と、コロナ禍における中古品へのさまざまな需要を見てきたが、課題点もまだまだある。

例えば、衣服や宝飾類関連では、対面方式での買い取りや店舗での販売を行っている企業も多いが、ネット上で一気通貫で売買する企業ももっと増えてくるようになるだろう。そうするとより競合激化になる可能性も出てくる。

また携帯の場合は、キャリアショップでスマホを購入する人のほうがまだまだ多い。さらに、中古で買うことに抵抗を感じる消費者も少なくない。前出の中古スマホ販売を手がける「携帯市場」では、スマホやタブレットを買い取った後に、ロジスティクスセンター(岐阜県羽島市)においてデータ消去、検品、クリーニングを丁寧に行っている。

しかし、総務省の「電気通信事業分野における市場検証年次レポート」(2018年度版)によると「バッテリーの持ちが悪そう」「きちんと動作するかわからない」「故障時の保証がなさそう」など、中古の端末に対するさまざまな不安要素が挙げられている。

コロナ禍による一時的な売り上げ増ではなく、長く中古品を買い求めてもらうためには、サービスの質のよさや、利便性、顧客へのサポート体制など、業界全体でも、より徹底することが大切になってくるだろう。