■日本のGDPがマイナス25%に修正された

ゴールドマン・サックス証券が4月7日に公表した経済見通しによると、7都府県を対象にした緊急事態宣言を前提とし、第1次補正予算の内容を加味したうえで、2020年4〜6月期実質GDP成長率(前期比年率)は従来予測のマイナス7.2%からマイナス25%に修正される状況となった。これはGDPデータをさかのぼれる1955年以降で最大の落ち込みとされており、日本経済が未曽有の経済危機に突入しつつあることを示唆している。消費も設備投資も輸出入も壊滅的な打撃を被る予測となっている。

そのため、誰が見ても倒産企業・失業者が溢れかえることが容易に想像され、日本経済を下支えするための政府の大胆な政策が求められている。しかし、第1次補正予算では事業規模自体は108兆円と大台を超える形の数字が発表されたものの、実際の真水は15兆円前後にとどまる小規模なものでしかなかった。米国の約220兆円の緊急経済対策と比べるとあまりにも危機意識が欠落していると言えるだろう。

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米国は第2弾の緊急経済対策も既に予定しており、米国民の生活を安定させるだけでなく、アフターコロナを見据えた産業競争力の維持(倒産回避・雇用維持等)に力を注いでいる状況だ。初動のミスからウイルス感染が拡大した米国は日本よりも強烈なロックダウンを採用しているため、GDPマイナスの規模は日本を上回るレベルとなっているため、その危機感のレベルも日本をはるかに上回るものとなっている。

■コロナ以前に消費増税で日本経済はボロボロ

本年のGDP見通しは世界中で大幅なマイナスとなっており、新型コロナウイルス感染の拡大が引き起こした各国の政府の過剰な対応策により、事実上の世界恐慌が人為的に引き起こされた状態だ。しかし、来年春に新型コロナウイルスに対するワクチンを含む治療法が確立することを前提とした場合、その後は世界経済全体が回復基調に向かっていく可能性も十分に想定される。一度どん底に突き落とされた後に、経済が徐々に回復していくことは必然的なことだろう。

しかし、日本がその世界経済の回復基調にうまく乗ることができるかどうかは疑問である。理由は、日本経済は消費増税によって新型コロナウイルス問題が発生する以前に、すでに足腰が砕けていたからだ。そのうえで、さらに新型コロナウイルス問題に伴う経済危機が襲ったことで、多くの優良な企業が急場をしのぎ切れずに潰れていくことになるだろう。そのため、アフターコロナを見据えた産業競争力の維持・立て直しに付いていけず、日本は極めて不利な立場に置かれる可能性がある。

■国民が最も望む消費減税を徹底無視する安倍晋三

4月14日・15日に自民党の二階俊博幹事長および公明党側から相次いで、首相官邸に対して国民に一律給付金10万円を支給する要望が上がった。これに対して安倍晋三首相は前向きな発言を行った。災害時の一時金支給に近い形を取って消費を喚起するための政策としてはよいものだと思う。しかし、これはあくまでも一時的な措置にすぎず、日本経済に昨年10〜12月四半期実質GDPで前年比マイナス7%超えの影響を与えた消費税を引き下げることは急務だ。

政府与党内では一部の若手有志による消費税減税の声はあるものの、政権幹部からは消費税減税に関する前向きな見解は一切示されていない。むしろ、第2次補正予算に一律給付金が盛り込まれることで、消費税減税がうやむやにされて終わってしまう可能性すらある。世論調査上で日本国民が回答する経済対策の圧倒的1位は消費税減税であり、安倍政権よりも国民のほうが日々の生活を通じ、現在最も必要な経済対策を理解していると言えるだろう。

アフターコロナに想定される国際競争環境に勝ち抜くための政治的な危機感の欠落は非常に深刻なものだ。そして、安倍政権は自らが2度の消費税増税に踏み切り、消費税率を5%から10%に引き上げた以上、自ら消費税減税を口にするにはハードルが高い。

■野党からは減税法案を作成に取り掛かる議員も

そのため、国内世論を喚起するために必要となるのは野党の積極的な動きである。野党が消費税減税を与党に強烈に迫ることによって、与党は重い腰をようやく上げることができるだろう。しかし、野党第一党である立憲民主党は枝野幸男党首が消費税減税に後ろ向きの姿勢を示しており、こちらも一筋縄に行きそうにない。国民民主党は消費税を5%まで引き下げる案を示しているが、旧民進党から分かれた2つの政党は消費税減税を推進する主体としてやる気もパンチも足りない。

注目すべきは、日本維新の会とNHKから国民を守る党の動きだろう。日本維新の会では音喜多駿参議院議員が8%までの減税を軸にした法案作成に取り組んでいる。日本維新の会は元々法案作成に熱心に取り組む傾向がある政党だが、消費税減税法案が仮に策定された場合、国民からもその政治姿勢に一定の注目が集まることになるだろう。また、NHKから国民を守る党(参議院所属会派はみんなの党)の浜田聡参議院議員も少数会派ながら参議院法制局と協力し、5%まで下げる減税法案の骨子を発表している。いずれも少数会派による法案作成作業であるため、国会での審議はもとより、議員立法提出要件を満たさない可能性はあるものの、政府与党に対する対案を示すその政治姿勢は評価に値する。

■このまま解散したら、与党は敗北する

現在の日本に必要な存在は、日本経済の厳しい経済見通しを理解し、政府与党に対して本気で政権交代を迫ることができる健全な野党の存在である。政府与党は自らの地位を脅かす可能性がある野党が存在しない場合、幾らでも経済対策の手綱を緩めることができる。与党を脅かす力強い野党が存在しないことが第1次補正予算による一律給付の見送りにつながり、消費税減税をはじめとしたアフターコロナを見据えた政策の実現を阻害している。

政府与党が消費税減税に踏み切るためには、可能な限り全ての野党が独自の消費税減税法案を提示し、政府与党だけが消費税率維持を主張しているように見える政治環境をつくることが必要だ。立憲民主党も自党以外の全ての野党が消費税減税法案をとりまとめた場合、従来までの税率維持方針を貫くことができるかは不明だ。

政府与党が消費税減税に踏み切るか否かは、世界経済・日本経済の見通しもしかることながら、消費税減税に向けた政治的な圧力が高まることが必要だ。それに言及することなく解散総選挙に踏み切った場合、確実に与党が敗北する状況が出来上がることで、政府与党は初めて消費税減税に本腰を入れて取り組むようになる。

■アフターコロナは政治にも影響大きい

それを実現するためには政府与党の方針転換を促す政権交代を目指す健全な野党の存在が必要だ。今、メディアも国民も注目する中で、野党は消費税減税法案の関連法規の改正まで含めた全文を公表すれば、国政に議席を持つ政党の中で唯一の政権担当能力を持った存在として国民にそのブランドイメージを植え付けることができるだろう。

アフターコロナは日本経済だけでなく日本政治にも大きな激変をもたらす。その中で、いずれの政党が伸びてくるかは、消費税減税法案を国民に示す能力があるか否かで判断することができるかもしれない。

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渡瀬 裕哉(わたせ・ゆうや)
早稲田大学招聘研究員
国内外のヘッジファンド・金融機関に対するトランプ政権分析のアドバイザー。米国共和党保守派やトランプ政権と深い関係を有する。
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(早稲田大学招聘研究員 渡瀬 裕哉)