「先輩、一生恨みます」大学生をカモにした “50万円USB詐欺” 組織の実態
20代前半の大学生を中心に、高額なパソコンの記憶装置を買わされ借金を背負うことになる事案が続出している。その被害者であり加害者が悲痛な告白を。
「私が誘った後輩から“先輩、一生恨みます”と言われました。彼は大学も辞め、音信不通です。儲け話に乗って“USB購入”に誘ったことを後悔しています」
現在、都内の大学院に在籍する青木孝之さん(仮名)は、自分がしでかしたことを深く悔やんでいる。自身も最初は、被害者だった。
「大学4年のとき、友人から投資家を紹介され、老後に必要なお金の話などを聞きました。そのなかで持ちかけられたのが、バイナリーオプションの話です」(青木さん)
“USB”を使った新手の詐欺
バイナリーオプションとは、為替金融商品の一種で、円安か円高を予想し、予想どおりに為替が動けば儲かるシステム。「95%は負けるが、勝ち組の5%に入るやり方がある。それがこの中にある」と青木さんの目の前に出されたのが57万円の「USBメモリ」。
USBは、パソコンやスマートフォン内のデータを記録し、持ち運ぶことができる便利なアイテム。保存できる容量にもよるが、本体は1000円ほどから購入できる。問題のUSBを冒頭の青木さんから見せてもらったが、重要な情報が入っているからといって50万円というにはあまりにもお粗末なものだった。
国民生活センターにはすでに多くの相談が寄せられていて、昨年度の相談件数は810件。その半数は20代の若者からの相談だった。
マルチ商法などに詳しいリンク総合法律事務所の紀藤正樹弁護士は、
「詐欺に当たるかは、商品の中身や売り方などにもよりますが、高額であることを考えると悪徳商法の類だろうと思います。泣き寝入りせず、すぐに消費生活センターなどに相談することが重要です」
USBメモリに金融取引の必勝法ソフトを埋め込み売りつける“USB詐欺”。渋谷、新宿などのカフェで日常的に勧誘が行われているという。
週刊女性記者も以前、新宿のカフェで、「USBが51万8千円。セミナーやイベントで投資のスキルアップができるから、就活に役立つよ」と説明する男。それを聞く学生2人が、「教職課程が忙しくてバイトができないっていう友達がいるから、声かけてみますね」と答えたことを耳にした。
渋谷でも、「あと30人誘え」「1000人くらい友達がいればできますけど」といった男女の会話を頻繁に聞いた。
取材の過程で浮かび上がってきたのは、違法すれすれのグレーな手口と、よく練られたマニュアルの存在だ。
巧妙な幹部の手口
高額なUSBを販売する組織の元幹部だった大城雄さん(都内の私立大4年、仮名)も冒頭の青木さん同様、最初は「買わされた側」だった。
「月20万稼げる。マルチやねずみ講じゃない、クーリングオフもできると言われていた」
今年4月、東京私大教連は、私大下宿生の1日当たりの生活費がわずか677円と発表した。そんな学生に楽して儲かる投資は打ち出の小槌に映る。大城さんもすぐに食いついた。
大城さんは組織が構築している契約までの流れを明かす。
友人から投資の話を持ちかけられ、自称「すごい投資家」というA社の幹部を紹介された。2人から長時間、投資の話をされ、USBの存在を明かされる。価格は53万円。
高すぎる金額に迷っていると、今度は友達の知人というBが登場。「借金をしても3か月で返せるから大丈夫」と言われたという。
「その翌日、Bと一緒に学生ローンに行き、資格を取るために学校に通う資金を借りたいとウソを書くようにと指示されました」(大城さん)
50万円を借り、契約書を交わしUSBをもらった。支払いは現金の一括購入だった。
Bは「訪問販売だからクーリングオフが設けられている」と伝えてきた。クーリングオフとは契約の申し込みや締結した場合でも、一定期間内であれば無条件で契約の申し込みの撤回や解除ができる制度。
しかし、契約翌日からクーリングオフ期間が終わるまで、連日勉強会やミーティングが続きそれどころではなく、大城さん自身もどんどんのめり込んでいった。
大城さんは実際にUSBのチャートを使い投資をしたが、
「50回ぐらいやって、90万円くらい損をしました」
すると前出・A社の幹部が声をかけてきた。
「“投資の資金を集めたほうがいい”と提案されました。友人を誘い、購入契約を結ばせると、2万円がバックマージンとして入る。お金は私の上の紹介者、さらにその上の紹介者にも入る仕組みでした」
まさにマルチ商法。大城さんは友人を次々に引き込み、2か月ほどで幹部になった。まったく儲からないのに“儲かった”“欲しいものが買える”と言って若者を誘い、被害者は加害者に変わった。
日本の若者は「最高の狩り場」
「幹部は誰も投資はやっていません。いい暮らしができるのは、USBを高額で販売しているからです」(大城さん)
1年半近く関わった大城さんは罪悪感を覚えるようになり、組織から抜けた。
前出・青木さんは現在もUSB購入で借りた学生ローンの返済を続けている。青木さん同様、大きな借金を負った被害者の多くは20代前半の大学生。組織の幹部の多くも20代前半の若者というのだ。
現在は閉鎖されている会社Iの幹部、M氏宅を訪ねた。東京・赤坂のハイグレードなアパート。I社の前はK社という社名だったが、1年足らずの間に社名変更している。
取材趣旨を告げると、
「いま、忙しいので……」
とインターホンを切り、以降出ることはなかった。その後、「直接会って話したい」との連絡もあったが音さたなし。
ほとんどの人が子どものころにマネー教育を受けることなく育つ日本の若者に、組織の関係者は「最高の狩り場」と黒い本音をのぞかせる。
子どもが“USB詐欺”被害に遭いそうになったら、どのように阻止すればいいのか。
別の組織の幹部(男性20代)は、
「特に狙われるのは大学3年。成人して自分で契約ができるようになった人です。お子さんの帰宅が遅くなった、ビジネスや投資の話を急に始めたり、“就職しないから”とか言い出したら注意。親御さんには、そういう詐欺が大学生の間で広まっていることを知ってほしいですね」
しかし、被害を訴えきれない事情もある。というのも、
「学生ローンで嘘をついてお金を借りている。それが詐欺罪になれば逮捕されるかもしれないし、どこにも相談できない」(前出・大城さん)
友達の人生をも狂わせる“USB詐欺”に、捜査のメスが入ることはあるのだろうか。