「集まったひとりひとりがとてつもなく濃くて個性的で、このメンバーを紹介しないことには始まらないと思った」と語る山本太郎氏

写真拡大 (全3枚)


「集まったひとりひとりがとてつもなく濃くて個性的で、このメンバーを紹介しないことには始まらないと思った」と語る山本太郎

2019年夏の参院選で「れいわ旋風」「れいわ現象」と呼ばれる一大ムーブメントをつくり出した「れいわ新選組」。代表の山本太郎がこのたび、れいわ新選組のすべてがわかる著書『#あなたを幸せにしたいんだ 山本太郎れいわ新選組』を上梓(じょうし)した。

先の参院選では約228万票を獲得し、重度障害者ふたりを国会に送り出した、れいわ新選組はどのように結党されたのか。そして約99万票を獲得し「史上最高得票数の落選議員」となった山本太郎が今伝えたいこととは?

* * *

──本書は、参院選の候補者10人のベストスピーチとロングインタビューで構成されています。なぜこの本を出版しようと思ったのでしょう?

山本 集まったひとりひとりがとてつもなく濃くて個性的で、このメンバーを紹介しないことには始まらないと思ったからです。読み返してあらためて、自分をむちゃなやつだと思いました(笑)。

沖縄創価学会壮年部の野原善正(よしまさ)さんの例がわかりやすいですが、参院選出馬の打診をしたのが公示の6日前の6月28日。返事は明後日までにくださいと伝えてOKをもらいました。

それだけですでにむちゃなんですが、今度は公示日の前日に「比例じゃなくて東京選挙区から出てください」「2時間以内に返事をください」とお願いしたわけです。自分でも本当にむちゃすぎると思いました(笑)。

──その参院選で重度障害者ふたりを特定枠で当選させました。ご自身は落選後、19年9月から12月にかけて全国各地で街頭演説などをしていましたが、手応えはどうでしたか?

山本 れいわ新選組を旗揚げした昨年4月から、すでに全国各地を回っていましたが、選挙前、選挙中と比べても、今が一番手応えを感じてますね。

──街宣では、聴衆にマイクを渡し、彼らの訴えに耳を傾けていますね。生活が苦しい、低賃金で先が見えないなど。印象に残っていることは?

山本 どの現場に行っても「奨学金の返済がしんどい」という声を聞きます。今のままでは結婚も子供をつくることも絶対無理だと。ほかにも、ロスジェネの苦境をなんとかしてください、妻の介護で仕事を辞めて生活が苦しいといった声などです。

そういう声を聞くたびに、今、自分が議員だったら来週の委員会でこのことを質問できるのに、と悔しいです。国会の中で、みんなから聞いた声をダイレクトに伝えることができる権利を失ったことは大きいですね。

──山本代表は街宣で、感極まって涙することもあります。一部であれは「演技では?」という声もありますが。

山本 ギャラの出ない演技はしません(笑)。よく「どうせ役者だから演技に決まってる」と言われますが、やっぱり今の政治に対して「悔しい」という思いが強いんですね。世の中がすごいスピードで壊れていっているのに、そのスピードを緩めることができない悔しさです。

──毎日のように全国どこかで街宣し、時に酔っぱらいに絡まれたり、批判されることもありますが、つらくなりませんか?

山本 この前、久々に会った先輩に「おまえ、よう自殺せぇへんな」って言われました(笑)。あんだけ叩かれていやにならないのかと。もちろん人間なのでへこむこともあります。だけど私自身がやりたいこと、目的がはっきりしている。

それと空気は読めるけど読まないことにしてるんです。空気を読まないことで、大人の事情やしがらみに与くみしないようにしています。一部の人ではなく、全員に忖度(そんたく)する意気込みでやっていきます。

