アメリカに襲いかかるハリケーンは年々威力を増しているといわれており、2018年8月に上陸したハリケーン・ハービーの被害総額は1250億ドル(約14兆円)を叩き出し、同年10月にはハリケーン・ワラカが一夜にしてハワイの離島をまるごと消し去るという事態も発生しています。そんな中、アメリカのローレンス・バークレー国立研究所の研究員が「ハリケーンの降雨量は地球温暖化によって増加の傾向にあり、将来的には熱帯低気圧の雨量が最大30%も増え、さらに大きな被害をもたらす可能性がある」と予測しています。

Anthropogenic influences on major tropical cyclone events | Nature

https://www.nature.com/articles/s41586-018-0673-2

ローレンス・バークレー国立研究所のマイケル・ヴェーナー氏と気候科学者のクリスティーナ・パトリコラ氏は、地球温暖化がどのように熱帯気候に影響しているのかをモデル化するために、ハリケーン・アンドリュー、ハリケーン・カトリーナ、ハリケーン・マシュー、ハイヤーン台風など、現実に発生した熱帯低気圧の形成・上陸・風速をスーパーコンピューター上にシミュレートしました。

以下のムービーは、実際にハリケーン・カトリーナの上陸をシミュレーションした様子。カトリーナの軌道は赤い点で示されています。

Simulation of Hurricane Katrina at 3km resolution - YouTube

ヴェーナー氏とパトリコラ氏は、スーパーコンピューター上のシミュレーションの精度を確認した後、地球温暖化の影響がなかった場合を仮定して、今よりももう少し涼しい気候で15の熱帯低気圧のシミュレーションを再実行しました。なお、1つのテストにつきセットアップに数週間、シミュレーションの実行に丸1日を必要とするそうで、かなり時間のかかるプロセスだとのこと。

シミュレーションの結果、温暖化の影響によって、ハリケーン・カトリーナ、ハリケーン・イルマ、ハリケーン・マリアの平均降雨量が4〜9%増加したことがわかりました。また、風速や海面の圧力には気候変動の影響がほとんど見られないことがわかりました。

特に、ハリケーン・イルマとハリケーン・マリアの場合、雨はハリケーンの中心域に集中していて、ハリケーン直下の地域で大規模な水害は、温暖化によって増加した降雨とハリケーンの暴風が合わさることで引き起こされていたことも判明しました。



さらに、ヴェーナー氏とパトリコラ氏は、今後予想される温暖化の影響として、現在の平均気温よりも3〜4度ほど高い状況を設定したシミュレーションを実行しました。すると、現時点では影響が出ていなかった風速も変化し、最大で時速29マイル(47キロメートル)にまで達したと、2人は報告しています。

熱帯低気圧の研究は近年急進していて、ここ数年ハリケーンや台風が大型化しているのは人間の活動による影響が大きいということが指摘されています。例えば、アイオワ大学とプリンストン大学の研究者が発表した別の研究では、「テキサス州の大都市ヒューストンがハリケーン・ハービーによる大打撃を受けたのは、ヒューストンに立ち並ぶ高層ビルが抵抗物となって降雨量の増加を促進させていたから」と論じられています。また、ヒューストンのような大都市では、熱を持ちやすいコンクリートによって気温が上がって上昇気流が発生し、降水量が増加する上に、地面のほとんどがコンクリートで舗装されていることで雨がしみこまずに水害を悪化させるという指摘も。さらに、これら複数の要素が組み合わさることによって洪水の危険性が21倍にまで増加したという調査結果もあるとのこと。



ヴェーナー氏とパトリコラ氏は「将来の気候変動が熱帯低気圧の強度と降水量を変化させ、高波・暴風・洪水・森林や生態系に関する社会的影響を悪化させる可能性がある」と論じる一方で、広範な結論を出す前により多くのモデルでシミュレーションを行う必要があるとコメントしています。