日本法人が倒産したキャスキッドソン。負債総額は65億円に上る(写真:Photoshot/アフロ)

4月27日に100件を突破した、新型コロナウイルス関連の経営破綻(東京商工リサーチ調べ)。5月1日17時時点では114件まで増えているが、大勢を占めるのは体力に乏しい中小・零細企業である。

数十億円規模の負債を抱えての破綻は主に宿泊施設関連で、かねて経営状態が悪化していたところに、コロナ禍による需要消滅がトドメを刺したというパターンが大半だ。

だが、そんな中で“突然死”してしまった有名ブランドがある。英国の服飾雑貨ブランド「Cath Kidston」製品の販売を手掛ける、キャスキッドソンジャパンだ。

同社は英国キャスキッドソン・リミテッド社の100%子会社で、日本国内で44店舗を展開していた。4月22日に破産手続きの開始を申し立て、同日に破産開始決定を受けたのだが、東京商工リサーチによれば、負債総額は債権者数約400名に対し65億円にも上るという。

4月7日の緊急事態宣言発令を受け、店舗の入居先である商業施設が休業を余儀なくされ、キャッシュフローが悪化したにしても、それからわずか2週間後の破産というのはいくらなんでも早すぎる。

破産申し立ての4営業日前には、日本向けの新作コレクションの発表を行い、公式オンラインショップと営業を継続している直営店での販売開始をメディア向けに告知してさえいた。なぜキャスキッドソンジャパンは、いきなり倒産したのか。

数年おきの交代が続いた日本での販売元

「Cath Kidston」は花柄や水玉模様をあしらったバッグやポーチなどのファッション雑貨のほか、エプロンやマグカップなどの家庭用品をクラシカルなデザインで展開している、モダンヴィンテージブランドだ。店舗数は世界16カ国で約200に上る。

洗練されたブティックやレストランが立ち並び、映画『ノッティングヒルの恋人』の舞台にもなった、ロンドン西部の高級住宅街・ノッティングヒルに1号店が誕生したのは1993年のことだった。

日本上陸は、今から18年前の2002年。ユナイテッドアローズが販売権を取得し、2006年には代官山に初の単独ブランド店舗を出店。6店舗まで拡大させたが、2011年1月末をもって販売を終了した。

その原因となったのが、英国本社側の株主交代だ。2010年4月に創業者が保有株をアメリカ系プライベートエクイティファンドのTAアソシエイツに売却。当時のユナイテッドアローズのリリースには、「従来の合意事項に変更が生じ、協議を重ねても条件面で折り合えなかった」とある。

代わって名乗りを上げたのが、「PINKY&DIANNE」や「VIVA YOU」で知られるサンエー・インターナショナル。2010年末に販売権を取得すると、3年目に店舗数27店舗、売上高を当時の5倍近い50億円に引き上げる目標を掲げた。

だが、決算説明資料を見るかぎり、この計画が達成された形跡はない。同社の業績に貢献もしない代わりに足を引っ張ることもないまま、2015年8月末をもって販売を終了。営業権は英国本社が設立したキャスキッドソンジャパンが引き継いだ。

英国本社直轄の日本法人に経営が移って以降は、店舗のスクラップアンドビルドを進め、現在の店舗数は44。突然の破産申し立てに至った原因は、英国本社側の経営破綻にある。

現地メディアによれば、4月21日、日本の民事再生法にあたるアドミニストレーションの手続きに入り、英国内の60店舗を閉鎖。全従業員の97%にあたる900人を解雇したという。

現在の株主であるベアリング・プライベート・エクイティ・アジアが倒産手続きの中で事業譲渡を受け、ECのみの小規模な形での再建を目指すというから、あらかじめスポンサーを決めて申し立てをする、プレパッケージ型の処理ということだろう。

ベアリングは香港を本拠地とするアジア最大級のプライベートエクイティファンドで、2014年に英国本社へ資本参加を開始。2016年に完全支配し、現在に至っている。

"早すぎる倒産"の裏事情

日本法人は英国本社から商品を仕入れているため、英国本社側からすると売り掛け先だ。債権者として売掛債権を保全する意味でも、また、換金価値があるかもしれない子会社株式の資産価値を維持する意味でも、英国本社としては日本法人からの資金流出を防がなければならない。

つまり、突然の破産申し立ては、英国本社の財産を保全するために行われたものなのだ。日本法人が資金繰りに行き詰まったことが原因ではない。65億円もの負債は、英国本社からの買掛債務と従業員の給与、それに44店舗の賃料債務などの一般債務。400人の債権者の大半は従業員だ。

英国本社の経営悪化の原因は、まさにコロナ禍によるインバウンド需要の消滅。近年の英国本社は、売り上げの4割をアジアからのインバウンド需要に頼っていたという。

すでに日本法人のECサイトは閉鎖されている。日本法人の営業権は今後、日本法人の破産手続きの中で譲渡先を探すことになるのだろうが、買い手が現れなければ再開は見込めない。当然、約300人の従業員たちも職を失ったままだ。

英国本社の経営悪化は現地ではかねて報道されていて、プレパッケージ型のアドミニストレーションの申し立てを前提に、スポンサー探しに入っているということを、現地のスカイニュースが報じたのは3月21日。

だが、日本法人の破産申し立てまでの1カ月の間に、この事実が日本のメディアで日本語で報道された形跡はない。日本法人自体が資金繰りに詰まっていたわけではないだけに、一般債権者はもちろん、従業員もその運命を事前に知っていたとは考えにくい。

こうなると、直前の新作発表は無邪気であるだけに罪深い。コロナ禍は働き方のみならず、債権管理の手法にも変革を迫ることになるのかもしれない。