クラウドコンピューティングを早期に導入した企業の間で、「オンプレ回帰」という動きが始まっています。パブリッククラウド環境からオンプレミス(プライベートクラウド)環境へ、システムの一部を再移行する動きです。オンプレ回帰の理由や課題はいくつかありますが、本稿ではデータの視点から検討してみます。

AWSはオンプレ回帰を意識している

はじめにオンプレ回帰の動向ですが、例えばIDC Japanの国内調査では調査対象企業の85%が2年以内にクラウドからオンプレへの移行を計画中と回答しています(*1)。もちろん、すべてのシステムをオンプレに戻すわけではなく、適材適所の、いわゆるハイブリッドクラウド化を進めるという意向です。

また、Amazon Web Services(AWS)は、自らのパブリッククラウド環境を顧客のデータセンターに構築するためのソリューションであるOutpostsを、2019年に市場に投入しました。Outpostsは、オンプレミスのアプリケーションをパブリッククラウドへ移行しやすくする手段であると同時に、パブリッククラウド環境からオンプレミス環境への移行をサポートする一面を持っています。

さらに、Outpostsを導入するための検証済み製品を提供するパートナーとして、当社を含めた複数のストレージベンダーが登録されています。オンプレ回帰により、Outpostsはプライベートクラウド側に相応のストレージを準備することが必要だと認識しているわけです。もはやオンプレ回帰はAWSにとって見過ごせない動きであり、今後はエンタープライズ・コンピューティングのトレンドとなる可能性があります。

出典:

(*1) 国内ハイブリッドクラウドインフラストラクチャ利用動向調査、IDC Japan、2020年10月

データに関するコストはパブリッククラウドよりオンプレが優位

企業がオンプレ回帰を選択、あるいは検討する理由はいくつかあるでしょう。たとえば、これは当社のCTOが企業のIT部門責任者向けに行ったセミナーの際に(コロナ前の話ですが)、よくある冒頭での出席者との挙手によるコミュニケーションの様子です。

「パブリッククラウドを新しいアプリを稼働するために導入する方はいますか?」−全員が手を挙げました。

「コスト削減のためにクラウドへ移行した方は?」−手を挙げた方はほとんどいませんでした。

「ビジネスの急拡大に対応するためですか?」−再び全員が手を挙げました。

セミナー参加者の大半にとって、パブリッククラウドへの移行はコスト増を意味したわけです。客観的な数値とは言えませんが、CTOが出席者と会話した範囲では、オンプレに比べてクラウドでは二桁パーセントのコスト増を見込んでいるようでした。パブリッククラウド化は、コストの視点では、大容量のデータを長期間保存する費用に加え、データのクラウドへの「イングレス(投入)」、クラウドからの「エグレス(退出)」費用が必要になります。

AWSは、オンプレ側にデータを置くことによるコスト低減をOutpostsのメリットとして自社のWebサイトで紹介しています(*2)。なお、レイテンシの改善や、データの所在場所に関する当局の規制への対応も、データをパブリッククラウドからオンプレミスに移行するメリットとして挙げています。

出典:

(*2) AWS Outposts

オンプレ回帰の課題:データの「バースト」にどう対応するか

オンプレ回帰をデータの視点から考える際に、コストと並んで意識すべきは「バースト」、つまりデータの急激な増加に対して、柔軟かつ即刻展開できるソリューションが求められるということです。言い方を変えれば、データに関するパブリッククラウドの利点は、このバーストへの対応が容易だということです。

データストレージ装置に限らず、ITインフラ導入時に担当者を悩ますのは、どれほどの性能・容量が必要か、また例えば3年後にどれほど増加するかを想定することです。余裕を持たせて設計すれば導入したIT資産の費用対効果が低下する一方で、規模を過少に評価すれば事業の拡大についていけなくなる可能性が高まります。

例えば、性能不足が発生したために追加発注した装置が稼働を始めたときには、すでに処理のピークは過ぎていたという悪夢のような話は珍しくありません。

このバースト対応の解決策は、パブリッククラウドでおなじみの従量課金モデルをオンプレ、プライベートクラウドにも適用することです。実際、多くのストレージベンダーがこうした提案を始めています。

容量に余裕を持たせた装置を、あらかじめオンプレミスのデータセンターに設置し、課金は使った分だけでいいですよ、というわけです。しかし、できますできます、と言いながら実用に耐えないサービスを、皆さんは体験されたことはないでしょうか。

そこで本稿の締めくくりとして、オンプレミスのバースト対応導入に関する判断基準をご紹介します。

初期の容量見積に対して何倍まで、即座にバーストに対応できるか

価格が適正か。少なくともパブリッククラウドより有利な条件か

従量課金部分だけでなく基本料金のような定額課金部分があるか。あるとすれば、従量課金部分の幅が狭くないか

不必要なサポートサービスに対する課金が含まれていないか

以上、あたかもオンプレ礼賛のような内容ですが、本稿の主題はオンプレへの「回帰」です。まずはクラウドへ移行して、そのメリットと限界を把握してから、オンプレにどのデータを回帰するのがよいか、つまりハイブリッドクラウドの最適な構成を、検討されることを願ってやみません。

岡田義一 おかだよしかず インフィニダットジャパン合同会社代表執行役社長。2016年10月1日就任。専門商社において今日から遡る事約30余年の1989年に現在のNASストレージで代表されるNetApp(当時Network Appliance)の前身であるAuspex社のビジネス面での責任者の役を7年間担い、以来EMC、3Pardata、NetApp、Veritas、また直近ではSolidFireなどデータストレージの領域ビジネスに一貫して従事。その先見性と実績から大手企業経営者との信頼関係も厚い。 この著者の記事一覧はこちら