──舩後(ふなご)靖彦議員、木村英子議員は「重度障害者に何ができる」とバッシングされながらも、国会の委員会質問で確実に実績を上げています。

山本 どれくらい活躍できるかについては想定もしていませんでした。ですが、ふたりは初登院する前からバリアフリー化という形で国会を動かしています。通勤や仕事中に使えない「重度訪問介護」の制度について議論が始まったのも、ふたりの当選があってこそです。

それだけじゃない。木村議員は国土交通委員会に所属していますが、委員会質問ですでにふたつの実績を上げました。ひとつは、障害者用トイレについて。もうひとつは新幹線のバリアフリー化について。これに対して赤羽一嘉(あかば・かずよし)国交相はすぐに見直す方向で省内に指示し、JR各社を集めた検討会も設置するそうです。木村議員の質問によって、現実に物事が動いている。

舩後議員の対応も早い。私は全国を回って聞いた声を両議員に届けているんですが、沖縄に行った際、知的障害の子供を持つご両親が「定員内不合格」について話してくれました。

障害があるという理由で、定員に余裕があるのに高校が受け入れてくれないという訴えです。本人は学びたいのにそれが叶(かな)えられない。この声を伝えると、舩後議員は自身が所属する文教科学委員会で、早速その件を質問してくれました。ふたりとも、1期か2期経験した議員くらいの仕事をすでにされている。

──衆院選に向けて、2020年はどのような活動を?

山本 衆院選までずっと全国をドサ回りする予定です。衆院選は、ふたつの戦い方があると思っています。野党共闘に入るか、独自でやるか。野党共闘では、「政権交代したら消費税を10%から5%にします」というわかりやすいパワーワードが必要です。消費税5%で一致するのが無理であれば独自で100人以上の候補者を擁立します。

──本書には濃すぎる10人のメンバーが登場しています。ただ、この後れいわが政権を取るために組織を拡大させると、どうしてもきっちりした組織運営が必要になる段階が来ると思うんです。

例えばベンチャー企業あるあるで、50人超えると個性ある凸凹な初期メンバーがついていけなくなり、創業者の声も直接届きづらくなって、官僚的な組織にならざるをえない。れいわは、最大の魅力のひとつである個々の凸凹を生かしながら、大きな組織になれますか?

山本 私は組織に属したことがないし、どう組織運営していくのかっていうノウハウもないですが、誰もが何かしらの居場所があると思うんです。むしろ私自身が器用じゃないですから、「ついていけない」っていう人たちをどうするのかに関して、逆に自分ごととして考えられると。

れいわ新選組は、いろんな人を含んだまま、そもそもの考え方に沿っていきながら、大きくなっていきたいと思います。

山本太郎(やまもと・たろう)
1974年生まれ、兵庫県出身。90年に芸能界入り。俳優などとして活躍した後、2013年の参議院選挙に出馬し、初当選。14年に「生活の党」に合流し、「生活の党と山本太郎となかまたち」に改称(2016年に「自由党」に改称)。小沢一郎氏と共同代表に。19年4月、「れいわ新選組」を旗揚げし、7月の参院選に比例区より出馬。同党は政党要件を満たす票を得るものの、本人は落選

■『#あなたを幸せにしたいんだ 山本太郎れいわ新選組
(集英社 1300円+税)
山本太郎代表率いる「れいわ新選組」が打ち出したハッシュタグ付きの「#あなたを幸せにしたいんだ」。このメッセージはSNSで爆発的に拡散、れいわ新選組は2019年の参議院選挙で得票率2%を獲得し、国政政党になった。山本自身は99万1756票という最多得票を得るも、比例特定枠で重度障害者の候補者ふたりを押し上げたことで落選。ほかに立候補したメンバーは創価学会員、元東京電力社員、元セブン-イレブンオーナー、元派遣労働者など、日本の「当事者」。"れいわ旋風"と呼ばれた彼らの戦いの舞台裏、衆院選に向けた次なる一手、メンバー全員のスピーチ、インタビューを収録

インタビュー・文/雨宮処凛 撮影/有高唯之