住宅街の風景に溶け込む「コメダ珈琲店 松風店」。郊外にある大型店のイメージが強いコメダだが、発祥地の名古屋にはこんな店も残る(筆者撮影)

「名古屋発の喫茶店・コメダが全国制覇を達成」

雑誌の記事タイトルふうでは、こうなるか。国内店舗数で835店(2019年2月現在)を展開し、「スターバックスコーヒー」「ドトールコーヒーショップ」に次ぐ国内3位の「コメダ珈琲店」が、2019年6月、青森県への出店を予定している。開店すれば全47都道府県を制覇することになる。

1968年に名古屋市の下町・西区で開業した個人経営の喫茶店が、半世紀でここまで拡大した。この間、創業40年の2008年に、創業者の加藤太郎氏が保有する全株式を投資ファンドに売却した。当時の店舗数は300台、以後、10年で約500店を上乗せした。

急拡大するコメダを発祥地の「名古屋人」(愛知県民を含む)はどう見ているのか。長年営業する加盟店を訪問し、各地で利用者の声を聞いた。

住宅街の中にある一軒家

土曜日の朝8時すぎ。名古屋市昭和区の住宅街にある「コメダ珈琲店 松風店」は、20数席の座席がほぼ埋まっていた。事前に来店目的も告げず、単独でアポなし訪問をした筆者だが、1つだけ空いていた4人掛け座席に案内された。その後にグループ客が来店すれば移動を求められたかもしれないが、空いている以上、そうしないのも流儀のようだ。

周囲を見渡すと高齢客が多い。大半の人が手にするのは新聞や雑誌だ。1人を除いてスマホを見る人はいない。隣の年配夫婦は、夫が中日スポーツ、妻は週刊誌だった。ちなみに全席が喫煙可。長年喫茶店取材をする筆者も、久しぶりに見る“昭和の風景”だ。

松風店の開業は1983年12月で、今年で36年になる。店主の伊藤達也さん・博子さん夫婦がずっと切り盛りしてきた。かつては従業員を雇ったが、営業時間を7時から16時に短縮した現在は週に数回、近くに住む娘さんが手伝いに来るという。


松風店が預かる、常連客の「コーヒーチケット」(筆者撮影)

「この店の8割ぐらいは常連客です。今の時間は、近所の人がモーニングをとりに来店する。今日はもう少しするとグループ客が来る日。ほとんどの人が顔なじみだね」

作業をしながら話す達也さんに、飲食を作る博子さんが「これはバターなしだから××さん(常連客)のトーストね」と声をかける。名古屋喫茶らしいのが、常連客の「コーヒーチケット」(回数券型の割引券)をボトルキープのように預かることだ。

コメダの成長要因の1つは、この“ご近所ぶり”だ。朝のモーニングサービス時間帯は、常連客が「いつもの」と注文すれば、無料でつくトーストを「Aさんはバター少なめ」「Bさんは耳切り(パンの耳を切る)」「Cさんはよく焼き」(少しこんがり焼く)というように常連客の好みで提供する。口を開かず、表情で注文するお客もいる。

「交通安全活動」参加後に立ち寄る

学生アルバイトの多い別の加盟店では、プレートの両側に、こうした注文パターンを20種類ほど用意する店もある。カウンターの中で飲食を準備する店員、外で接客する店員の双方が理解できる仕組みで、女性店主の発案だ。この店では、ゆで卵もバラ売りする。

名古屋では、会社や自宅にお客が来ると「喫茶店に行こうか」と連れ出すことが多い。この連れ出し文化に応え続けたことで、「コメダに行こうか」の存在となった。

「今日は『ゼロの日』なので、終わった後にココに来ました。私はまだ通い始めて10年ぐらいだけど、この人は長いのよ」

松風店に自転車で来た女性客2人(70代)は、穏やかな表情で話す。「ゼロの日」とは、名古屋市が行う「交通事故死ゼロを目指す日」のことで、ボランティアで活動を続けているそうだ。地域活動の終了後に自転車で訪れる姿に、ご近所ぶりが表れていた。


コメダ2号店として今も営業を続ける「コメダ珈琲店 高岳店」(筆者撮影)

クルマ社会の当地の大動脈・名古屋高速に近い場所に、古めかしい3階建てのビルが建つ。その一角にあるのが「コメダ珈琲店 高岳店」だ。

経年変化した外観にも情緒がある。コメダの2号店として開業したのは1972年。1号店はビルの老朽化に伴い、2014年に閉店したので、開業47年の高岳店は「現存する最古のコメダ」だ。こちらも店主の伊奈信光さん・信子さん夫婦が長年切り盛りする。

コメダの主力商品「コメダブレンド」は、工場で一括製造したもの(液体)を毎日各店舗に配送。店ではそれを温め直して提供する。誰が淹れても、どこで飲んでも同じという「均質化」、提供の「迅速化」にこだわったやり方で、すでに40年の歴史がある。

