エンジン特性をよく知ることで燃費は向上できる!

 環境問題はもちろんだが、経済性からも燃費を向上させるのは必須だ。しかし、だからといって「フワッとアクセル」とか「ゆっくり加速」といった、とにかく速度を上げずにゆっくり走ればいいという視点だけでは、クルマ好きにはストレスが溜まるばかりだろう。

 ハイブリッド車やディーゼルなど普通に使っていても燃費は良くなっているが、スポーツカーでも燃費良く走りたい。1円でも安いガソリンスタンドを探してウロウロするより、ドライビングテクニックで1km/L伸ばせれば試したくなるはずだ。それもただ速度を落とすだけではなく、走りを楽しみ、実感しながら達成できるなら幸いなはずだ。

 じつはモータースポーツの世界でも燃費は重要なテーマだといえる。二酸化炭素の排出を抑えるという大義名分はさておいても、燃費よく速く走ることは重要なのだ。たとえばル・マン24時間という世界的に有名なフランスでの耐久レースがある。このレースでは同じラップタイムで走れても燃費のいい走りができるドライバーのほうが優遇される。

 なぜなら約1時間ごとに走行し、ピットで給油してまた走るというスティントで作戦が組まれるが、満タンスタートで10周しか走れないドライビングスタイルのドライバーと、同じ速さでも11周、12周と多く走れるドライバーがいるなら、燃費のいい走りができるドライバーで多くのスティントを担当させたほうがトータルで1〜2回のピットイン、給油回数、給油量がセーブできよりよい成績がだせることに繋がるからだ。いくら速く走れても、1回ピットインおよび給油回数が増えてしまったら勝機がなくなってしまう。

 またF1のようにレース中に給油せずスプリント(といっても300kmも走るのだが)で速さを競うレースの場合、燃費のいいドライバーはスタート時点の燃料搭載量を少なくして決勝に臨める。ベルギーのスパ・フランコルシャンや日本の鈴鹿サーキットのように高速で平均速度が200km/hを超えるようなコースでは「フューエルエフェクト」といって搭載燃料量が走行タイムに与える影響が大きい。ガソリン10リッターで約9kg。これだけで1周のラップタイムに与える影響はコンマ5秒以上となり、コンマ1秒を争うF1では無視できない大きさとなるのだ。

 そこで燃費よく、かつ速く走るにはどの様なテクニックが有効なのかを考えてみよう。

 燃費を良くするには効率が大切だ。その為にはエンジンを効率よく使い、走行抵抗を少なくするように走る。たとえば最大トルクが3000〜5000回転、最高出力は8000回転で発揮されるような場合、コーナーからの立ち上がりでは3000〜5000回転で加速できるようなギヤを選択し、ストレートなど最高速付近では8000回転まで引っ張るようにする。100Rのコーナーを4速8000回転で走るなら、同じ速度で5〜6速を使い5000回転で走ることを選択する。同じ距離を走るのだからその間に回っているエンジンの回転数が少ないほうが燃費が良くなるのは明白だ。

 またシフトアップやダウンの際に、マニュアルクラッチ車の場合、アクセルを全閉にしてクラッチを切りシフトチェンジしてからまたアクセルを踏み込むのが一般的だが、アクセルを踏んだり戻したりする行為は燃料を無駄にシリンダーへ送り込むスイッチとなっていて、燃費上好ましくない。

 またガソリンエンジンの場合、インテークマニホールドという筒状の空気流路を吸気エアが高速で流れている。アクセルをオフにすると、この流れが休止してインテークマニホールドのなかの吸気の流れが淀む。そしてアクセルを踏み込むとまた流れだすが、吸気エアにも慣性力が働いていて、すぐには元どおりの流れにならずシリンダーに流れ込む吸気エアが理想的なタンブル(渦)を形成できない。それでノッキングが起こり点火時期がリタード(遅角)され、パワーを引き出せずに効率が悪化する、という悪い流れが起こってしまうのだ。

アクセルはわずかに踏んだ状態でシフトチェンジをする

 こうしたことを理解し、シフトチェンジのときもアクセルは全閉にせず微妙に開いて吸気エアの流れを遮断させないようにし、また踏み込む際にも燃料を増加する加速ジェット制御がかからないようにゆっくり踏み込むなどのテクニックを用いる。

 F1のレースシーンを見ていると直線の最後にアクセルを戻してコースティング(慣性走法)しているのがわかる。最高回転数で走る際にアクセルを微妙に戻し、ガスを薄くして燃費を稼いでいるわけだが、車速が高く大きな慣性力がかかっているので速さは大きく犠牲になっていない。こうしたコースティングを多用することも燃費を稼ぐのに重要だ。

 ポルシェ911は、PDKのトランスミッションにコースティング制御を取り入れていて、一定車速以上でアクセルを微妙に戻すとエンジンがアイドリング状態となり、惰性で走る状態を作り出せる仕組みを与えられている。

 また、慣性の法則から車速を変化させることが、もっとも大きなエネルギーが必要になり燃費を悪化させることもわかる。もっとも大きな慣性力がかかっているのは停止している状態で、走り始めが一番燃料を消費する。赤信号のたびに止まるのは燃費にとって非常に悪く、車速を落としてでも青信号になるのを待って、止まらずに通過できるよう速度調節することは、アイドルストップよりも燃費効果が高い。

 高速道路では車速を一定にし加速や減速を繰りかえさないようにする。そしてコーナーではステアリングを切り込むと舵角抵抗が増えて燃費を悪化させる。できるだけステアリングの操作を少なくしてコーナリングできるよう、車速とライン取りを探る必要がある。

 サーキット走行やレースのときはもちろん、日常的にもこのようなドライビングテクニックを駆使し、スムースで速くて燃費もよく走れるドライバーになってもらいたいものだ。