浦和レッズを支える広告代理店から学ぶ、PRの視点と地域との繋がり
スポーツビジネスで活躍するための最速講座として、2010年からスタートした「MARS CAMP(MARSキャンプ)」は現在、第17期目を迎えています。2018年12月16日(日)の学生コースでは「スポーツの可能性を探る! 〜広告・PRの視点〜」をテーマに、約2時間の講義が行なわれました。
Jリーグ・浦和レッズをはじめ、埼玉県内のスポーツ団体を支える企業が明かす、プロスポーツチームの広告・PRの裏側とは。株式会社ランドガレージ取締役の江口智也氏が明かしました。
JリーグNo.1のマーケットの活用法を提案
ランドガレージは、埼玉県のスポーツチームを中心に、セールスプロモーション企画、企業のキャンペーン、スポーツプロモーション、イベント運営、デザイン制作、ウェブ制作、SNSを活用したマーケティング、サッカースクールのコーチ派遣など、多岐にわたる事業を展開している。Jリーグ発足期に「埼玉にプロサッカークラブを誘致しよう」という運動を基盤に設立され、「中からではなく外から支える」形態として現在に至っている。
江口氏は2年間のイギリス留学を経て、株式会社ランドガレージへ入社した。浦和レッズのスポンサー営業からプロモーション企画、選手を起用した広告撮影やサッカー教室運営などを担当している。また、サッカー関連のみならず、さいたま市で開催されている自転車競技の大会「ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」のスポンサーセールスや小口協賛事務局、県内スポーツチームの合同組織「プライドリームス」の運営など、スポーツを軸に広範囲にわたって活動している。
その中で浦和レッズとの関わりは、下記の4つの事業がメインとなっている。
1.試合のイベント運営、サッカー教室の事務局等を行う委託事業
2.スポンサー営業、契約の広告代理店としての関わり
3.スポンサーの広告、グッズ制作、キャンペーン、イベントなどに携わる広告代理店としての機能
4.スポンサー企業からの委託事業
ランドガレージが通常の広告代理店と大きく違う点として、江口氏は「パートナーであるスポーツ団体が多くあること」を挙げた。「ここまでスポーツの領域を広げている広告代理店はあまりないのではないか」と江口氏が言うように、ランドガレージでは浦和レッズをはじめ、埼玉県のスポーツ団体と広く提携している。
浦和レッズは、Jリーグの中でNo.1のマーケットを誇っている。他業態と比較しても、東京ディズニーリゾートと肩を並べる集客だ。しかも、多くのクラブがチケットの割引や無料招待などを行なう中で、浦和レッズはそのような施策を取っていない。チケットを元値で販売しながらも、毎試合のように集客を確保できていることがクラブの強みとなっている。
チームの年間収入は約79億円(2017年)で、その内の多くの割合を占めているのが広告収入と入場料である。浦和レッズには約80社のパートナー企業がついており、上からトップパートナー(数億円以上)、オフィシャルパートナー(数千万円以上)、プレミアムパートナー(数千万円)、ファミリーパートナー(数百万円以上)と、カテゴリーによって契約内容が異なる。
浦和レッズの商材としては、主に広告看板による露出や、選手の広告としての活用、スタジアムイベントなどによる企業プロモーション、社会貢献(サッカー教室)などが存在する。企業の課題をクラブの保有する権利でいかに解決していくか、スポーツの活用方法を明文化している。その中で株式会社ランドガレージでは、クライアントに合わせて浦和レッズの活用方法を提案していきながら、形にしていく仕事を行なっている。
スポーツによる地域活性化の一端を担う
JAさいたまグループは浦和レッズと提携して、埼玉県産のお米をPRするキャンペーンを行っている。年に一回「ライフスポーツセミナー」と題して、現役選手も参加するサッカー教室と、栄養セミナーを交えた“食育×サッカー教室”のイベントを実施している。
また、選手を起用した埼玉県産のお米のPRポスターも作成し、県内のスーパーなどに掲示している。これらは地元との関係性の向上と、CSR(企業の社会的責任)の展開を目的とした取り組みとなっている。
その他の展開として「ファンファンレッズ」というサイトも存在する。浦和レッズのパートナーのキャンペーン情報サイトとして、スポンサーとのタイアップ企画などをサイト上やメールマガジンで配信している。企業がスポンサーをするメリットを創出しやすいコミュニティーづくりを「ファンファンレッズ」を通して展開しているのだ。
県内のトップスポーツチームとの関わりの中には、「プライドリームス埼玉」という取り組みもある。浦和レッズや西武ライオンズをはじめとした9チームが力を合わせ、アクションを起こすために設立された。年に2回ほどスポーツクリニックやトークフェスティバルを実施するほか、各スポーツチームの横の繋がりを強化し、自治体も巻き込みながらスポーツを通した社会貢献活動を行なっている。
さいたま市は埼玉スタジアム、さいたまスーパーアリーナなど、多くの“箱”を所有しており、これらを活かしてスポーツ観光市場を創出することによって、スポーツによる地域活性化を目指している。その実現のために「さいたまスポーツコミッション」を組織し、スポーツイベントの誘致と、開催の支援を行なっている。
あのツール・ド・フランスの名を冠した自転車競技イベント「ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」は、2013年に初開催し、約20万人を動員した。現在は年に1回のビッグイベントとして定着している。ランドガレージは、このような埼玉県のスポーツ産業に幅広く携わっている。
江口氏は、現在のスポーツ業界をより良いものにするために「大きいクライアントを獲得すること」が重要だと言う。ヴィッセル神戸の大型補強について触れた上で「お金がなければ面白いことはできない」と、クライアントの力の重要性を説いた。そして大きなクライアントを獲得するためにも、クライアントに対してどういったメリットを教示できるかを精査することが必要不可欠になってくる。