注文後に挽いた豆でコーヒーを淹れる

だが、高岳店は違う。注文後に挽いた豆で淹れるコーヒーだ。メニューには「キリマンジャロ」や「マンデリン」もある。コーヒーのカップも他店とは微妙に違う。ブレンドコーヒーを飲んでみると「喫茶店の濃厚なコーヒー」を感じる。

実は、現在の一括製造にする前、コメダは「世界の珈琲」を掲げていた。「当時のメニュー」を見たことがあるが、ホットコーヒーだけで13種類。「ストロングコーヒー(悪魔の強さ)」「ソフトコーヒー(悪魔のやさしさ)」(いずれも200円)のほか、「カフェ・ロワイヤル」(ブランデーの炎を楽しむコーヒー、400円)という商品もあった。

ちなみに高岳店も全席喫煙可。現在の「巨大チェーン店・コメダ」とは別の存在感だ。


高岳店で注文した「カツカリーパン」と「コーヒー」(筆者撮影)

筆者は以前から、本拠地の名古屋で「コメダの評判」を聞いてきた。当初は巨大チェーン店ゆえ、地元で反発する声も多いと予想したが、違った。

どこか誇らしげな人が多く、コメダの動向をSNSで発信する人も目立つ。名古屋弁で言うと、「コメダも大きなったな〜」という思いか。実は、名古屋人は「ここから出ていって成功した」事例が好きだ。「今の日本は、ここから出ていった織田信長(安土)と豊臣秀吉(大坂)と徳川家康(江戸)によって築かれた」を熱く語る人もいる。

そこまでいかなくても、今年春の選抜高校野球に出場して優勝した「東邦高校」(名古屋市)を応援する地元感情のようなものか。

全国制覇目前のコメダだが、筆者は、大きな曲がり角を迎えたと思う。


「高岳店」の店内(筆者撮影)

10代からコメダに行っていたという建設関連業の社長(50代)は「最近はコメダにほとんど行かない。業界団体の会合など、大人数で集まるときに利用する程度」と明かす。

別の取材で会った人の中には、「コメダはコーヒーがおいしくないので行かない」(50代の管理職)という声もあった。実は近年、筆者のもとにはこうした声が増え、地元名古屋でも高まってきた。長年、コメダに通い続けて習慣化した高齢者には支持されるが、その下の現役世代に“コメダ離れ”が目立つのだ。

仕事柄、スペシャルティコーヒーを追求する専門家も取材するが、この人たちからは「スタバのコーヒー」を論評する声は聞くが、「コメダのコーヒー」の話は出てこない。

「コーヒーの飲み方」も変わった

2014年頃から、同社は「昔から変わらないのもコメダらしさ」を見直し、「季節のシロノワール」など看板ブランドの活性化に取り組み、一定の商品リニューアルに成功した。

一方、「コメダブレンドは濃厚なフレッシュ(コーヒークリーム)とシュガーの両方を入れるのがオススメです」を掲げ続ける。だが、平成時代にブラックで飲むことが一般的になった消費者への訴求としては、時代遅れ感もある。喫茶市場の2割の市場規模に達した「コンビニの100円コーヒー」も、多くの人はブラックで飲む。

「ウチのコーヒーは誰でも親しめる味。コーヒー通を相手にしていない」という幹部の声も聞いてきた。それはわかるが「コメダブレンド」の基本設計を見直す時期に来ていると思う。3大チェーンのスターバックスにもドトールにも、全店のコーヒーの味を決定する“スペシャリスト”がいるが、コメダにはこうした「造詣の深い社員」もいない。


名古屋市内を歩くと「コメダ」店舗をよく目にする(円頓寺店、筆者撮影)

企業現場を長年取材すると、企業規模の拡大とともに「社内に職人気質の社員が減り、サラリーマン気質の社員が増えた」例を多く見てきた。コメダも例外ではない。例えば、ある地方店の責任者を取材した際、「近くの××(取材時は実名)という人気チェーン店に行ったことはありますか」と聞いたところ、その店の存在すら知らなかった。

現在のコメダ加盟店の“新規出店料”は1億円が相場だ。そのため個人オーナーではなく、企業がオーナーになる事例が増えた。どちらがいいかは一概に言えないが、「自分の城の城主」(個人経営)と、「会社に雇われて働く店長」(企業経営)では温度差があるだろう。

5年連続最高益「だから大丈夫、何も問題ない」か?

だが後戻りはできない。「変化への対応」と「持続する企業体」のバランスで、どう巨大チェーン店を安定運営するか。運営するコメダホールディングスの業績は好調で、4月10日に発表された2019年2月期決算では「5年連続で過去最高益を更新」した。

「だから大丈夫、何も問題ない」と考えるか、「このままではダメになる」と考えるか。

その舵取りを誤ると、800店超の巨大船団の船底に穴が開き「不満の声」が浸水する。長年取材する立場では、せっかく成長した企業体が凋落する末路は見たくない。今後もより成長する姿を見続けたいものだ。