大島渚賞、第1回受賞者はタル・べーラの弟子 坂本龍一が推薦
「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」が新たに創設した「第1回大島渚賞」の授賞式が19日に都内で行われ、初代受賞者に選ばれた小田香(おだ・かおり)監督が登壇。恩師であり、『サタンタンゴ』『ニーチェの馬』で知られるハンガリーの巨匠タル・べーラ監督から祝福メッセージが寄せられた。この日は、審査員長の坂本龍一、審査員の黒沢清監督、PFFディレクターの荒木啓子、故・大島渚賞監督の妻で女優の小山明子、ぴあ株式会社代表取締役社長でPFF理事長の矢内廣も出席した。
「大島渚賞」は、映画の未来を拓き、世界へ羽ばたこうとする若い映画監督を顕彰する映画賞で、劇場公開作品を持ち、日本で活躍する映画監督が選考対象となる。第1回受賞者の小田監督は、大学の先生から「己の中の一番の葛藤であり、撮らずにいられないものを撮りなさい」とアドバイスされ、2010年に自分が性的少数派であることをカミングアウトする中編作品『ノイズが言うには』を制作。その後、タル・ベーラが指揮する若手映画作家育成プログラムに参加し、ボスニアの炭鉱に単身カメラを持ち込み、日々の労働を捉えた『鉱 ARAGANE』、自ら水中撮影に挑戦し、マヤ文明に淵源を持つ人々の生活を描いた長編『セノーテ』などを発表した。
小田監督は「大変光栄に思います」と受賞を喜ぶと、国の政策によって隔離生活を余儀なくされた歌人・明石海人をはじめとしたハンセン病患者の不条理で壮絶な人生に触れながら、「これから自分が映画と共に生きていく中で、困難に立ち向かわなければいけないことも多々あるかと思います。その時には、大島渚さんの座右の銘(「深海に生きる魚族のように、自らが燃えなければ何処にも光はない」明石海人)や、確かに生きた人々のことを思い出したいです」とコメント。「命を、人生をかけて、今自分が生きて表現できているのかを常に問いかけ、映画の道を歩いていく所存です」と力を込めた。
タル監督からのメッセージは「まず何よりお祝いを伝えたい。そして、あなたを誇りに思っている。あなたに出会う幸運に恵まれたこと、それは私の人生の一つの贈り物でした」という感謝の言葉から始まり、「映画とは、ただ物語を語るのではなく、生きることについて考え続けることであり、体験をほかの人たちと分かち合っていくことなのだと、あなたは知っていました」と映画人としての精神を称賛。「人々の表情、人間らしさを捉え、自然を敬愛し、そして未来を信じる。今までもこれからも変わらず、あなたは続けるでしょう。我が道を行きなさい」と背中を押す言葉も添えられていた。
審査員長の坂本は、最初にディレクターの荒木が選んだ候補作の中に「大島渚の名前にふさわしい映画は残念ながらなかった」と告白。続けて「常に国家、権力、歴史、国境に翻弄された人々を描いてきた、あるいは常識に立ち向かってきた素晴らしい(大島)監督の名前を冠した人は誰かと考えた時に、今の日本では小田香さんしかないと思い、僕の方から推薦させていただきました」と小田監督の受賞の経緯を明かした。
黒沢監督も「今の日本の若い人に(同賞を)あげるのは大変困難な作業」と審査員役に戸惑いを見せながらも、小田監督の作品と出会ったことで「スムーズに決まりました」と振り返る。小田監督には「大変重たい賞ではありますけど、この賞を背負って、さらに素晴らしい作品を作ってください」とエールを送った。(取材:錦怜那)